14.最期の約束
空を埋め尽くす「眼」の群れ、宇宙の捕食者アダバイス。
その触手が、防戦一方だったレッドドラグーンを無残に貫き、カードが灰となって夜空に霧散した。
「……がはっ……!!」
玉木隼人の胸を、巨大な衝撃が突き抜ける。
瓦礫の山に叩きつけられた彼の身体からは、光の粒子と共に命が溢れ出していた。
もはや、銀色の力でどれだけ傷を塞ごうとしても、運命という名の「死」を止めることはできない。
【小瀬栞(現在)の視点:告白】
私は、震える手で玉木君の身体を抱き寄せた。
周囲の瓦礫を銀色の結晶に変え、誰にも邪魔されない二人だけの空間を作る。
「……ねえ、玉木君。私ね、本当は怖かったんだよ」
私は、彼の冷たくなっていく頬に自分の顔を寄せた。未来の自分の忠告も、世界の理も、今はどうでもいい。ただ一人の少女として、彼に本音を伝えたかった。
「みんなが変わって、世界が壊れていくのを見てるのが、たまらなく嫌だった。だから、私が全部止めちゃえばいいって思ったの。……後藤君も、先生も、大好きな玉木君も。このまま、誰も傷つかない世界に閉じ込めておきたかった。……ごめんなさい。私が、弱かったから……」
【玉木隼人の視点:最期の約束】
視界が、白く、遠くなっていく。
でも、栞の泣き声だけは、不思議とはっきりと聞こえた。
「……栞……。泣くなよ……。お前は最後まで……優しいんだな……」
俺は、震える指で彼女の涙を拭った。この銀色の悲しい世界を作ってまで、俺を守ろうとしてくれた彼女の「愛」が、今は何よりも温かかった。
「今まで……ありがとう。俺、栞と会えて……本当によかったと思う。……だから、お願いだ。見届けてくれ。……俺を。最後まで、生き抜いた俺を」
それが、一人の人間として、英雄として、俺が遺せる最期の言葉だった。
玉木隼人は、満足そうな微笑みを浮かべたまま、静かに息を引き取った。
【未来の栞の視点:残酷な解答と継承】
「……これが、あなたの望んだ結末よ」
絶望に打ちひしがれる私の背後に、ボロボロの制服を纏った消えたはずの未来の栞が現れた。彼女はサムライクロックのカードを私に差し出し、静かに告げる。
「これを受け取りなさい。そして、玉木君と出会う前のあの日へ戻るの。……私はここで消える。これからは、あなたが『未来の自分』として、二周目の世界で彼を導きなさい」
未来の私が光の中に消える。私はそのカードを強く握りしめ、時空を逆転させる術を起動した。
「――セット。……タイムリープ」
【二周目の栞の視点:再始動】
次に目を開けた時、そこは見慣れた、まだ平和だった頃の学校の屋上だった。
しかし、私の瞳はすでに銀色に輝き、脳内には一周目で失ったすべてが刻まれている。
「……待ってて、玉木君。……今度は、私があなたを守る番だから」
私は、何も知らずに校門をくぐる「過去の玉木君」の姿を遠くから見つめ、静かに歩き出した。
英雄を死なせないための、二周目の物語が今、ここから始まる。




