16.計画通りのシナリオ
46回目の世界。
私は、ロストナイトが始まる直前のラボにいた。
これまでの経験から、龍馬がどのタイミングでアダバイスを呼び出し、どの回路で孝太朗君を制御しているかはすべて把握している。
「……後藤龍馬。これで、終わりよ」
私は銀色の瞳を光らせ、サムライクロックを構えた。
これさえあれば、彼の陰謀が成就する前に時間を止め、すべての「起点」を消去できる。
【後藤龍馬の視点:支配者の嘲笑】
龍馬は、迫りくる栞を前にしても、椅子に深く腰掛けたまま動じなかった。
その手には、古びた、しかし精密な小型のリモコンが握られている。
「小瀬栞。……いや、『未来から来た観測者』と呼ぶべきかな。君がここに来るまで、実に46回も待たせてもらったよ」
「……何ですって?」
私の動きが止まる。龍馬の口から出た「46回」という数字。
それは、私しか知り得ないはずの地獄の回数だ。
「君は勘違いしている。プロトカードという技術は、私が作り出したものだ。……そして、君が頼り切っているその『サムライクロック』。……そのタイムリープ機能の根幹に、私が『ブレーカー』を仕込んでいないとでも思ったのか?」
【未来の栞の視点:沈黙する時計】
「嘘よ。……そんなはず……!」
「試してみるがいい。……スイッチ、オフ」
龍馬が親指でリモコンを押し込んだ。
カチッ、という小さな音が、ラボの静寂に響く。
その瞬間、私の全身を支えていた銀色の光が、電球が切れるように唐突に消失した。
構えていたサムライクロックのカードが、どす黒い煤のような色に変わり、ただの紙切れとなって床に落ちる。
「あ……がはっ……!!」
カードを通じて供給されていた膨大な魔力が逆流し、私は膝をついた。
身体が重い。タイムリープの代償でボロボロになっていた肉体が、カードの補助を失い、一気に悲鳴を上げ始める。
【後藤龍馬の視点:絶望の宣告】
龍馬はゆっくりと立ち上がり、私を見下ろした。
「君が何度も過去に戻り、私の計画を邪魔しようとするたびに、私はその『データ』を収集していたのだよ。君のリープは、私の研究を加速させるための最高級のシミュレーションだったわけだ」
彼は私の足元に落ちたサムライクロックを、無造作に踏みつけた。
「感謝するよ、栞君。おかげでアダバイスの完全な制御法が見つかった。……もう、時間を巻き戻すことはできない。ブレーカーは落とした。……君の46回にわたる足掻きは、すべて私の手のひらの上で踊らされていたに過ぎないんだ」
【未来の栞の視点:暗転】
「……そんな……。じゃあ、玉木君は……」
「あぁ。彼には死んでもらう。それが、この世界の『素材』を完成させるための最後の一片だからね」
窓の外。
46回目、いや、これまでで最も巨大なロストナイトの亀裂が空を裂く。
カードを失い、力を失った私に、もうそれを止める術はない。
龍馬の冷たい笑い声と、遠くで響く玉木君の叫び声。
私は、自分が救おうとしていた世界が、実は龍馬が仕掛けた巨大な「罠」だったことを、最悪のタイミングで知ることになった。




