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どこにも行くあてがなくて、結局、国道沿いのファミレスに入った。もう、明日の学校なんてどうでもよかった。どうせ、寝たら元の25歳に戻ってしまうんだから、17歳の私の生活なんてどうでもいい。
とりあえずドリンクバーを頼み、志度はコーヒー、私はカフェオレを飲んだ。窓側の席に座り、トラックとタクシーしかほぼ通っていない国道を眺めていた。雪は本格的に降り始めていた。
「私、眠れないんだよね」
「マジで。もしかして不眠症?」
「そう。結構前から」
「病院行ったほうがいいよ」
「もう、とっくに行ってるよ。眠剤出されてる」
「そうなんだ」
「だから、今日はさ、私が眠らないように監視して」
「いや、逆だろ。それ」と志度は笑いながらそう言った。
「いいの。今夜だけでいいから」
「ってことは、オールか」
「そうだね」私はニコッとしてそう言った。
「こういうとき、酒欲しくなるよな」
「飲めるの?じゃあ、飲もうよ。一杯おごって」
「なに飲む?」
「ハイボール」
「やるな」
志度はそう言って、呼び出しボタンを押した。
ハイボールが入ったグラスが出された。私はグラスが来るまで、未成年だということをすっかり忘れていた。店員は疑いもせず、そのまま酒を出してくれた。目の前にグラスがもうあるんだから、すでに私達の責任ではないと思った。
志度とグラスを合せた。グラス同士がゆるく触れた音がした。志度は慣れたようにハイボールを飲んでいた。私もハイボールを口に含んだ。安いウイスキーの苦味と炭酸を口の中で感じた。ハイボールを飲み込むと食道がアルコールで熱くなるのを感じた。
「お酒、一緒に飲むの初めてだね」と私はそう言ったあと、もう一口ハイボールを飲んだ。
「そうだな。日奈子と飲むと思わなかった」
「他の人とは飲んでたの?」
「まあね。俺もそういうお年頃だから」
志度のグラスはもう残りわずかになっていた。
「ピッチ早くない?」
「こんなもんでしょ」
志度はグラスを飲み干して、呼び出しボタンを押した。
「それより、俺は日奈子のことが心配だよ」
「私の心配なんてしてくれるの?」
「当たり前だろ。寝れないのはヤバいよな」
そう志度が言ったとき、店員が来た。志度はまたハイボールを頼んだ。
「もう、慣れちゃった。調子いいときは普通に寝れるし、寝れなくても、眠剤飲めば、寝れるときもあるから、まだマシなほうだよ。私の不眠は」
「そうなんだ。今まで知らなくて悪かった」
「いや、志度が謝ることじゃないよ。私、初めて志度に言ったんだから」
「俺さ、もう少し、日奈子のこと知る努力したほうがいいと思うんだ」
「十分してるでしょ」と私は笑ってそう言い返した。
「いや、してなかった。もっと一緒にいる努力とか、そういうことすればよかったって思う時があるんだ」と志度がそう言ったあと、おかわりのハイボールを店員が運んできた。
「なあ、日奈子。俺がもし、あの時、死んでたらどうなってたんだろうな」
志度はそう言って、ハイボールを口づけた。過去のことがフラッシュバックした。何か満たされないあの寂しさが胸に溢れるのを感じた。
「――寂しいに決まってるでしょ。それに苦しいよ」
「悪い。変なこと言ったな」
「志度に死なれたら困るよ、私。何も面白くない20代を過ごすことになるんだよ。目標もなくね」
私は泣きそうになるのをごまかすためにハイボールをまた一口飲んだ。
「なあ、日奈子」
「――なに」
私がそう言うと志度は両手で私の左手を握った。
「いいか、よく聞けよ。ずっと一緒にいよう。どんなアクシデントも今日みたいに乗り越えよう。そして、二人で幸せを掴もう。思いのままに」
志度の目が少し潤んでいるのがわかった。私は残された右手で志度の手をさらに握った。我慢できなくなった涙が一粒流れ出した。そして次々と涙が溢れ、頬を伝った。




