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第21話

大変遅くなりすいません。

「ねぇ、どうしてこんな()()()平野部までわざわざ出てくるのよ。街から一日もかかったのよ」


 険しい顔つきの菜月が彰一に詰め寄る。しかし、彰一は何か問題でもあるのかと不思議そうな顔を見せつつ理由を述べた。


「魔力制御の訓練をやるのだから、これくらい離れていないと街の人達に迷惑がかかるだろう」

「だから! その魔力制御なんて街中でやったって全然問題ないじゃない。どうやったら迷惑がかかるのよ!」


 その剣幕の激しさに愛理が怯え、ささっと真衣の後ろに隠れた。涼子や真衣は自分たちでは全く分からないだけに仲裁を出来ず、はらはらと成り行きを見守るしかなかった。

 5人がいる場所は永瀬の街から一日ばかり馬車で移動したところにある平野部で、獰猛な魔物こそいないが、それなりの魔物が生息している危険地帯である。あの溶解石(スライム)討伐が終わった日の翌日、すぐさま魔力制御の訓練をすることに決めた彰一達は街を出発した。しかし、二日酔いに襲われていた菜月は馬車に乗るとすぐに不機嫌そうな顔のまま毛布にくるまり横になっていた。起きた時には既に日が暮れかけていたが、馬車はまだ走っていた。そして、彰一が馬を止めた頃にはすっかり夜の帳が下りていた。

 4人(愛理を除いている)は急いで野営の準備を始め、それが終わると、夕食の運びとなった。その夕食を彰一が作っているところで流れに流されていた菜月がハッとして問い詰めにかかっていたのであった。


「言いたいことは分かるが、真衣の魔力の漏れ具合からどれぐらい力が秘められているか分かるだろ? それを考えると万が一という事もある」

「それでも、もっと近場でいいじゃない! なんで移動だけで一日費やしているのよ」

「近場だと穀倉地帯だから被害はある意味街以上になるだろうが。この平野部が一番なのさ」

「そんなの知らないわよ。明日帰れるわけもないし……最低でも3日は無断欠勤だわ。ああ、お母さんになんて言おう……」

「ああ、ねねさんには俺の方から伝えてあるから大丈夫だ。なんだかよく分からないが頑張れって言ってたぞ」

「なぁ! ……じゃあもういいわよ、ふん」


 母からの伝言の意味をきちんと理解したが故に頬を赤くした菜月はそそくさと彰一から離れた。

 二人の口論、もとい菜月の一方的な文句の嵐が終わり、真衣と涼子はほっと胸を撫で下ろした。しかし、愛理は先程までの怯えた表情のままに菜月を見ていた。


「愛理ちゃん、どうしたの?」


 それに気付いた涼子がしゃがみ目の高さを合わせて聞くと、怯えた目を菜月に向けたまま答えた。


「あのおねえちゃん、またお父ちゃまいじめるのかな?」


 愛理の思いもよらない言葉に涼子は胸をつかれる。父を想うそのいじらしさに感動しないではいられなかった。


「んー、可愛いなぁ。もうなんて良い子なの、愛理ちゃん」

「ふえ?」


 涼子に力いっぱい抱きしめられたのに驚き、今度は愛理が声を上げる。それに構わずに涼子は愛理と頬を擦り合わせた。愛理は驚きから回復できずにされるがままになっていた。

 真衣は自分の足元で繰り広げられている光景に口を緩ませる。そして、ちらりと横を覗き見た。視線の先ではばつの悪そうな顔をしている菜月が焚き火に当たっていた。

 何処か寂しげでもあるその様子に何とか出来ないかと周りに視線を飛ばす。しかし、彰一は料理に掛かりきっており、涼子も愛理とタロの相手をしていて手が離せそうになかった。仕方なしに自分で行くことに決め、菜月の元へと向かう。


