表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が神様になるまでの46の嘘。  作者: mr.iwasi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/20

9.孝太朗の闇

【後藤孝太朗の視点:絶望の合理】

「……減らないな」


グラフの曲線は、どれだけ手を尽くしても変わらない。治療も抑制も、ただの「延命」であり、終わりを先延ばしにしているに過ぎない 。救っているつもりで、実際には誰も救えていないという事実が、孝太朗の心を摩耗させていた。

「君は戦ってる。命を懸けてる。それは認めるよ」


振り返った孝太朗の瞳には、昏い闇が宿っていました。


「でもね、玉木さん。あなたは希望っていう馬鹿みたいなものを、本気で信じてるんだろ?」


「必ず救える」「誰も犠牲にしない」「未来は変えられる」 。

そんな甘い綺麗事を吐き出す玉木に対し、孝太朗は嘲笑を浮かべる 。


「君が一人守る間に、何百人が壊れていく。君の正義は、誰かを見捨てて成り立ってるんだよ!」


その怒りは、救えない現実に対する、彼なりの悲痛な叫びでもあった。


【玉木隼人の視点:静かなる決意】

孝太朗の言葉は、ナイフのように玉木の胸を突き刺した。

映し出される死亡者数は、紛れもない現実。自分の手が届かない場所で、命が消えていくことも事実 。


「……違う」


玉木はゆっくりと、けれど力強く首を振った。


「俺は、見捨てる選択をしない」


全部は救えないかもしれない。けれど、「救おうとすること」をやめてしまったら、その瞬間に世界は本当に終わってしまう。 それが、織田先生から教わった「英雄」の、泥臭い答えだった。


「救おうとすることだけは、やめちゃいけないんだ」


「――だから君は、何も変えられない」


孝太朗はそう言い残し、プロトカードを取り出しました 。

「綺麗事で滅ぶくらいなら、俺は汚れてでも進む」 。その言葉と共に、彼はかつての絆を断ち切り、闇の中へと消えていった 。



降りしきる雨の中、孝太朗はプロトカードから溢れ出す黒い霧を纏い、無機質に「素材」の回収を続けていた。

 彼にとって、目の前の光景はただの「効率的な処理」でしかなかった。


「……何の用だ。ここはもう、あんたが授業をするような平和な場所じゃないぜ」


背後から近づく足音に、孝太朗は振り返りもせず言い放った。そこに立っていたのは、泥にまみれながらも、鋭い眼光を向けてくる織田先生だった。


「孝太朗。……そのカードを置け。お前の親父が何をしてるか、全部聞いたぞ」


「……あぁ、そう。だったら話は早い。親父の邪魔をするなら、あんたも『素材』として回収するだけだ」


孝太朗はゆっくりと振り返る。その瞳は、かつて先生の冗談に笑い転げていた少年の面影はなく、深い闇に塗りつぶされている。


「無駄な時間を過ごすのはやめて、さっさと避難所にでも隠れてろ。……ゴミの分際で、俺の邪魔をするな」


織田は、咥えていた煙草を雨の中に吐き捨てた。

 教え子の口から出た「ゴミ」という言葉。そして、完全に人間を「物」としてしか見ていないその態度。織田には、孝太朗が何か巨大な嘘に塗りつぶされているように見えていた。


「……ガキが、一丁前に悟ったような口きいてんじゃねえぞ」


織田は一歩、迷いなく孝太朗の懐へ踏み込んだ。


「覚醒病だか何だか知らねえがな、目の前で腐ってる教え子を放置できるほど、俺の肝は据わっちゃいねえんだわ!」


――ドゴォォッ!!


織田の拳が、孝太朗の頬を正面から捉えた。

 プロトカードの防御膜を、気合だけで突き破るような一撃。孝太朗の身体が、濡れたアスファルトの上を転がった。


「が……はっ……!? あんた、正気か……? 俺のカードが、なんで……」


「カードが何だ! バケモノが何だ! 自分が特別にでもなったつもりか? お前はただの、道を踏み外した俺の生徒だ!」


織田は倒れた孝太朗の胸ぐらを掴み、力任せに引きずり起こした。


「いいか、後藤。親父が何と言おうがお前は人間だ。道具なんかじゃねえ。……立て、この馬鹿野郎。泣き言は、俺をぶっ倒してから言え!」


「……人間……?」


殴られた頬の熱さ。脳内に響く織田の声。

 その瞬間、孝太朗の意識の奥底で、激しいノイズが走った。

 

(なんだ……この感覚。俺は、ずっとこうして、父さんの役に立つために……)


幼い頃、父とカードゲームで遊んでいた、断片的な記憶がフラッシュバックする。

 けれど、その記憶の先にあるはずの「空白」――自分が一度死んだという事実には、強力なプロテクトがかかっていて届かない。


「……黙れ。あんたに、俺の何がわかる……っ!」


孝太朗は織田を突き飛ばし、狂ったようにプロトカードを起動させた。

 自分が「死者」であることも、「蘇生された模造品」であることも知らぬまま、彼はただ、自分を縛る「正義」という名の闇を振り払おうと、さらに暴走していく。


【小瀬栞(現在)の視点:観測】

 私は、離れた場所からその光景を震えながら見ていた。

 未来の私が持っていたデータには、こんなシーンは存在しなかった。


『――警告。後藤孝太朗の精神状態に深刻なバグを確認。……彼は、自分自身の『死』というプログラム上の矛盾に直面しようとしています』


「……先生。……止めて。後藤君が、壊れちゃう前に……」


私は、未来の記録には存在しなかった「希望」と、それを上書きしようとする「残酷な真実」の間で、ただ立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