6.結末
気がつくと、私はまたあの「白い世界」にいた。
けれど、前とは違う。空からは灰のような雪が降り注ぎ、足元には無数の『折れた剣』や『壊れたカード』が転がっている。
「……また、あなたなの?」
目の前に、あのボロボロの制服を着た女性が立っていた。
彼女は、血に汚れた手で、割れた姿見(鏡)を磨いている。その鏡の中に映っているのは、学校で玉木君とアイスを食べて笑っている、情けないほど無垢な「私」の姿だった。
「……あんな風に笑える時間は、もう終わるわ」
彼女の声は、冷たい風のように私の鼓膜を撫でた。
「やめて。……あなたは、私の何なの? どうして私に、あんな怖い資料や、玉木君を監視する機械を渡したの!」
私は叫んだ。内気な私が、これほど声を荒らげたのは生まれて初めてだった。
けれど、彼女はゆっくりと振り返り、深淵のような瞳で私を見据えた。
「私は、あなたの『結末』。……そして、これから起こる『真実』を教えに来たの」
彼女が指を鳴らすと、周囲の白い景色が、地獄のような赤黒い炎に包まれた。
「見て。……これが、あなたが守ろうとしている日常の『三ヶ月後』よ」
炎の中で、私は信じられない光景を目にした。
まず映し出されたのは、浅倉ひよりちゃん。
彼女は、覚醒病に侵され、美しい姿を失っていた。異形の怪物へと変わり果て、泣きながら玉木君に襲いかかっている。
「……ひより、さん……?」
次に映ったのは、後藤孝太朗君。
彼は、黒い鎧を纏い、倒れ伏す玉木君の首筋に刃を突き立てていた。その顔には、親友を想う情など欠片もなく、狂気だけが宿っている。
「後藤君……嘘でしょ、あんなに仲が良かったのに!」
「……選別とは、そういうことよ」
未来の私が、私の背後に立って、耳元で残酷な事実を突きつける。
「全人類を10億人に絞り込むために、人は人を狩るようになる。親友は宿敵になり、恋人は捕食対象になる。……そして、最後には玉木隼人も...」
最後に映ったのは、雨の中。
ボロボロになった私が、息絶えた玉木君を抱きしめて絶叫している姿。……あの写真の光景だった。
「嫌……嫌ぁぁぁぁっ!!」
私は頭を抱えてうずくまった。
冷たい手。未来の私が、私の頬を優しく、けれど拒絶できない力で撫でる。
「……あなたが『小瀬栞』を捨て、冷徹な観測者にならなければ、彼は必ずこの結末に辿り着く。……彼を愛してはダメ。彼を『兵器』として完成させなさい。それが、彼を生かす唯一の道よ」
「……う、ううっ……」
視界が暗転する。
次に目を開けた時、私は自分の部屋のベッドの上にいた。
全身が、嫌な汗でびっしょりと濡れている。
机の上には、昨日から置かれたままの『Cicada』の端末。
その画面には、夜のパトロールをしている玉木君の現在位置が、冷たい光の点として表示されていた。
「……愛しては、ダメ……?」
私は、震える手でシーツを握りしめた。
玉木君は、私にとってまだ「知らない男の子」に近い。
けれど、あの夢の中で絶叫していた彼の悲しみが、自分のことのように胸を締め付けて離さない。
「……私に、そんなこと……できないよ……」
私は枕に顔を埋め、一人で声を殺して泣いた。
窓の外では、何も知らない冬の月が、静かに世界を照らしていた。
続く。




