表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

drifters

少女とチョコレート

作者: カンコ

 叫ぶようにして、空になった香水の瓶を放り投げた。

何故だ、と。怒りとも悲しみとも知れぬ情動がただ疎ましく感じられ、そうするとまた、如何にもならず何にでもなく放とうとする。

 かつて自分を美しく装飾したものは、今や跡形すら残してはいない。であるのにそれは、記憶にのみ深く刻まれ、さらに自分の手にする未来は、尚一層それを浮き彫りにするのだ。


 自分の子供が、憎かった。未だ赤子であるけれども。

愛することが、分からないのだ。混在する感情は如何様にも意味を示すのだから、そうであること、愛するとはなどという問いの答えが欲しい訳ではないが。けれども、幾度も頭を抱え悶えども決してわずかな幸福にすら辿り着かず、開けた空間を赤子の泣き声のみが行き渡ろうとする様が、ただただ虚しく感じられ。

 『愛はあるか』

それは、強く抱きしめども確認出来はしない。垂れ流された汚物が糸を引き、やがて干からび崩れ落ちるように、如何にもならない、けれどもそうとしかなれない運命を背負わされているだけなのだ。ならばいっそのこと、殺してしまえば良いのであろうかなどと、従おうとも存在せぬ術を、誰か教えてくれはしないか。

 無くしたものは余りに残酷で、故に得たものが空疎に思われるから、だから如何にか取り繕うと、幾多にも貼り付け、核心の言葉すらも偽りであったかのように、さながら呪いのように。

 思い出される。

少女であった頃、大好きなチョコレートを握り締め笑いながら丘の上まで駆けて行った。そこでチョコレートを食べようと思ったのだ。だが長く握り続けていたそれは、既に溶けてしまい、無くなっていた。幼かった頃の記憶にしては、かくも鮮明でありまた、悲しげであり。

 私は、間違っていたのだ。決して愛を語りたい訳ではない。ただただ、愛が分からなかった。好きだからチョコレートを握り締めたのに、それ故に溶けて無くなってしまったのだ。愛が、分からない。私は、少女だったのだから。


 作ってしまったから。高が知れた私の人生の隙間なんぞには、到底組み込めもしないなどということは、分かっていたのに。酔えども嘆けども、腹は膨れ上がるのに、あの頃の仲間を、如何にも忘れられず。

 けれども、そう言っておきながら、作ってしまったのだ。直ぐには壊れそうにないのに。愛することなど、至極簡易な行為であると目を背けていたから。深くなど無い。極めて浅い。このままでは、再びチョコレートは溶けてしまうというのに。


 子供を乗せた車が、坂を下って行く。途中のトンネルに入ると、そこでは多くの男女が愛を交わしていた。皆同じ風な表情を浮かべ、さながら動物がするそれのように、言葉は無く。そんな中に時折、跳ねられたのであろうか、血を流し横たわる女の姿があった。跳ねぬようにと、それらを避けつつトンネルを抜けた先、周りを取り囲む烏か何かに眼球を抉られ、そのまま穴へと落ちて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 非常に拙い感想となる事をまずはお詫びします。 つまりは「何を当たり前の事を」と呆れられるような感想だと云う事です。 『恋』、『帰路が終わらない』も併せて拝読させて頂きました。 カンコ様の作…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