倉城(くらき)さん」

「……何よ。あなたも愛理ちゃんと同じこと言うつもり?」


 呼びかけに対して棘のある返事をする菜月。幼子の言った言葉は思っていた以上に効果が出ているように感じられた。それに真衣は内心苦笑しつつも軽くフォローを入れてみた。


「いえ、愛理ちゃんはお父さん、えっと彰一さんを第一に考えますから仕方のないことだと思いますよ。」

「…………それもそうね。まあ、私もお母さんやお父さんのことでちっちゃい頃同じ事をした覚えがあるわ。大人の事情なんて分からないもんね」


 大きくため息をついて、気持ちを落ち着かせる。そうして冷静さを取り戻した菜月は改めて用件を確認する。


「それより、どうしたの? も、もしかしてしょ、彰一のこととか?」


 菜月の態度を少し不審に思いながらも、建て前として考えてきた内容を口にする。


「いえ、ただ明日から御指導してもらうのに挨拶していなかったなと思いまして。改めまして、弥生真衣です。明日からどうぞよろしくお願いします」

「え、あ、うん。あたしの名前は知ってると思うけど倉城菜月。明日から、びしばしいくつもりだからね。その、よろしく」


 礼儀正しく頭を下げた真衣にしどろもどろになりながらもそれだけを言って、プイと横を向く。あまりに子供らしい仕草にクスクス笑いながら真衣は一つだけ尋ねたいことがあった事を思い出した。


「そういえば、倉城さんて18歳なんですよね?」


 横目でちらちらと見ながら菜月が頷く。


「そうよ。この春にようやく成人したわ。それがどうしたの?」

「ただ聞いてみたかっただけというか、何と言うか……。実は私も18歳なんでちょっと気になってたんですよ。同い年なら仲良くできるんじゃないかなと思いまして」

「なんだ。同い年なんだ。ならそんな(かしこ)まった言い方しなくたっていいじゃない、ね?」

「そうですか?」

「そうそう、同じ冒険者になるんだしね。立場は対等よ」

「ううーん。ならそうします。ううん、そうするわね。改めてよろしく、倉城さん」


 はにかむ真衣に、しかし菜月はむぅと唸り声を出す。何かまだ不満があるのかなと首を傾げるもその原因に思い至ることはなかった。しかし、すぐにその理由は判明する。

  

「なんだか『倉城さん』てすっごい他人行儀な気がする。それにお母さんの事は『ねねさん』て呼ぶんでしょ。ならあたしのことだって名前で呼び捨てで構わないわよ」

「え、でもそんな……」

「あたしも『真衣』って呼ばせてもらうから、ね」


 屈託のない笑顔を見せ、手を差し出す菜月。その手に真衣はほんの少しだけ戸惑っていたが、すぐに一つ頷いて握手を交わす。そんな風にして女二人が友情を結んだその時に、彰一のご飯を呼ぶ声が耳に届いた。


「ご飯できたぞー」


 わー、きゃーと涼子や愛理が歓声を上げながら彰一の元へと駆けていく。しかし、菜月はその声に忌々しそうに呟いた。


「料理の腕がいいってどうなんだろうね、ほんと。そう思わない、真衣?」

「そうだね。なんであの人あんなに上手なのかな、困るよね、菜月」


 互いに顔を見合わせクスクスと笑いだす真衣と菜月。そして二人は彰一が作ったおいしいご飯の元へと向かうのであった。





 翌日、朝食(彰一が作ったもの)を食べ終えると、早速魔力制御の訓練を行うこととなった。彰一と涼子は別で訓練を行うということで二手に分かれていた。


「じゃあ、まずは魔力をきちんと感知するところからね。昨日聞いた話だとその辺りから全然分からないって話しだし……」

「うん、ごめんね。よろしくお願いします」

「別にいいわよ。それじゃ、まずその場に立ってみて」

「こう?」


 真衣がスッと立ち上がる。しかし、緊張からガチガチに身体を強張らしていた。それに菜月は失笑しながら助言を送る。


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。さ、肩から力を抜いて……うん、いい感じ。じゃ、目を閉じて」

