19.君のいない、ただの明日(最終回)
「アルティメットカタストロム……! 君は、自分が何をしようとしているのか分かっているのか!」
アダバイスと融合し、神の座に就いたはずの龍馬が、初めて恐怖に顔を歪めた。玉木隼人の放つ**【アルティメットカタストロム】**の力は、もはや破壊ですらなく、世界の「定義」そのものを塗り替える概念的な暴力となっていた。
「分かってるさ、龍馬。……俺が消えて、お前も消える。……それで、全部元通りだ」
玉木の肉体は、一撃を放つごとに光の粒子となって剥がれ落ちていく。
この力の代償――それは、自分という個体の消滅。そして、旧い神である龍馬を喰らい、自らが新たな「無の神」として宇宙を再定義すること。
「やめて、玉木君!! そんなの、助かったことにならない……!」
栞の叫びも、加速する因果の渦には届かない。
玉木は一瞬だけ、銀色の瞳を潤ませる彼女の方を振り返り、声にならない口パクで「Good luck」と告げた。
刹那、世界は白一色の閃光に飲み込まれた。
――春の柔らかな日差しが、教室の窓から差し込む。
「……ん」
小瀬栞は、机に突っ伏していた顔を上げた。授業の終わりのチャイムが、心地よく耳に響く。
「栞、また寝てたでしょー。昨日、夜更かしでもした?」
「あはは、ごめん。なんか……少しだけ、眠くなっちゃって」
他愛もない友達の冗談に、栞は照れくさそうに笑う。
ノートの端には意味のない落書き。放課後、コンビニに寄り道して新作のアイスを食べる約束。どこにでもある、退屈で、かけがえのない平凡な日常。
歩道橋の上で、栞はふと足を止めた。
通り過ぎる人々は皆、自分の人生を忙しそうに歩んでいる。
「……? 私、何か忘れてる気がする」
胸の奥に、ほんの少しだけ残る違和感。
大切な何かを、誰かを、この世界と引き換えに失ったような、あたたかい喪失感。
振り返っても、そこには見慣れた街並みがあるだけ。
赤いドラゴンのカードも、銀色の瞳も、46回の地獄も、そして――自分を愛してくれた「彼」のことも。
この優しい世界を維持するために、宇宙のどこかで神として君臨し続ける「玉木隼人」という存在は、人々の記憶から完全に抹消されていた。
「……気のせい、かな」
栞は空を見上げ、眩しそうに目を細めた。
空はどこまでも青く、もうアダバイスの眼が覗くこともない。
「お待たせー! 行こう!」
友達の呼ぶ声に応えて、栞は駆け出した。
何も知らないまま。
何も思い出せないまま。
けれど、その頬には一筋の、理由の分からない涙が伝わっていた。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
mr.iwasiです。
第1話から始まったこの物語も、ようやくひとつの「完結」を迎えました。
46回という、気の遠くなるような時間をひとりで戦い抜いた栞。そして、47回目に自分という存在を宇宙の定義ごと書き換えて、彼女に「普通の明日」を贈った玉木。
書き始めた当初は、もっと甘いラブコメにするつもりだった気がしますが……(笑)。気づけば、アイスクリームを食べるような何気ない日常が、一番の贅沢に感じられるような、そんな切ない物語になっていました。
個人的には、第3話のアイスの回が一番のお気に入りです。
あの時、栞が感じていたアイスの冷たさや、玉木の不器用な優しさ。それらすべてを「忘れること」でしか彼女を救えなかった結末は、作者としても胸に迫るものがありました。
また、脇を固めてくれた織田先生の渋い背中や、闇堕ちしてもなお友情を捨てきれなかった孝太朗の存在も、この世界を形作る大切なピースでした。彼らもまた、書き換えられた世界で、自分たちの人生を歩み出しています。
趣味で始めた小説執筆ですが、レイアウトを組むように物語を構成していく作業は、デザインや展開図を考える時間と同じくらい、刺激的で楽しいものでした。
栞の隣にいたはずの少年の記憶は、もう誰の頭の中にも残っていません。
けれど、読者の皆様の心の片隅に、彼が最期に遺した**「Good Luck」**の言葉が、小さな火となって灯り続けてくれたら、これ以上の幸せはありません。
しばらくは、レビューの旅に出たり、新しいパッケージデザインを眺めたりして、次なる「覚醒」に備えようと思います。
また、別の世界、別の物語でお会いしましょう。
それでは。
Good Luck.




