17.親友
ラボの影。漆黒の霧を纏った俺は、龍馬が栞を追い詰める姿を黙って見ていた。
龍馬は悦に浸り、すべてを語った。46回のループ、栞のカードに仕込んだブレーカー、そして玉木の死が「素材」であるという事実。
「……全部、繋がっちまったな」
俺の脳内にある『アビス』の回路が、その会話を鮮明にデジタル録音していく。
龍馬は俺を「心のない人形」だと思っている。だが、彼は忘れている。俺の心は壊れても、玉木とカードで遊んだあの日の「遊び心」だけは、バグのように消えずに残っていることを。
「……悪いな、龍馬。俺は、あんたの最高傑作(人形)にはなりきれそうにない」
俺は震える指で、アビスの通信機能を開いた。
送り先は一つ。
今まさに、死地へと向かっている親友のデバイス。
【玉木隼人の視点:暴かれる世界】
アダバイスの触手が街を裂く轟音の中、俺のスマートフォンが激しく振動した。
送られてきたのは、一通の音声ファイル。
『――君がここに来るまで、実に46回も待たせてもらったよ』
『彼には死んでもらう。それが、この世界の素材を完成させるための最後の一片だからね』
スピーカーから流れる龍馬の冷酷な声。そして、栞が泣き叫ぶ声。
俺の頭の中で、バラバラだったパズルが完成していく。
「……そうか。そうだったのか、栞。お前は……一人で、何十回も……」
俺が死ぬたびに、彼女がどれだけの地獄を見てきたのか。
俺が「英雄」として死ぬことが、龍馬の描いたシナリオ通りだったということ。
身体の芯から、これまでにない激しい「怒り」と「熱」が込み上げてきた。
【玉木隼人の視点:真実の覚醒】
「……ふざけんなよ。俺の命も、栞の涙も……お前の実験道具じゃねえんだよ!!」
怒りに呼応するように、手元のレッドドラグーンのカードが、見たこともない漆黒と紅蓮の混じった色に染まり始めた。
孝太朗が送ってくれた「真実」という名のノイズが、龍馬の管理システムを内側から破壊していく。
「孝太朗……届いたぜ。ありがとな。……あとは、俺が全部ぶっ壊す」
【未来の栞の視点:絶望の中の光】
力を失い、床に這いつくばっていた私の耳に、遠くから凄まじい咆哮が聞こえた。
それは一周目のレッドドラグーンとも、二周目の黄金の炎とも違う。
すべてを拒絶し、運命を焼き尽くすような**「反逆の炎」**。
「玉木君……?」
「無駄だ、栞君。彼のカードも、私のシステム下にある。怒ったところで結末は変わらな――」
余裕の表情を浮かべていた龍馬の言葉が止まる。
ラボのモニターが次々と爆発し、エラーメッセージが真っ赤に染まった。
【WARNING: SYSTEM OVERWRITE BY SUBJECT: TAMAKI HAYATO】
龍馬が落としたはずのブレーカーを、玉木の「意志」が力ずくでこじ開けようとしていた。




