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地下通路を歩き始めた。誰かに手を引かれるのは10年ぶりだった。志度の手は暖かく、ゴツゴツしていた。私はこの感覚を忘れていた。思わず泣きそうになり、再び立ち止まった。志度もすぐに立ち止まり、そして、振り返った。不思議そうな顔で私を見た。
「どうした? ――ウソ。泣いてる」
「――ごめん」
我慢できず、涙が何粒も溢れ出てしまった。私は左手で口を覆い、指を目頭に当てた。志度の顔を見ることができなかった。
「どうした。日奈子」
志度は微笑みながらそう言った。その微笑みが優しく感じ、もっと、胸からこみ上げてくる感覚がした。
志度は私の手を引いて通路の壁側へ移動した。地下街を歩く何人かの人達は私達のことを見て見ぬ振りをしていた。涙は止まらなかった。私はバッグからポケットティッシュを取り出し、ティッシュを目頭に当てた。志度は私の背中をさすってくれている。志度の手はコート越しでも温かい。
――落ち着かなくちゃ。
私は何度か深呼吸をした。深く息を吸って、すっと短く息を吐いた。2度寝たら終わってしまう夢見たいなものなんだ。
――だから、今を楽しまなくちゃ。
「ごめん。もう落ち着いた」
「――大丈夫?」
志度は私の方を覗き込み、心配そうな声でそう言った。
「――大丈夫。行こう」
私はそう言って志度の手を引いた。
志度と手をつなぎ、歩きはじめた。地下街の人混みの中をかき分け、ゆっくり歩いている。お互いに無言のままで、無数の人たちの足音をしばらくじっくり聞きながら歩いていると、だんだん、気持ちが落ち着いてきた。
「日奈子。ごめん。俺、なんか悪いことしたかな」
志度は心配そうな顔で私を見ていた。
「ごめんね」
私はなんて言っていいのかわからなくなった。まさか、10年ぶりに再会して、感激したなんて、言いたいけど、とても言えない。
「俺、鈍感だから、悪いところあったら言って。直すから」
志度の声は低くしっかりしている。ぶっきらぼうだけど、しっかりと私だけを見てくれている、そんな志度が私は好きだった。
「――違うの。デートなのに遅刻したのが嫌だったの」
「気にするなって。俺はなんとも思ってないから」
「ううん。これは自分の問題なの。ねえ、どこのお店行くの?」
「めっちゃ食えて、最高なところ。こっちだな」
志度はそう言って、出口の看板を右手の人差し指で指さした。