「うん」


 言われた通り力を抜いて弛緩した状態で目を閉じる真衣。続けて菜月が指示を出す。


「今からやるのは魔力感知と呼ばれるものよ。魔法を習う上で真っ先に習う技術。初歩中の初歩ね。いい? 自分の体を循環している力があるはずだから、それを感じ取るの。水が体全身をぐるぐるっと回っているのを想像するとやりやすいわよ」

「循環って体を流れる血みたいに?」

「……血って全身を巡ってるの? あたしは学がないからその辺りは良く分からないんだけど。まあ水でも血でもどっちでもいいわよ。それと同じように全身を巡っている力を探ってみて」

「分かったわ」


 静かに自らの体を探っていく。菜月が言った全身を巡る力を全力で探っていく。イメージは全身を駆け巡る血の流れ。

 この時、真衣が現代日本で勉強していた知識が役に立っていた。グレリアの世界の人々にとって水が駆け巡る想像は難しい。そんな現象を見たことがないからである。故に習い始めたばかりの子供達はこの魔力感知で苦労することが多い。しかし、真衣は現代医学の恩恵で血の巡りを具体的に想像できたことから、魔力感知のコツを体得するのが早かった。


「……感じる。なんだか温かい力が私の身体をくまなく駆けまわっているのを……これが、魔力?」


 小さな呟きではあったが、それは確実に菜月の耳にまで届いていた。


「え? もう感知できたの?」


 自分の時は1週間はかかった。真衣の場合はたとえ短縮できたとしても今日中は無理だろう。そう高をくくっていた菜月は驚いた。そして、その早さに嫉妬してしまう。が、それを表に出すことはなかった。


「うん、なんだかぽわーっとしてくるね。なんかよく分からないんだけど気持ちいいわ」

「その感覚が分かるなら魔力に間違いないわね……普通なら何日もかかるんだけど、ね」


 呆れ声のまま真衣を眺める。循環している魔力を意識したからか、魔力の放出が幾分かましになっていた。


「今、魔力を感知できているなら、身体のあちこちから魔力が漏れているのが分かる?」

「ん、と……ああ、これかしら? 手足の指先と頭の方から何かが抜け出ているわ」


 真衣が指摘した箇所は菜月が感じ取れている魔力の漏れているところと同じだった。それは、つまり完璧に魔力の流れを掴めているということであった。その事実に菜月の背筋に戦慄が走る。


(こんなに順応が早いなんて……ある意味化け物ね)


 真衣が聞いたら泣きそうなことを思っていると、戸惑いの声が飛んできた。


「あの、それでこれからどうしたらいいのかな?」

「あ、ごめんごめん。それじゃあその漏れだしている所に蓋をする感じで止めてみて」

「分かったわ。やってみる」


 真衣の言葉に少しだけドキッとしながらも、すぐに次の指示をだして誤魔化した。彼女は菜月の指示に素直に従って魔力の漏れを止めようとした。

 今回もすぐに実践するのだろうな、と菜月は嫉妬と羨望の入り交じった目で真衣を見守っていた。しかし、なかなか魔力の漏れは止まらない。10秒、20秒、30秒と時間だけが経っていくが一向に泊まる気配はなかった。そして1分ほど経ったところで真衣が根を上げた。


