13.ロストナイト
その日は、不気味なほどに静かな夕暮れだった。
私が銀色の力で「固定」し、守りたかったはずの街。けれど、空の色が、見たこともないどす黒い紫色に変色し始めた時、私の「固定」がガラス細工のように脆く砕け散るのを感じた。
「……始まった。未来の私が言っていた、終わりの夜」
地響きと共に、街の境界線から空間が「欠落」し始める。ビルが砂のように崩れ、人々が言葉もなく消えていく。それは破壊というより、世界そのものが「素材」として回収されているかのようだった。
【玉木隼人の視点:英雄の出撃】
空に巨大な亀裂が走り、そこから無数の「眼」がこちらを覗き込んだ。宇宙からの絶対的捕食者――アダバイス。
そのあまりの巨大さに、足が震えた。本能が「勝てない」と叫んでいる。
「玉木君、ダメ! 行かないで!」
背後で、栞が悲鳴のような声を上げる。彼女の銀色のオーラが必死に俺を繋ぎ止めようとするが、俺は彼女の細い手を優しく振り払った。
「……ごめんな、栞。でも、ここで逃げたら……俺は一生、自分を許せない」
俺はボロボロになったオリジンカードを、震える指で掲げた。
「来い、レッドドラグーン! 俺たちの……俺たちの意地を見せてやろうぜ!」
【戦闘開始:玉木隼人 vs アダバイス】
咆哮と共に、紅蓮の炎が闇を切り裂いた。
ドラグーンがアダバイスの触手へと突っ込み、炎の爪でその肉を抉る。だが、宇宙の怪物は痛みを感じる様子もなく、山のような質量で俺たちを押し潰そうとしてくる。
「がはっ……!!」
衝撃波だけで、周囲のビルが粉々になる。
ドラグーンの翼が一本、触手によって無造作に引きちぎられた。
カードを通じて俺の全身に、灼熱の杭を打ち込まれたような激痛が走る。
「……まだだ。まだ、動ける……!」
視界が血で滲む。
アダバイスの無数の瞳が、俺を「ただの餌」として見つめている。
絶望的な戦力差。けれど、俺の背後には、泣きそうな顔で俺を見守る栞がいる。
「栞……見ててくれ。俺は、最後まで諦めない!」
俺は一歩、泥を噛むように踏み出した。
ドラグーンの炎が、命を削るように一段と激しく燃え上がる。
これが、この世界の最期の夜――ロストナイト。
一人の少年が、神に抗い、英雄として散るための戦いが始まった。
...終焉の時は近い。




