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「本当はさ、中学のときに日奈子に告ればよかったんだよ。そしたらさ、日奈子との思い出がもっとたくさんできたんだろうなって思うんだ」
「そうだね」
私はそう言ったあと、志度についた些細な嘘のことについて考えた。本当は告白されたから、付き合い始めて、すごく志度のことが好きになったのに。
――だから『私も』と言ったのは嘘だけど、志度が死ぬならもっと早く付き合っていればよかったって思った。
そう心のなかで弁明しても志度には聞こえていない。
「そうそう。だから、死ぬわけにはいかないんだよ。俺は。日奈子とこうやって何気なく過ごせる時間をたくさん作りたいんだよ」
私は、また泣きそうになった。だけど、ここでまた泣いても仕方がないのもわかっていた。私は一瞬、息を止めて、ぐっと胸に力を入れて、泣くのを我慢した。
「――私が意識し始めるのが遅かったんだよ。志度が私のこと気になっているのだって気づけなかったんだから。中学のときから私のこと、気にかけてくれたんでしょ」
「うん。日奈子のことしか見れなくなったよ。だけど、あのときの俺は消極的だった。また日奈子と隣の席にならないかなって思ってたんだもん。――俺はチキンだったな。あのとき」
志度がそう言ったあと、二人で笑った。
「その歳の男の子なら誰でもそうだと思うよ。みんななにかに気づいて大人になっていく」
「そっか」
「うん。そういうものだよ。私だって、そうだし、志度だってそうだよ。年相応にみんな進化していくんだよ。自然に」
「――だったら、俺、もっと早熟がよかったな」
「そうなの? 年相応のほうが絶対いいよ。順当に」
「順当か。――俺は単純だからさ、もっと日奈子とこうして付き合いたかったってだけだよ。だって、かわいいもん。日奈子。見てたらさ、可愛くて、ほっとけないよ」
志度が右手を力を入れたのがわかった。私の左手が少しだけギュッと破裂しそうになった。
「痛いよ、もう。力入れすぎ」
私は左手から志度の手を弱く振り払い、志度の右手の甲をとんと叩いた。
「ごめん、つい力入っちゃった。話してるうちに」
志度は、右手で私の左手をもう一度、握り直した。




