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僕らの見上げる空  作者: 気分屋柚汰
プロローグ
3/3

名前



高校入学当時は、いつも現実主義な私も漫画のような恋愛ができるかも、なんて淡い期待を抱いていた。



しかし、入学してから一年と半年。



かっこいいなと思う人はいても好きだ、付き合いたいと本気で思える人はいなかった。



こないだすれ違った彼もただの憧れでしかない。



「あき!次体育だよ!着替えないの?」



いつの間にか授業が終わっていたようで後ろの席に座る親友は、すでに上は体育着に着替えて下に取り掛かっているところだった。



慌ててまわりを見渡すと早い生徒はもう運動場へ向かっていた。



「ちょ、もっとはやく声掛けてよー!」



何の罪もない親友に非難の声をあげながらロッカーから体育着を取り出し着替え始める。




「だってあき読書中に話しかけると機嫌悪くなるじゃない。」



不満げにそういった彼女はすでに体育着に着替え終わっていた。



そう。私は確かに読書中に話しかけられるととても機嫌が悪くなる。



気持ちの良いお湯に浸かっているのに無理やり引っ張りだされるような気分になるからだ。



だが、



「それは日向も一緒でしょ!」



私も相当読書家だが日向だって負けない位の読書家だ。



一度どうしても話をきいてほしいことがあって無理やり本を取り上げた時に1日口をきいてくれなかった位に。




「ってあと3分しかないよ!どうでもいいからはやく着替えて!遅刻しちゃう!」




「やばっ!!」



ちょっとした口げんかになりかけたが授業開始のチャイムがなるまであと数分。



うちの学校は何故か更衣のさい男女別れずに着替える。



だから私たち女子はいつもならYシャツを着たまま体育着を着て下着が見えないようにYシャツを脱ぐという高等技術を使って着替えている。



しかし、今はそんな煩わしいことをしていては遅刻してしまう。



なので女子しかいないことをいいことにYシャツを一気にぬぎさっと体育着を着る。


下も素早く履き替えて日向が準備してくれていた体育館履きを受け取り体育館へと全力疾走する。








キーンコーンカーンコーン




「ど、どうにか間に合ったあぁー」



「いつもあきのせいで私たちぎりぎり…はぁはぁ」



「こないだのは日向がっ…!!」



息を切らし言い合いをしながら体育館に入ると列に並んでいる彼を発見した。


「急にどうしたの?」



突然黙った私を不審に思った日向が顔を覗き込んでくる。



「いや、あの…」



「チャイムなってるぞーー!!」



こないだの事を日向に話そうとすると先生のどなり声が体育館に響いたので慌てて自分たちのクラスの列に並ぶ。









準備体操は背の順なので二人組で体操をするとき1cmしか変わらない日向と必然的に組むことになる。


日向との付き合いは入学式から。



私が筆箱を忘れて顔を青ざめている時に無言でシャーペンを差し出してくれた。


それ以来いろいろと抜けている私はしかっり者の日向にお世話になりっぱなしなのだ。



「で?さっきの話の続きは?」



足をそろえて真っすぐに伸ばして座っている私の背中を軽く押しながら先ほど言いかけた話しの続きを催促する。



ちなみに私が今やっているのは前屈だ。


ほとんど直角でいくら手を伸ばしてもつま先には届かないが。


するとふいに日向は力を込めて私の背中を押してくる。


「いたたっ!!こないださ、いい感じの人みつけたんだよー」



「え!なになに恋しちゃったの!?」



日向は自分の恋愛にはまるっきり興味がないくせに人の恋愛の話は大好物だ。



「恋とかではないよぉー。ただ結構好みだった!んでね!」



今度は日向が前屈をする番なのでさっと立ち上がる。


そして日向と視線を合わせ目で彼がいる方を見るように促す。



「そこにいるんですよ彼。」




「うっそ!どこ!?」



ばっと勢いよく彼の方に振り向いた日向。



「ちょあからさまに見すぎ!!」


慌てて視線をこちらに戻させる。


「だって気になるじゃんかあー!名前は??」



「それが…わからない。」



いいなぁと思い廊下ですれ違う度に目でおってはいた。



しかし私たちの学校には名札をつけるとゆう規則はない。



上履きで学年はわかるのだが名前は分からないのだ。



「じゃあ今名前知るチャンスじゃん!」



日向の言う通り違うクラスの彼の名前を知るにはこの体育の時間が絶好のチャンスだ。



制服に名札はない。



しかしジャージには左胸に名字の刺繍が入っているのだ。



その後何度か隙を伺って彼の名字を盗み見ようと試みた。




が、結局終了のチャイムがなっても名字を知ることはできなかった。



落胆しながら教室に戻る。



「結局黒渕くんのなっっ!!」


名前分からなかったとぼやこうとしたらちょうど曲がり角ではちあわせてしまった。



黒渕くんと。



思考とともに足も停止する私。


当の本人はまさか私が今言った黒渕くんが自分だなんて知るはずもないので、こちらに視線を向けることもなく通り過ぎる。


幸か不幸かすれ違う瞬間名字を盗み見ることができた。





隈井。




それが彼の名字だった。





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