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「だから、そろそろ帰るよ」
「――わかった」と私がそう言ったあと、志度は立ち上がった。そして、自分のコートを手に取り、コートを着て、志度は玄関まで歩いていった。
私は志度の後ろを付いて行った。志度の背中を見ていると胸が苦しくなった。私は咄嗟に志度の腕をつかんだ。
「――行かないで」
「ダメだよ。行かないとオーナーにぶっ飛ばされるよ」
「あのコンビニ、代わりのスタッフくらい、いくらでもいるでしょ」
「そうもいかないよ。バイトは学校と違うんだから、休んじゃダメだよ。迷惑かけちゃう」
「――ごめん。そうだよね」
私は右手を志度の腕から離した。
「――じゃあね。美味しかった。マジで。ありがとう」
「ううん。――また作るね。ばいばい」
「うん。ばいばい」
「――バイト、頑張ってね」
「ありがとう」
志度は笑顔でそう言った。私も自然に笑みがこぼれてしまったけど、すごく寂しい。本当は行かないでほしかった。だけど、志度はそっとドアを開けて出ていった。
志度が出たあと、私は急に力が抜けた。 玄関から自分の部屋にトボトボ歩いて戻った。
自分の部屋の床に仰向けになると涙が溢れた。バイトなんてどうでもいいから、ずっとここに居てほしかった。私はまるで明日も志度に会うかのように振る舞ったけど、もう明日、二度と志度と会えないかもしれない。
どうせ、タイムスリップは夢みたいに簡単に終わってしまう。目覚めたら、25歳の私に戻るはずだ。そして、占い師のおばさんが私を起こしてくれるのだろう。
『どう? 楽しかった?』と占い師のおばさんが慣れたような口調できっと言ってくるんだ。そして、青色のサリーの裾をひらひらとさせているんだ。きっと。
起きたら、もう終わりだ。
大きなため息を吐くと一緒に涙が何粒も溢れてきた。そして、そのまま、涙は止まる気配はなかった。
しばらく泣いたあと、私はおばさんの言葉を思い出した。
志度が生きているこの世界に留まり続けたかった。私は現実世界に帰ることがものすごく嫌になった。本当に志度のことを割り切って、優との関係を続けることができるのだろうか。私は――。
そもそも、これはタイムスリップだと聞かされていたけど、もしかしたら、タイムスリップではなく、私の中の幻想にすぎないのかもしれないと思ったら、急に寒気がした。
私は親が帰ってくる前に、私服に着替え外に出た。




