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「家まで送るよ」
志度がそう言ったとき、乗り込んだ地下鉄はちょうど発車した。ドアのすぐ横の角の席に私は座っていて、志度は私の左隣にいる。車内は空席が目立った。だから、志度の隣に客は座ってなかった。車内が空いているから、みんな大体、一人分のスペースを空けて座っていた。
「吹雪いてるからいいよ。それより、明日、一緒に学校に行こう」
「いや、送るよ」
「だって、明日も早いでしょ。明日さ、駅で合流しようよ」
「いや、送っていくから」
「――わかった」
私がそう言い終わると二人とも無言になった。単調な地下鉄の走行音だけがあぐらをかいて、世界を支配しているみたいだった。沈黙の間に列車は2つの駅に停車し、発車した。トンネルの壁で光っている白い蛍光灯が窓の外で星のように流れている。
「ねえ。変なこと言ってもいい?」
私はそう言って、沈黙を破った。
「なに?」
「――明日、志度が死ぬと思うんだ」
「俺が?」
「そう。明日死ななかったとしても、明後日かもしれない」
「つまり、明日か明後日、俺が死ぬってことか」
志度がそう言った。私は志度の表情をちらっと横目で見た。志度の表情は真剣そうな表情をしていた。
「そう。両方とも交通事故。だから、志度には交通事故に遭ってほしくない」
「――そっか」
志度はそう言ったあと、横にいる志度を見ると、何かを考えているような表情をしていた。そして、しばらくしてから、志度はこう言った。
「そしたら、俺も変なこと言ってもいい?」
「なに?」
「明後日、日奈子が死ぬと思うんだ」
「――私が?」
「あぁ。明後日、死ぬかもしれない」
「――そうなんだ」
「うん。つまり、これってさ、どっちかが死ぬってことだな」
「え、どういうこと? わからない。私、わからなくなってきた」
「俺も。今日、オールしよ。学校なんてほっぽり出して」
「ダメだよ。流石に親に怒られる」
「――そっか。したら、明日学校行くふりして、学校サボろう」
「いいよ」
「いつものところで待ち合わせでいい?」
「嫌だ。それはダメ」
「うーん、そしたらどうしようかな。――俺が日奈子の家に迎えに行くよ。玄関の前で待ってて」
「わかった。いいよ」
私がそう言ったあと、またしばらくの沈黙が流れた。
「ねえ」
「なに?」
「――本当に死なないで。死んでほしくないの」
「大丈夫。死なないよ。日奈子も俺も」
「ねえ、約束して」
私は真剣に志度を見つめた。
「いいよ」
志度は私を見つめてそう言った。私は志度の瞳に吸い込まれそうになった。膝においていた私の左手の小指に志度は右手の小指を絡めた。小指と小指を結んだまま、地下鉄の窓から流れる白い蛍光灯と窓に写っている志度と私の姿を眺めていた。




