11.時の守護者
【玉木隼人の視点:絶対的捕食者】
空が、裂けた。
雲の隙間から覗いたのは月でも星でもない。無数の、蠢く「眼」の群れだった。
宇宙からの脅威――アダバイス。
その触手が大気圏を突き破り、街のビルを飴細工のように引きちぎっていく。
「……なんだよ、あれ。デカすぎだろ……!」
玉木は震える手でオリジンカードを掲げた。
「頼む、ドラグーン! 街を……みんなを守ってくれ!」
紅蓮の炎が天を衝き、レッドドラグーンがアダバイスの触手に喰らいつく。だが、宇宙の化け物は痛覚すら持たないかのように、ドラグーンの翼を無造作に握り潰した。
「がはっ……!?」
カードと感覚を共有する玉木の口から、鮮血が飛び散る。
攻撃が通じない。希望を注ぎ込むそばから、絶望という名の質量に押し潰される。
「クソ……ッ、引くしかないのか……! 後藤! 栞……!」
瓦礫の山に叩きつけられた玉木は、満身創痍のドラグーンをカードに戻し、煙の中に身を隠すように退却を余儀なくされた。
【未来の栞の視点:沈黙の守護者】
逃げ延びた先、廃墟となった地下鉄のホーム。
荒い息を吐く玉木の前に、カチリ、カチリと「時を刻む音」が響いた。
暗闇から姿を現したのは、巨大な歯車を背負った甲冑の武者――プロトカードの化け物**『サムライクロック』。
そして、その傍らに立つのは、ボロボロの制服を纏った未来の栞**だった。
「……誰だ? 栞……なのか?」
玉木は、目の前の少女が自分の知っている「栞」とは違う、冷たく、酷くやつれた瞳をしていることに困惑する。
「今のあなたには、勝てない。……まだ、その時じゃないから」
未来の栞は、感情を殺した声で告げた。彼女は、現在の栞が今まさに「覚醒」し、人間から遠ざかっていることには一切触れず、ただ、玉木がこれから歩むことになる「凄惨な未来」だけを突きつける。
【玉木隼人の視点:語られる終焉】
「未来……? 何を言ってるんだ。後藤はあんなことになって、空からは化け物が降ってきて……街はどうなるんだよ!」
「街は、消えるわ。……ううん、世界が『食われる』の。アダバイスにとって、この星の文明も、人の心も、ただの鮮度の良い餌でしかない」
未来の栞は、遠い目をして続けた。
「これから、かつての仲間たちが一人ずつ消えていく。……昨日まで笑い合っていた友達が、明日にはカードの中の『素材』に変わる。そして最後には、あなたと孝太朗君の二人だけが、不毛な殺し合いを続けることになる」
「……そんなの、俺が止めさせてみせる! ドラグーンがいれば……」
「無理よ。……今のままでは、誰も救えない。あなたは英雄になろうとして、一番大切なものを自分の手で壊すことになる」
未来の栞の言葉には、経験した者だけが持つ重すぎる「絶望」が宿っていた。
彼女はサムライクロックの刀に手をかけ、玉木を見据える。
「玉木君。……一つだけ覚えておいて。……これから起きることは、すべて『あなたが選んだ結果』。でも、もし一度だけ……その運命を書き換えるチャンスがあるとしたら。……その時は、迷わず私を……」
言葉の最後は、サムライクロックが発した時空の歪みに飲み込まれ、聞こえなかった。
【現在の栞の視点:覚醒の余波】
一方、地上では。
銀色に輝く瞳を持った「現在の栞」が、去っていく未来の自分と玉木の気配を感じ取っていた。
(……いいよ、玉木君。……あなたは、何も知らなくていい。……未来の私が何を言おうと、私がこの『今』を、絶対に終わらせないから)
彼女が指を弾くと、周囲の瓦礫が粒子となり、崩れたビルが逆再生のように修復されていく。
それは救済というより、**「世界の私物化」**に近い、神の如き力だった




