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私は病院の処置室の前のベンチに座って、待っている。今回も同じだ。志度と私は救急車で運ばれた。私はどこも怪我はなかった。ただ、左腕にあざができて、少しだけ痛むだけだった。病院の廊下は消毒とビニールの匂いが混じっていた。運ばれたこの病院は古臭く、塩化ビニールで出来た床は灰色で、所々ワックスが剥がれていた。床の色の所為で、ずいぶんと暗い印象を受け、それが私の気分をさらに落ち込ませた。
しばらくして、処置室の引き戸が開いた。看護師が扉を開け、どうぞと言っていた。扉から男の人が出てきた。志度だった。私はベンチから立ち上がり、志度の方へ行った。志度の額にはガーゼがついてた。
「3針縫った」
「痛そう」
「超痛いよ。マジで」
「――生きてる?」
「死ぬかと思った。――だけど、生きてる」
志度がそう言ったあと、私は志度に抱きついた。
「――ねえ、志度。私の身代わりになるとか、私を救うとか、そういうこと、もう考えないで」
そう言い終わったあと、右目から涙が頬を伝ったのを感じた。そのあとすぐに何粒の涙が続けて出てきた。
「ごめん。悪かった」
志度は私の背中に手を回し、抱きしめた。
「バカでしょ。何回も言わせないでよ。――二人で一緒に居れたら私はそれだけで十分なの。――だからお願い」
「――わかった」
「志度。私にとって、あなたはとても必要なの。ずっと――」
そう私が言っている途中で志度は私が破裂するんじゃないかって、力で抱きしめた。志度の右腕でぐっと私の身体は、より志度の左肩へ引き寄せられた。ウールのコートの匂いがした。
「ずっと、一緒にいような」
背中で感じる志度の両手は暖かく、肩は筋肉質でしっかりと硬かった。




