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占いのお店に行ったのは夕方だった。
お店の前はしんとしていた。扉を押すとベルが弱く鳴った。内装はいたってシンプルな作りだ。きっと前のテナントは事務所だったのだろうと簡単に想像がつくような白い壁と白い天井だ。
おしゃれなお店らしい雰囲気を出すために間接照明がいくつも設けられていて、電球色が店内の色になっていた。奥にパーテーションで仕切られたブースがある。パーテーションと入口のスペースには棚が設けられていて、パワーストーンが陳列されていた。
「いらっしゃいませ。今日は相談でしょうか」
どこかの青い民族衣装を着たおばさんが出てきた。民族衣装は胸元が開いていて、半袖だった。半袖から出ている二の腕はたるんでいた。おばさんの髪は胸元までかかり、ウェーブがかかっていた。カラーはダークブラウンだ。両目がぱっちりとしていて、二重であることがすぐにわかった。
丸顔で、二重。きっと、若いときはかわいい顔立ちだったのだろうと簡単に想像できた。
「占ってほしいんですけど」
「わかりました。どうぞこちらへ」
おばさんがブースの方を振り向き、民族衣装の裾がひらひらと青い弧を描いた。ここで私はようやく民族衣装の名前を思い出した。サリーだ。
ブースは思ったよりこじんまりしていた。お互いに席についた後、おばさんは慣れたように占いの説明と自分の経歴の説明をし始めた。
インド占星術やタロット占いを合せたことをやっていて、誕生日と星の座標を元に運勢を占うらしい。それと合せて、タロットカードを引き、今後どうすればいいのかアドバイスをしてくれるらしい。
おばさんの説明が終わり、私は生年月日をおばさんに教えた。生まれた時間、出生時間はわかる?と聞かれ、わからないと答えた。
少し待っててくださいとおばさんが言った後、一旦、ブースから出ていった。キーボードで何かを打ち込む音しか室内に音はなかった。その後、何かをプリントアウトした音がして、おばさんが帰ってきた。
「頭の包帯。大丈夫?」とおばさんは心配そうな声でそう言った。
「こないだ事故に遭ったんです」
「えー。大変だねぇ。それは。お大事にしてね」
「ありがとうございます」
頭に包帯を巻いているだけで、こんなに心配されるんだと、ふと思った。
「それで、今日はどんなことを相談されたいのですか」
「恋愛運、見てほしいです。あと、今の職場が合っているかどうか」
「わかりました。これはあなたの天体配置図です。あなたが生まれた日の星の配置ね。特にあなたの気質に影響している惑星はこの丸の中に点がついてるマーク。これ、太陽なんだけど、太陽の場所がここ、双子座にあるでしょ。これがよく、テレビの星座占いでやっている星座の位置なんだよね」
「はい」
私は天体配置図をじっと眺めた。
図は12等分されたケーキにみえた。星と星をつなぐように赤い線が三角形を作っていた。その赤い三角形に重なるように青い線が重なっていた。
「あとは難しいことだから、話、進めながら説明するね。この図を元に過去と未来の天体配置を計算した図を見たんだけれど、17歳の時、なにか大きな別れみたいなことあったでしょ。この歳だから失恋かな」
「はい、失恋しました」
「やっぱり、そうなんだ。それも結構、そのときに人生観が変わるような失恋だと思うんだけど」
「――死んじゃったんです。彼が」と私はそう言ったあと、胸を締め付ける感覚がした。
「それはお気の毒に。辛かったね」
「――辛いです。――今でも思い出すと辛いです」
視界が潤み始め、胸が重く痛くなってきた。涙が一粒、右の頬を伝った。すぐに別の涙が左の頬も伝った後、涙が止まらなくなった。
「すみません」
締まった喉で私はそう言った。
「いいの。いきなり辛いこと思い出させてしまったね」
おばさんは立ち上がり、ティッシュを取ってきて、箱ごと渡してくれた。
「――すみません」
そう言って、私はティッシュ箱を受け取り、テーブルに箱を置いた。そのあと、2枚のティッシュをとり、鼻を噛んだ。




