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48時間後に君は死ぬ  作者: 蜃気羊


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 木で出来た扉を志度が開けると、おばちゃん二人の笑い声がちょうどこだましていた。喫茶店の中へ志度と私が入ると、笑い声は自然に満足げなトーンに落ち着いた。入り口の目の前にカウンターがあり、カウンター越しに店員のおばちゃんとカウンター席に座っている客のおばさんが話していた。


「いらっしゃいませ。いいよ。好きな席、座って」

 店員のおばちゃんがそう言った。志度は一番窓際で角の席を指差して、その方へ行った。席に近づくと、「壁側座って」と志度は言った。私は「ありがとう」と言って、壁側の席に座った。

 席に着いてすぐに店員のおばちゃんが木製のお盆に水が入ったコップを2つ乗せて持ってきた。そして、志度と私の前に水を置き、その場を去った。そして、また客のおばちゃんと話をし始めた。

「あのときと一緒だね」

「おんなじような時間だからね。おばちゃん覚えてるかな。俺らのこと」

「どうかな。気になるね」

 私はそう言ったあと、メニューをテーブルに広げた。私達は無言でメニューを見た。


「腹減ったな」

「うん、お腹すいた。今回もこれにしようかな」

 私はそう言ったあとモーニングセットを指さした。手書きをコピーしたメニュー表には、飲み物、トースト、サラダのセットと書いてあった。 

「飲み物は。――クリームソーダ?」

「そう。覚えててくれてたんだ。私がクリームソーダ好きなの」

「当たり前でしょ。俺だって、どれだけ、日奈子のこと想ってたか、これでわかるだろ」

 志度はそう言ったあと、右側に振り向き、店員のおばちゃんを呼んだ。志度はモーニングセット2つと飲み物はクリームソーダ2つにすると言った。すると、おばちゃんはちょっと待っててね。と言って、奥にある厨房へ入っていった。

「大人になったね」

「日奈子もな。日奈子がクリームソーダが好きな理由は小さい時、日奈子のお母さんが作ってくれてたからだろ。そこから好きになって、こういう喫茶店に来たら、必ず頼んじゃう」

「――すごいね。覚えててくれたんだ」


 私は涙ぐむ感覚がした。


「あぁ。それも、アイスはデカくないとダメなんだよ。ケチくさい小さいアイスはあんまり美味しく感じない」

「もう、なんか恥ずかしい」

 私はそう言って、笑った。志度も一緒に笑った。笑った弾みで、足を宙に浮かせ、右足を弱く蹴り上がった。右足がが志度の靴に軽くあたった。

「俺、実はこういうこと結構覚えてるキャラだから、気をつけたほうがいいよ」

 志度はそう言ったあと、私がさっきそうしたように足を私の左足の先にあてた。

「あ、今のお返し?」

「そうだよ。先にそっちがやっただろ?」

 志度がそう言ったあと、もう一度足を私の左足の先にあてた。志度はいたずらをしている悪くて無垢な笑顔を私に見せた。

 そうやってやり取りしているときにおばちゃんがそれぞれのモーニングセットを持ってきた。トーストには目玉焼きが乗っていて、胡椒が多めにかかっている目玉焼きからは湯気が出ている。サラダはレタスの上にトマトが乗っかっていて、レタスにはオニオンドレッシングがかかっていた。


「はいはい、もうひとつ持ってくるからね」

 おばちゃんはそう言って、トーストとサラダを置いた。その後すぐ、おばちゃんは一度カウンターに戻り、クリームソーダを2つ持ってきた。クリームソーダは大きなグラスに入っている。そして、アイスクリームはしっかりと拳一個分くらいの大きさがあり、アイスクリームとメロンソーダの境界は溶けたアイスクリームが白く濁り始めていた。

「そうそう。これ。私の好きなクリームソーダ」

「すごい嬉しそう」

「だって、やっぱり好きだもん」

「なあ、写真撮っていい?」

 志度は携帯を取り出してそう言った。

「いいよ。可愛く撮ってね」

 私はピースサインをして、志度が写真を撮るのを待った。そのあと、私も携帯をバッグから取り出して、志度の写真を撮った。

 私は携帯をバッグにしまったあと、いただきますと言った。そして、クリームソーダを飲み始めた。いつもの幸せな甘さがした。バニラアイスが程よくメロンソーダに溶けていて、メロンソーダがより濃く感じた。志度も携帯をテーブルに置き、モーニングセットを食べ始めた。

