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「おまたせ」
志度は私の家のマンションの玄関の前に立っていた。
「生きてるな。日奈子」
志度はそう言って、笑った。志度は制服を着ていなかった。
「あれ、制服じゃないの?」
「学校行く気ないから、最初から私服にした。日奈子も制服脱いじゃえよ。補導されるぜ」
確かに志度の言う通りだった。両親もすでに仕事に出ていて、家には誰もいない。
「わかった。ちょっと待っててね」
「いいよ。デートの続きしよう」
志度はそう言ったから、私はすぐに家に戻った。
志度と手を繋いで歩き始めた。外はスッキリと晴れていた。水色の空が気持ちよかった。空気は氷点下なのがすぐにわかるくらい凛としていた。雪の下は氷になっていて、その上に積もった雪で何度も滑りそうになった。だから、私と志度はペンギンみたいにペタペタと靴底をあまり上げないでちまちまと歩いていた。
「滑るね」
「ああ、だけど、日奈子の手は離さないよ」
「――うん。離さないで」
私はそう言ったあと、志度に握られている右手にぎゅっと力を入れた。
横断歩道がちょうど赤になった。私と志度は自然と歩みを止め、信号を待っている。道の向かいにいつも志度と待ち合わせているスーパーが見えた。あのスーパーの前で志度は車に轢かれた。私は腕時計を見た。まだ車が突っ込む時間じゃなかった。
「ねえ」
「なに?」
「やっぱり、こっち側の道から駅に行こう」
私は左手で右の方を指さした。これでスーパーの向かい側の歩道を歩くことになる。
「え、だけど、こっちのほうが近いじゃん」
「スーパーの前は嫌だ」
「――わかった」
志度はそう言ったあと、私の手を引いて、私が指さした方へ歩き始めた。
横目で信号が青になるのが見えた。あと少しであの信号を渡っていたことになっただろう。一回目は私が滑って転んだ結果、志度を事故から救うことになった。
信号を待っていた車も動き始めた。凍ったアスファルトが朝日で照らされ光っていた。横断歩道を待っていた何人かの人たちもゆっくり慎重に渡り始めた。みんなペンギンの散歩のように慎重に、静かに横断歩道を渡っていた。
「ねえ」
「なに?」
「もうすぐ、あのスーパーの前に車、突っ込むよ」
「えっ」
志度がそう言ったあと、すぐに大きな音がした。




