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「ごめん。昨日から泣いてばかりだね」
私は感情の波がおだやかになってからそう言った。
「いいよ。泣けよ。泣きたいときに泣かないヤツは損するよ」
「あ、ズルい。自分は我慢して泣かないくせに」と私は笑ってそう言った。口角を上げたら、まぶたが腫れぼったくなっているのがわかった。
「日奈子のハイボール、もう氷溶けて薄まってるよ」と志度はそう言ったあと、ハイボールを一口飲んだ。
「私ね。ずっとこうしたかったの。志度と。ずっと、こうして話したり、一緒にいたかったの。ずっとね」
「俺もだよ」
「私ね、相談したんだ。苦しくて。そしたら、その相談した人が自分で道を切り開くしかないって言うんだよね。厳しいよ。――私だって、抗いたいよ。私だって。今までのことなんてどうでもいいから、今を生きたいよ。私」
私がそう言ったあと、しばらく沈黙が流れた。志度は黙って、私の次の言葉を待っているのがわかった。
「もう、戻りたくないよ。志度。ねえ、離さないって言って」
「離さないよ。日奈子」
志度はそっとした声でそう言った。私はそれを聞いたあとテーブルに突っ伏した。セーターの袖はすぐに涙で滲みた。吸い込まれそうな腕の中の暗黒は、私の意識が現実なのか仮想なのかわからない心地よさを誘った。




