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「ごめんね。日奈子のこと、ほっておけなくてさ」
「ううん。ありがとう。気が紛れるよ」
「それならいいけどさ、無理しないでね。途中で帰ってもいいから」
「ありがとう」と私はそう言った。
桜子は本当に優しいし、私のことを本当の意味でわかってくれている唯一の人物だ。小学校の時から、なぜかわからないけど、息が合う。
小中高校と、桜子は陽キャのグループにいつも属しているけど、私と二人で遊ぶ時間を作ってくれる。私は陰キャ気味で地味で少数派の友達グループに属することがほとんどだ。だから、時折、友達からあの二人が、なんで仲がいいんだろうって言われることが度々あった。
「最近は寝れてる?」
「うん。少し寝れるようになったよ」
「よかったー。寝れないのが一番キツイからね。体調的に」
「桜子、なんかお母さんみたいだよ」
「だって、気になって仕方ないんだもん。日奈子のこと」
「ありがとう。私のことよりもさ、桜子。クリスマスなのにデートしなかったの?」
「うん。彼、バイトだって。マジでありえないよね。クリスマスくらい休み取れよな。マジで」と桜子はそう言って笑った。
「そうだったんだ」
「うん。だから、私と彼のクリスマスは先週の土曜日だったの。だから、大丈夫だよ」
「そっか」
私はそう言ったあと、フラペチーノを一口飲んだ。
「ねえ、日奈子。タイムスリップできたらいいのにね」と桜子がそう言った。私は少し、ドキッとした。タイムスリップという言葉に思わず身構えた。
「そしたらさ、私が日奈子にこれから起きること伝えてね。日奈子も志度も救えるかもしれないって、昨日の夜思ったんだ」
「――タイムスリップね」
すでに私はタイムスリップしていると言えるわけがなく、私は桜子が言ったタイムスリップという言葉を返しただけだった。
「うん。――無神経なこと言ってたらごめんね。私ね、なぜかわからないけど、昨日そう思ったことを伝えなくちゃって思ったんだ」
桜子はフラペチーノを片手に持ちながら、真剣な眼差しで私を見つめてきた。どうして、こんなこと急に言い出したのかわからない。
「昨日ね、タイムマシンっていう映画観たんだ。ツタヤで借りて。それは死んじゃう恋人を助けようとしてタイムマシーン作って、タイムスリップを繰り返す話なんだけど、結局、恋人を救うことが出来なくて、タイムマシーンの操作事故で未来に吹っ飛んじゃうって話なんだ」
桜子はそう言い切ると小さく息を吐いた。私は気を紛らすためにもう一口、フラペチーノを飲んだ。
「それ観たあと、すぐに日奈子にLINEしたの」
「そうだったんだ」
「――ごめんね。やっぱり、変だよね」
「ううん。そんなことないよ」
すでに私はその変なことをやっているんだよ――。桜子。と言いたくなった。
「だからね、失った人を追い求めたくなる感情ってどの人にもあるんだって思った」
桜子はそう言ったあと、ため息をひとつ吐いた。
「でね、何が言いたいかって言うと、私は日奈子のことが好きなの」
「えっ」
一瞬、ドキッとした。
「――大好きなの。私の唯一の親友だから。だから、今は無理かもしれないけど、前向いてほしい」
「――ありがとう」
「こないだ言い忘れたんだけど、私にとって、日奈子は大切な存在だから、死なないでほしいの。だから――」
「大丈夫だよ」
私はそう言ったあと、桜子に微笑んだ。久しぶりに笑みを作った気がする。少しだけ頰の筋肉が固くなっているのを感じた。
「私は、生きるから。大丈夫」
「日奈子。――なんとか乗り越えようね」
桜子を見ると、瞳は少し潤んでいるように見えた。それを見て、私も思わず、喉がつっかえる感覚がした。




