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ルタオを出て、小樽運河の方へ歩き始めた。志度は左手で私の右手を握って、そのまま私の右手も一緒に志度のコートのポケットの中に突っ込んだ。日はとっくに沈んでしまって、夜になっていた。
片側3車線の大きな道路が等間隔で置かれた街灯でオレンジ色に照らされていた。道路は雪で白いから、雪がオレンジ色の街灯を反射して、道路だけぼんやりとオレンジ色の世界になっていた。
さっきより、気温は下がっているのがわかった。凛とした冷たい空気が顔や耳を一気に覆った。15分くらい黙々と歩くと、小樽運河が見えてきた。運河は昼間見た景色とは違った。
私達は、観光案内所の前にある広場に着いた。広場の欄干に手をかけて、運河を見ると、青色LEDの電飾が、運河に沿って一直線に光っていた。奥に見える橋の欄干にも同じように青くなっていた。
運河の遊歩道沿いに等間隔に並んでいるガス灯も同じように青色の電飾がされていた。ガス灯のオレンジ色の光と青色LEDの淡い光が運河の水面に反射して、とても幻想的な世界になっていた。
「写真撮ろう」
志度はそう言って、携帯を取り出した。そして、私の背中に左手を回して、右手で携帯を操作して、自撮りした。
「私も」
私はそう言ったあと、自分の携帯をバッグから取り出し、志度の背中に右手を回し、左手で携帯を操作して、自撮りした。
「よし、遊歩道行くか」
志度はそう言って、私の右手を繋いで、また歩き始めた。広場から、階段を降りて、運河横の遊歩道に入った。遊歩道はガス灯のオレンジで照らされていた。間近でみる青いイルミネーションはやっぱり綺麗だった。
「なあ、日奈子」
「なに?」
「今、ふと思ったんだけどさ、俺ら、今日寝れないな」
志度がそう言ったあと、私は黙ってしまった。私はよくわからなくなった。このまま、元の世界にタイムスリップして戻るわけがないと自然に思っていたから、そのことについて何も考えていなかった。
「――日奈子?」
志度はそう言って、私の方を見た。
「嫌だよ、私。戻りたくない」
「俺もそうだよ。――だけど、タイムスリップは本来、2回寝たら戻るって言われただろ。占いのおばさんに」
「そうだけど、私は前のとき、戻らなかったよ。前の世界に」
「そうかもしれない。だけど、それが今回も出来るとは限らないだろ」
「そうかもしれないけど、私は今回も戻らないことを信じてる。――志度は信じきれないの?」
「いや、そういうわけじゃないけど、嫌なんだよ。戻るのが」
「私も嫌だよ。ずっと一緒に居たいよ。このまま」
「だけど、どうなるかわからない。だから、今日は寝ないようにしよう」
「――わかった」
私はそう言ったあと、ため息をついた。もし、これが永遠じゃなくて、志度が死んだ世界に戻るのであれば、私は戻った世界でどうすればいいのだろう。志度がいないと意味がない。私にとっての世界は志度がいないと何も起きないことはもうわかっている。おまけに17歳から人生、やり直しだ。それもたった一人で。




