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第7話

読みづらいとの指摘があり、1~5話までを改稿しています。本筋に影響はありませんが、今まで読んでくださっていた方にはこの場を借りてお詫びいたします。そして、拙い作品ながらもここまで付き合って下さったことに感謝致します。

「はぁはぁ。いい加減に、しつ、こい!」


 少女が森の中を駆け抜けていた。顔や手には藪から出ている枝などで引っ掻いたのか幾筋かの傷が見て取れた。服も脇腹や袖、ズボンの太ももの部分などをそこかしこでひっかけ破いてしまっていた。しかし、少女――弥生真衣(やよいまい)にはそれらの傷や破れを気にかけている余裕はなかった。背後からは自分を追いかけてくる男たちの藪や茂みをかき分ける音がひっきりなしに聞こえていたからである。時折男たちの怒声も飛んできていた。

 そうして10分は走り続けただろうか。真衣は視界がだんだん明るくなっていることに気がついた。


(もしかして、森の外に出れる? 一か八かだけど、助けを求めるなら街中のほうがいいはず。えーい、女は度胸!)


 そのまま真衣は走り続けて森の外に飛び出した。しかし、そこは森の外ではなかった。


(そんな……)


 真衣が森の外と思ったのは森と森の間を流れる幅の広い川であった。深さはそれほどでもなさそうであったが、流れはそれなりに急で今着ている服では躊躇せざるを得ないものであった。

 真衣が川の淵で立ちすくんでいると、後ろからガサガサと音が聞こえてきた。急いで真衣が振り返るとそこには三人の男たちが立っていた。


「ふうふう。中々手こずらせるじゃないか。その足の早さには脱帽だったぞ。ちなみにな、そこの川には(ぬし)がいる。入ると人間だろうが何だろうがぱくりと食べられちまう。どういうことか分かるか?」


 先頭にいた男が下衆な笑みを浮かべ喋り出す。その様子からは明らかに勝者の余裕が感じられた。対抗するように真衣も口の端をあげて強気の姿勢を見せる。


「さぁ、主と言われてもさっぱりだわ」


 そのまま強気に言い返すと、男──頭が不敵な笑みを見せる。


「つまりはな……、もう逃げられないってことだ!」


 二人が話している間に残りの男二人が真衣を左右から挟み込むような位置に移動していた。それを横目で確認していると、はたとあることに気付く。


「三人……。あなた達、確か四人だったわよね。残りの一人はどうしたの?」


 真衣は自分を追っていた相手の数が少ないことに気付き、懸念していた事が当たったのでは、と可愛い妹分を心配する。その心配を肯定するように頭がニヤリとして言い返した。


「お前こそ、いつの間にやら一人になっちまってるじゃないか。他に逃げる奴の音は聞こえなかったことだし、そいつは途中で隠れてやり過ごそうとしてるんじゃないか?」


 真衣は自分の考えが見透かされたことに愕然とする。しかし、表情にはおくびにも出さずにとぼけてみせた。


「何のことかしら? あの子なら私と反対側に逃げたに決まってるでしょ」


 しかし、頭は首を横に振ると、つかつかと歩み寄ってくる。


「嘘を吐くなよ。どうせお前が激しく音を立て始めたところ辺りに隠れているんだろ。安心しろ手下の一人が捕まえて先に楽しんでいるからよ」


 先に楽しんでいる。その言葉の意味が真衣には理解できなかった。否、理解することを拒んでいた。


「ど、どういうことよ」


 震える声で問い掛けると、右手にいた男──四作がにたにた笑いながら説明してきた。


「楽しんでいると言ったらやることは一つしかないだろ。安心しろ。すぐに一緒によがらしてやるからよ」


 四作の言葉に真衣は分かりたくなかったことを理解してしまい、その場にへたり込んでしまう。それを見た頭は観念したと思い込み四作と五郎に向かって顎をしゃくる。合図を受けた二人はすぐさま真衣に飛びつき、乱暴に上着をビリビリと破いていく。


「きゃああああああああああああ」


 真衣は悲鳴を上げて、胸を隠そうとする。しかし、その腕を四作と五郎がそれぞれ掴み上げて邪魔をする。結果として、真衣の胸は白日の元に晒されることとなった。


「なんだぁ、こりゃ」


 そこで五郎が真衣の胸に付けられていたブラを見て素っ頓狂な声を上げる。四作も声こそ上げなかったものの、五郎と同じく首を傾げていた。そこに頭から怒声が届けられる。


「馬鹿野郎。首を捻ってないで、さっさと全部剥きやがれ!!」

「へ、へい」


 男たちの手がブラに伸びる。真衣はこれから自らの身に降りかかる不幸に嘆き、きつく目を瞑って歯を食いしばった。


(あぁ、こんな奴らに……。神様……、助けて!!)


 その時、声が響いた。


「待て!!」






 時間は少し(さかのぼ)り、未だ真衣が男たちから逃げ回っていた頃、その後を追って一人の男が疾走していた。


「これはまたご丁寧に道を切り開いてくれているな」

『我々のことは相手にとって予想外だからな。まさかこの道を使う者がいるとは思ってなかったのだろう』


 男――睦月彰一(むつきしょういち)が独り言のように呟くと、それに呼応するように別の声が響きわたった。その声は彰一の腰に佩いてある刀から発せられていた。

 刀の銘は『風鳴(かざな)り』といい、"知性ある剣"と呼ばれる存在で彰一の長年の相棒であった。豊富な知識を蓄えており、また神力と呼ばれる力を用いて様々な術式を使いこなす風鳴りは"知性ある剣"の中でもとりわけ稀有な存在であった。ただし、普段は彰一がいくら頼みこんでも術式を行使することはなかった。が、しかし今は如月涼子(きさらぎりょうこ)から頼まれた人助け、それも迅速な行動が要求されるということで、彰一に付与術式を用いていた。

 走り続けていると、遠くから人の声が聞こえてくるようになった。


「む、これは……男の声か?」

『そのようだな。おそらく、あの如月という少女が言ってた者たちではないか?』

「まだ遠くだが……。どうにも嫌な予感がする。急ごう」

 

 彰一はかすかに聞こえてきた声に焦りを覚え、更に速度を上げて走り出す。そして、森の中が段々明るくなってきていることで、森の外に出ようとしているのに気が付いた時であった。


「きゃああああああああああああ」


 森の外から女性の悲鳴が聞こえてきたのは。それを聞いた彰一は血相を変える。


「風鳴り、このまま行くぞ」

『止むを得まい。支援は任せろ』


 そうして、森をそのまま走り抜けた彰一の目に飛び込んできたのは服を破られた少女と、下着と思われる物(ブラ)を取り外そうとしている男たちの姿であった。反射的に彰一は何の策もなしに声を張り上げていた。


「待て!!」


 森から突然現れた第三者の存在に驚いたのは頭を含む男たちであった。しかし、頭はすぐに立ち直ると男を睨みつけて四作と五郎に指示を出す。


「五郎、女を押さえておけ。先に味見をするなよ。四作、お前は俺と一緒にあの男を排除するぞ」

「へ、へい」

「くそう、五郎の奴、ずりぃ」


 四作はブツブツ言いながらもすぐに頭のそばに近寄り斧を構えて戦闘体勢を整える。頭のほうはすでに構えをとっており準備は万全であった。


「おら、行くぞ!」


 頭が号令をかけると同時に二人は自分たちの邪魔をした彰一に向かって突っ込もうとした。が、それよりも一歩早く彰一のほうが動いていた。


「遅い! 天羽(あまは)流奥義飛燕(ひえん)!!」


 彰一は男たちに対して腰を落とし、まだ距離があるにも関わらず抜刀する。その動きはさながら居合い抜きのようであった。


「ハッ! どこで振るってる。怖じ気づいたか」


 頭が彰一の行動を馬鹿にするが、当人はその野次に構わず抜刀したまま駆けだしていた。途中、頭は彰一が自分に向かって来ているのに勘づき、ほくそ笑む。後ろからは五郎が何か叫んでおり、また真衣の方からも悲鳴が上がっていたが、気にすることなく彰一と対峙する。


(馬鹿め、俺を相手にしている間に四作に殺されてろ!!)


 彰一はそのまま頭に大きく刀を振り上げながら近寄る。そして、駆けた勢いのままに刀を振り下ろす。頭は想定していたよりも早い動きに度肝を抜かれながらも、咄嗟に斧を掲げて防ごうとした。


(よし、ここで防いだら後は四作がこいつをぶった切、るだ……け……だ……)


「きゃああああ」

「頭ぁ!」


 その光景を見ていた真衣が悲鳴を上げる。五郎も真衣を押さえつけることを忘れて叫んでいた。

 彰一が振るった刀は掲げられた斧ごと頭を切り裂いていた。切断面からは血が噴水のように噴き出し、辺りは血の海と化していた。また、四作のほうはというと、彰一が近付く前に抜刀したときの技『飛燕』で作られたカマイタチで上半身と下半身に切断されており、こちらも血の海を作っていた。彰一は噴き上げている頭の血を避けたあと、五郎に視線を飛ばす。


「後はお前だけだ」


 そう言うとやいなや刀を片手に五郎と真衣に近付いていく。その姿は死神のように見え、五郎は咄嗟に真衣を盾にしようと前に突き出す。その乱暴な扱いに真衣の口から悲鳴が漏れる。


「きゃ」


 その悲鳴に構わず彰一に向かって叫ぶ。


「来るなぁ! こ、この女がどうなってもいい──」


 のか、と言葉を紡がれることはなかった。押さえつけていた腕の圧力も急になくなり、真衣が不思議に思って振り返ってみると、五郎の額には長さ20センチほどの小刀が突き立てられていた。


「いやあああああああああ」


 再三悲鳴を上げ、五郎を突き飛ばす。突き飛ばされた五郎はそのまま後ろに勢いよく倒れ、もう動くことはなかった。真衣は突き飛ばした姿勢のまま一歩二歩と後ろに下がり、そこで小石に躓いて腰をついてしまう。叫び疲れ、肩で大きく息をしていると、ハッと気付いたように恐る恐る振り向く。

 そこには血払いをして納刀している彰一の姿があった。彰一は納刀し終えると、真衣の視線に気付いていないかのように真衣の傍を通りすぎて倒れている五郎に近寄る。そして、額から小刀を抜きとり、懐から取り出した布で血を拭きとる。さらに鞘をかぶせると懐に仕舞いこんだ。

 そうして片付けが終わったところで、(ようやく)く真衣に向き直り頭を下げた。


「怖い思いをさせてすまなかった。あの時はこれを投げる以外に手立てが無く、て……な……」


 彰一は謝罪した後、顔を上げ弁解しようとしたところで、驚愕の色を張り付けて止まってしまっていた。その表情に真衣は思わず後ろに何かいるのかと思い振り向いて確認する。だが何もいなかったことで、一体どうしたのか、と疑問を抱いた。そしてそれを尋ねようと彰一に向き直った時、驚きの声を上げてしまう。


「えっ!」


 真衣が振り向いたその時、彰一は一筋の涙を流していたのであった。彰一はこぼれ落ちた涙もそのままに、小さく呟いた。


(ゆかり)……」

読んで下さりありがとうございます。

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