26
志度と一緒に手すりにもたれながら、アトリウムが一望できる2階の踊り場から大きなクリスマスツリーを眺めている。
カフェを出たあと、お互いに何も言わずにそのまま、アトリウムまで歩き始めた。手を繋ぐことも慣れて、志度が手を差し出したから、私は何言わずに志度の手を繋いだ。
クリスマスツリーは地下から3階くらいまでを貫いていて、クリスマス色の電飾が木をぐるぐると覆っている。それらの光の反射で赤やゴールドの大きなオーナメントがファンタジックに反射していた。
ドーム状になっている天井ガラスの中央から、青白い電飾の帯が左右に広がって吊るされている。青い光の中を時折、白い光が流れていた。だから、アトリウムの中は青白く、ツリーのカラフルな電飾が混ざり合い、淡い空間になっていた。
「ねえ、写真取ろうよ」
私はそう言って、携帯をバッグから取り出した。
「いいね」
志度は笑顔でそう言った。私は携帯のカメラを起動して、右手で志度の腰を掴み、左腕をいっぱい伸ばした。そして、志度の身体に首をもたれて、志度と私とクリスマスツリーが入るように自撮りした。
自撮りし終わったあと、手すりの後ろにあるベンチに座った。志度はベンチに座っている間も私の左手をつないでいた。
「なあ、日奈子」
「なに?」
「日奈子って最高だな」
「最高ってどういう意味?」
「最高って。――好きだってことだよ」
「――私も。最高に好きだよ」
「――照れるな」
フッと笑ったあと志度はそう言った。
「照れないでよ。好きだよ。本当に」
「なあ、日奈子」
「なに」と私が言ったとき、左肩から身体をキュッと寄せられる感覚がした。気がついたら、私はすでに志度にキスされていた。
唇が重なったまま数秒間の時が流れた。志度の唇は柔らかくて、温かった。志度はそっと唇を離した。そして、何秒間かお互いに目を見たまま、また時が流れた。志度の瞳は茶色くて、吸い込まれそうなくらい透明だった。
そのあと志度はそっと微笑んだ。
「ねえ」
「なに」
「私達、このままで居れたらいいね」
「そうだね」
「本当にそう思ってる?」
「思ってるよ」
「じゃあ、どれくらいなの?」
「それは――」と志度は一瞬、困ったような声でそう言った。
「ねえ。真面目に答えてね。くさいセリフはいらないから」
「――じゃあ、永遠」
「今、言ったね? 永遠って」
「なんだよ。――悪いか」
志度の顔が真っ赤になっていた。照れくさそうにしている志度はすごく可愛く見えた。
「永遠ってことは――」
「そう。そういうこと。私はいいよ。永遠にいても」
「――俺もだよ。日奈子」
クリスマスツリーは相変わらずファンタジックに輝いている。私は次の言葉をずっと期待しているけど、よく考えたら、まだ志度は17歳で、そんな気の利いたこと言ってくれるわけがないとふと思った。
「ねえ。きっと、私たち、上手くいくと思うんだ。私。だから、永遠にこのままで居れたらいいのに」
「永遠に居たいな。日奈子」
「うん」
私は左手で志度の右手を握った。すると志度は右手でしっかりと私の左手を握り直してきた。
「ねえ」
「なに?」
「――もし、私が死んだらどうする?」
「日奈子が死ぬの?」
「うん。私が明日死ぬとするじゃん」
「しかも、明日? ――急だな」
「うん。そうだよ。それも、志度は私が明日死ぬことがなぜか事前にわかってて、悩んでるの。どうしよう、明日、日奈子が死んじゃうって。そしたら、今、この瞬間、どうする?」
私がそう言い終わると、志度はニヤッとした。私も途中からニヤニヤしながら、隣にいる志度を見つめている。
――メンヘラって呼ばれてもいいよ。
どうせ、明日には魔法が解けるんだから。
「簡単だよ。俺だったら、日奈子が死ぬのを阻止する」
「どうやって阻止するの?」
「教えるんだよ。日奈子に。明日、日奈子が死んじゃうことを知っちゃったんだ。だから、絶対、明日は一緒に居ようって。一緒に居たら、たとえ病気で倒れても、事故に巻き込まれても救えるじゃん」
志度は得意げな声でそう言ったあと、しばらくの間沈黙が流れた。館内に流れているクリスマスのBGMが静かにゆっくりと時間を支配しているように感じた。
「――私が死ぬことを知ったら教えてくれるんだ」
「うん。死んでほしくないからな」
志度の手は温かく、血が通っていて、生きていることを実感できた。私は志度と繋いだままの手を見ながら、弱く息を吐いた。
「私もだよ。――志度にはまだ、死んでほしくない」
「俺も死ぬ気はないよ」
「――本当に?」
「うん。マジなやつ。ほら」
志度はそう言ったあと、右手の小指を私に差し出した。私はゆっくりと右手の小指を志度の小指に結んだ。
「俺さ、たまになんでもっと早く日奈子に告白しなかったんだろうって思う時があるんだ」
「私も」
私がそう言うと、志度は弱く笑った。




