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家に帰り、またベッドに寝転んだ。そして、ぼんやりとラックに掛けた黄色いコートを眺めている。
そういえば、1回目に志度が死んだときは、志度の止血をするために黄色いコートを使ったから、すでにこの黄色いコートはなかった。
血まみれになったコートを泣きながら、燃えるゴミの袋に詰め込んで捨てた。この黄色いコートだけでもすでに前回の17歳と違う結果になっている――。
ベッドから起き上がり、机の下にしまってある椅子を引き、座った。そして、昨日年表を書いたノートを開き、ペンを持った。そういえば、志度が死んだのも前回の17歳のときと違った。私はノートに縦線を書き、前と後と書いた。
前
・志度はデートの翌日朝に死んだ
・志度が死んだ場所は駅前の待ち合わせ場所
・黄色いコートは捨てた
後
・志度はデートの2日後に死んだ
・志度が死んだ場所はファミレス近くの交差点
・コートは捨ててない
・ファミレスで志度とオールした
今、思いつくだけでこれだけ差があった。
「変わってるじゃん――」
ぼそっと呟いたけど、別に何も起きなかった。
占いのおばさんが『過去を変えることはできない』って言っていたけど、すでに私は過去を変えている――。
そのあと、すぐに『タイムスリップできたらいいのにね』と、さっき桜子が言ったことが脳内で再生された。
私はノートのページを捲り、今度は「おばさんが言ってたこと」と「実際にあったこと」と書いた。
○おばさんが言っていたこと
・過去は変えられない
・2回寝ると戻れる
○実際にあったこと
・過去は変えれた
・何回寝ても元に戻らない
「あっ」
そう書いたあと、私は気が付いた。すでにおばさんが言っているタイムスリップと違うことを私はしている。何度、眠っても一向に元の世界に戻らないし、過去は何点かは変わっている。志度が死んだのは同じ結果だけど、内容が違う。
ペンのノックを何度も押して、神経質な音を立てた。
どうなっているんだろう――。
おばさんが言っていたのはタイムスリップはツアーみたいなものだって言っていた。ツアーってことはたぶん、その時代にタイムスリップして過去に起きた出来事をショーケース越しに見ているような感覚なのだろう。
だから、過去を変えられないから、2回寝たら元の世界に戻ることが出来る。過去が変わらないから、元の世界も変わらない。
だけど、私の場合、すでに過去は変わってしまったから、元の世界の私は――。
ため息を吐いた。よくわからなくなった。そもそも、私は2日間だけタイムスリップして、志度とのやり取りを楽しんで、25歳の自分に戻るはずだった。
――というか、本当にタイムスリップできるのなら、志度を助けることができるかもしれないと思って、タイムスリップしたのに、結局、志度を助けることができなかった。
そして、25歳の自分にも帰ることができなくなった――。志度がいない、辛い人生をもう一度やり直すのなんて、もう嫌だ。
私が元の25歳の自分に戻ることが出来ないのは、もしかしたら、元の世界の私はたぶん、消滅したのかもしれない。
おばさんはそのことをタイムパラドックスって言ってた。タイムスリップして自分が生まれる前の世界で、親を殺したら、元の世界の自分も存在しなくなる。私はそれと似たようなことをしたのかもしれない。だから、タイムスリップした世界に留まり続けることができたとしか、考えられない。そして、その答えは永遠にわからない。