 私もトーストと目玉焼きを食べ始めた。トーストと目玉焼きは普通に美味しかった。そうして、しばらく私と志度は会話をあまりかわさず、黙々とモーニングセットを食べた。


「したらね。みっちゃん。明日も食べに来るから」

 そう言って、客のおばちゃんがお店から出ていこうとしていた。

「たえちゃん、今日もありがとう。したらね」

 店員のおばちゃんがそう言うのと合わせて、扉についてるベルの音がゆるやかに鳴った。そのあと、扉が重そうにバタンと閉まる音がした。

 志度と私は黙々と食べていた。志度は躊躇なく口を大きく開けてトーストとその上に乗っかている目玉焼きを美味しそうに食べていた。

「お嬢ちゃん、かわいい顔してるね」

 店員のおばちゃんにそう話しかけられた。

「そんなことないですよ」

 私は少し顔が熱くなった。


「いいや。かわいい顔してるよ。あんた。だけど、デートのときはお化粧したほうがいいよ。もっと美人さんになるから」

「学校サボったんで化粧は勘弁してあげてください」と志度がそう言った。 

「あれぇ。サボってわざわざうちに来てくれたのかい。それは悪い子だねぇ。だけど、ありがとう。おばちゃんは儲かるわ」

 おばちゃんはそう言ったあと、ゲラゲラと笑った。

「あんた方、どこから来たの?」

「札幌です。学校嫌になってデートしに来ました」と志度はそう言った。

「札幌からかい。それはまた、ずいぶん、学校サボって遠出してきたね。したら、大学生かい?」

「いいえ、高校生です」と私はそう答えた。

「そうなんだ。なんだか、ずいぶん大人びてるね。かわいい顔はしてるけどさ」

 おばちゃんはそう言ったあと、また大きな声で笑った。


「おばちゃんもあなた方の年齢のとき、よく学校サボってたわ。おばちゃんのときは小樽から札幌の喫茶に行って、インベーダーやりに行ったなぁ。あんた方と逆だね」

「へえ、そうだったんですね」

 私はそう言ったあと、クリームソーダを一口飲んだ。

「さっきからさ、話しながら、ちょっとあんた方、見てたんだけどさ、仲良さそうだね。付き合いは長いの?」

「いや、まだそんなに長くないです」と志度がそう答えた。

「あら、そうなんだ。いいねぇ。若いって」

 おばちゃんはそう言ったあと、カウンターに置いてあった水を一口飲んだ。

「あなたがた、すごく似合ってる感じする。いやぁ。傍から見てだけどさ、なんかいいよね。あんた達。仲良さそうなんだもん。いいなあ。おばちゃんもそういう時あったけどさ、今じゃこんなんよ」

 おばちゃんはそう言ってけたたましく笑った。一体どこがおかしいのかわからない。おばちゃんのパーマが笑うのと合わせて派手に揺れていた。

「おばちゃんもこれからですよ」と志度はおばちゃんにそう返した。

「坊っちゃん、上手いねぇ、よく言うわ。出世するよ。将来」

 おばちゃんはそう言ったあと、また大きな声で笑った。私も志度もそのあと、一緒に笑った。


「坊っちゃん、いいこと教えてあげる。お付き合いする人と長続きするかどうかって、フィーリングが大事なんだよ。フィーリングで通じ合うんだよ。だってさ、どんなに長く付き合っても合わないもんは合わないんだから。おばちゃんね、長続きする人達、当てるの得意なの。だから、信じてちょうだい。あなた達、結婚するよ」

「え、ホントですか」と私はおばちゃんにそう聞いた。

「ホントだよ。お嬢ちゃん。楽しみに待ってて、ちょうだい。ちょっと、おばちゃん、奥行って洗い物してきてもいいかい?」

「はい、大丈夫です。ゆっくりさせてもらいます」

 私はそう言った。おばちゃんはそれを聞いたあとすぐに奥の調理場へ下がっていった。


「おばちゃん、俺たちのこと完全に忘れてたな」

「うん、しかも同じようなこと言われて、びっくりした」

「俺たち、結婚するって」

「うん。結婚するって」

「本当は今すぐ結婚したい」

「――私も」

「なあ、俺と結婚してください」

「え、これってプロポーズ?」

「うん。プロポーズ」

「――指輪ないよ」

「あとで渡します。だから、お願いします」

「――生きてたらね」

 志度はそう言ったあと、右手の小指を私に差し出した。私も右手の小指を差し出し、志度の小指に絡めた。そして、指切りをした。




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