「だめ。全然止まらない」

「あらら。ちゃんと蓋の想像はしてみた?」

「もちろん。でも、蓋をしようとしてももの凄い力ですぐにこじ開けられちゃう感じで止まらないの」


 菜月はその感想に顎に手を当てて考え込んだ。


「……魔力量がありすぎて普通の止め方が出来ないってことなのかな。でもあたしもそれ以外のやり方を聞いたことはないし。どうしよっか」

「どうしよっか、とか言わないで何か方法がないか考えてよー」


 真衣が菜月に泣き付く。しかし、菜月も良い案が思い浮かばずに困っていた。


「と、言われてもなぁ。もうこうなったら一回全部魔力を出し切って蓋を固めてみるくらいしかないかも」

「そんな方法があるの?」


 少しだけ見えた希望に縋りつくように真衣が尋ねる。それに申し訳なさそうな顔で菜月が頷いた。


「うん、魔力操作が本当に下手くそに対して使う方法だから……」

「あうう。下手くそですみません」

「いやいや! 真衣の場合は下手くそとはちょっと違うと思うわよ。それより魔力の出し方分かる?」

「ごめん。全然……」


 更に沈んだ表情で無理な事を伝えると、菜月がぷっと吹き出した。それを唖然とした表情で見つめる真衣であったが、次第に顔を真っ赤にして怒りだした。


「ちょっと、人が悪いと思っている時に笑うなんてどういうことよ!」

「あはは、ごめんごめん。なんだかすっごく深刻になっちゃってたから逆に可笑しくって。大丈夫よ真衣。あなたは他の人よりも断然筋はいいんだから気にすることはないわ」


 むすっとした表情ではあったが、真衣はなんとか気を静め、菜月の指示を待った。


「じゃあ、魔力を全て外に出してもらうんだけど、やり方を簡単に説明するわね。と言っても本当に簡単なんだけどね。魔力が漏れているところがあるでしょ? そこに流れを集中して外に吐き出すの」

「本当に簡単に言ったわね……ま、やってみるわ」

「ん、頑張ってね」


 そう言うと、真衣は目を閉じて集中しだした。それを菜月は少し離れた所に移動してから見守った。魔力を外に出すということは魔力濃度が上がるということ。菜月自身は魔力容量が高めなので魔物化の心配はあまりしていないが、万が一の事を考えて移動していたのであった。

 その変化はすぐに訪れた。真衣の手足の先、そして頭の先から漏れている魔力の量が格段に上がったのである。それはある量からは徐々に上がる程度に変わっていったが、既に漏れている量は常人には耐えられない程となっていた。


(ちょっとちょっと。これは本当に洒落にならなくなるわよ。まさか真衣がこんなに魔力を溜めこんでいたなんて……これはちょっとヤバいかも。一時中断するべきかな)


 現状に顔を青くして止めるかどうかを悩みだしたその時、遠くから魔物の咆哮が聞こえてきた。


「魔物! まさかこんなに早く魔力を感知したというの!?」


 菜月が叫ぶと同時に真衣からの魔力の放出が止まる。しかし、その魔力濃度は取り返しのつかないほどまでに上がっており、菜月ではどうしようもなかった。

 魔力の放出を止めた真衣は菜月に不安げな顔を見せていた。


「今のって何の声なの? 菜月からは魔物って聞こえたんだけど」

「そうよ。多分真衣のその魔力を見つけて貪りに来るわ。どれくらいいるか分からないけど、とにかく逃げたほうが良さそうね」

「……ねえ、菜月。あれは何かな?」


 真衣の示す先には数十頭の群れをなしている犬のような動物が見えていた。それを見た菜月は大きく目を見開いて、次いでがくがくと震え出した。


「なんで、なんであいつらがこっちに出て来てるのよ……」

「あれって何なの?」

「あれは森の狩人、雷豹(らいひょう)よ。狙われたらお母さんみたいな超凄腕じゃないと助からないと言われているわ」

「そんな……」


 菜月の言葉に真衣の顔からさあっと血の気が引いていく。そんな青い顔の真衣を菜月が叱咤する。


「まだ間に合うわ。今ならまだ逃げ切れるはず。すぐに彰一達を呼び戻して逃げるわよ」


 慌てたように言う菜月はそこであっと大きな声を出した。真衣がその声に釣られて菜月の方を振り返る。彼女は先程よりもより驚愕した顔ををていた。まだ何かあるのかと絶望的な気持ちで彼女が見ている方を見やる。すると視線の先にある一組の男性と女性の姿があった。それが誰だか分かった時、真衣は大きな悲鳴を上げていた。


「涼ちゃん! 彰一さん!」

読んで下さりありがとうございます。

次こそは早く仕上げられるよう頑張りますのでこれからもどうかよろしくお願いします

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