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48時間後に君は死ぬ  作者: 蜃気羊


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 占いの店の前に着いた。占いの店は一昨日と何も変わっていなかった。同じ看板が雪に埋もれながら、堂々と軒先に立っていた。私は店に入った。

 

「いらっしゃいませ。今日は相談ですか」

「すみません。タイムスリップした者です。ひとつ聞きたいことがあります」

「わかったわ。どうぞ、なかに入って」

 おばさんはそう言って、赤いサリーの裾を泳がせて、私を占い席へ案内した。

「お嬢ちゃんがタイムスリップしたってことで合ってる?」

「はい。そうです。一つ聞きたいことがあって来ました」

「そうなんだ。その前にリラックスしましょう。今、お茶出すからちょっとまってて」とおばさんはそう言って、お茶を取りにいった。

 私は大きく息を吐き出した。私が向こうの世界に戻っても、結局、何も変わらずモヤモヤしたまま、優と結婚することになる。一生、志度のことを想いながら、優との結婚生活をして、優との子供を生んで、育てることになるのかもしれない。それも悪くないのかもしれないけど、一生、心のどこかでモヤモヤしたまま、日々、過ごしていくことになるのかもしれない。

 志度はもちろん向こうの世界では故人になっていて、志度のことを想うたび、私は絶望するんだ。それなら、このままこの世界に留まって志度と二人で楽しく過ごしたい――。


 おばさんがお茶を持って戻ってきた。おばさんはテーブルにお茶を置いたあと、私の前に座った。

「私、帰りたくないんです。元の世界に」

「そう、帰りたくないんだ」とおばさんは優しく笑いながらそう言った。 

「はい。私、前の世界になんて戻りたくありません」

「そうだよね。お嬢ちゃんのように帰りたくないって相談に来る人は珍しいね」

「そうなんですね」

「だから私も少し驚いてるの。珍しいから」

 おばさんはそう言ったあとお茶を一口飲んだ。おばさんは私にお茶を勧めてくれた。だから、私もお茶を一口飲んだ。お茶はダージリンだった。前回とフレーバーが違うように感じた。


「それであなたはどうして今、ここにいるの?」

「彼に会いたくてここに来ました」

「彼には会えた?」

「はい、会えました。本当は、今日の朝、彼は死ぬはずでした。だけど、彼は生きています」

 私がそう言うとおばさんは一瞬、驚いた顔をした。私はそれを逃さなかった。 

「――だから帰りたくないんだ」とおばさんは声色を変えずにそう言った。 

「はい」

「残念だけど、それはできないと思うわ。私にはタイムスリップするお手伝いが出来ても、過去に留まることを手伝うことはできないの」

「留まることが出来た人はいないんですか?」

「そうだね。それはわからない。帰ってきた人しか私は知らないから」

「――私、帰りたくないです。帰ってもきっと、彼のことをずっと想い続けて、自分自身がものすごく辛くなるから、戻りたくないんです」

「帰りたくない気持ちはわかるよ。――だけどね、お嬢ちゃん。厳しいこと言うようだけど、人って抗えるものと抗えないものがあるの。占い師だからわかるけど、これは抗えないものだと思う。他の人にはできないボーナスだから。残念だけどね」

 そうおばさんが言ったあと、しばらく静かになった。時計の秒針だけが場を支配した。


「ただ、私が言えることは、寝ることが現実に戻るトリガーになっているということだけかな」とおばさんは思いついたようにゆっくりそう言った。 

「寝ないと帰らないってことですか」

「そうじゃなくて、単純に2回眠ったときがトリガーなんだと思うの。大体の人はタイムスリップして一夜は過ごせる。だけど、次の夜は過ごせない。それだけのことよ」

「――わかりました。ありがとうございます」

「私が言えることは、ただひとつ。自分で道を切り開いて」

 おばさんはそう言ったあと、目尻に皺を作り、微笑んだ。





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