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別の部屋へ移動した。そこには使い古されたダイニングチェアーが一脚置いてあった。それ以外の家具はなにもなく、この部屋だけが急にそれまでの世界観がすっぽり消えていた。窓には黒い遮光カーテンが取り付けられていた。蛍光灯が事務所の一室である雰囲気をより作り上げていた。
「大体、2日くらい過去に戻れるの。2日目の夜、寝て起きたら、ここに戻ってる感じかな」
おばさんはそう言いながら、私を椅子に座るようにと左手でジェスチャーした。私はおばさんの指示通り、椅子に座った。
「この椅子があなたを過去に連れて行ってくれるの。やり方は簡単。あなたが目を瞑ったあと、あなたの胸に私は手をあてるから。その間、あなたは戻りたい過去の断片だけを思い出してほしいの。戻りたい過去の場面がイメージできたら私に言って」
おばさんがそう言ったあと、沈黙が流れた。私はすでに帰る場所を決めていた。
「決まったね」とおばさんは私を見透かしたかのようにそう言った。
「はい。もう大丈夫です」
「目を瞑って」
私はおばさんに言われたとおりにした。視界は黒くなり、何もなくなった。そのあとすぐ、おばさんの手が私の胸に当たるのがわかった。手は温かく、何かが胸を流れていっているような感覚がする。私は言われたとおり、イメージをした。




