第五話
アリスはあっけらかんとしていた。
どうして、レイが担任になってるのか。
突然の出来事に情報の整理が追いついてこない。
確かに、レイは魔導士として超一流の腕前を持つ。
しかし、自由気ままに仕事をこなすレイに果たして教職は向いているのだろうかとアリスは懐疑的に思っていた。
「嘘だろ?大魔導師レイが担任?」
「どういうことかしら?でも世界有数の魔導士に教えてもらえるのよ?願ったり叶ったりだわ。」
周囲の声も驚きと嬉しさが混じっているようだった。
「えー。確かに私の得意とするのは治癒魔術。それでもそこらの魔導士よりは攻撃魔法なんかも得意と自負しているわ。皆さん一年間よろしくね!」
ワアー!!!!
クラス中が歓声に包まれる。
これはよほどのことなどアリスも理解した。
だが、ここでは特別扱いというわけではない。
ここでは学園の一生徒にすぎないアリスは望むところだと思っていたのだった。
それもそうだ。
ロイにあんなものを見せられては。
「私もロイさんみたいに強くなるんだ。」
そう思いに胸を馳せて。
学園からの帰り道、ロイは保護者らしくアリスを迎えに来た。
「この間は大変だったな。だがよく持ち堪えてくれた。」
「ふん。悔しいですが、ロイさんの強さに私は驚きました。一応剣聖なんですね。」
ロイは頭を掻きながら言う。
「まあな。だが、お前はそれを越える強さを手に入れたいんじゃないのか?」
見透かされている。
アリスはそう思った。
普段は優しい冴えないおじさんと思っていたが食えないところもある事を思い知る。
「ええ、そうです。大切なものに手出しさせない圧倒的な強さが欲しいのです。」
「なら姉さんからしこたま学ぶがいい。あの人はお前が思ってるよりすげえぜ?」
この時アリスは十分理解しているつもりだと言いたかった。
だが、アリスはレイの本当の強さを後ほど知ることになるのであった。
次の日レイが取り持つ治癒魔術の授業が始まった。
だが、最初はやはり基本から入るもので座学そして、後半が実技という内容だった。
ここでは特別扱いはされない。
アリスはレイの表情からもそれを察していた。
アリスは勉学はできる方だ。
だが、他人と協力して何かをするのは何かと難しいタイプ。
所謂コミュ障というやつかもしれない。
いまだに気心の知れた相手としか上手く話せない。
しかし、そこを憂いていたのは他ならぬロイとレイ。
特にレイはそこについて特に注意していたのだった。
座学が終わると、チームをそれぞれ組み、軽傷を負った冒険者たちの協力を仰いで実際に治癒することになった。
そこでアリスは売れ残る。
実際はアリスと組みたいものもいたのだが、どうも声がかけづらいといった様子だった。
「えっと、なんとかしないと。」
アリスは必死に周りを見る。
自分から声をかけていかないと何も始まらない。
若輩ながらそれを理解していたアリスは同じく売れ残っていた少年に声を掛けた。
「あなた。私と組まない?私はアリスと言います。」
「ああ、良かった。僕もちょうど組む人を探してたんだ。僕はリオ。よろしくね。」
あと、せめてもう1人。
そこに仲良さげな二人組の女子たちが近寄ってくる。
「アリスちゃんだよね?よかったらあーしたちと組まない?」
「最低三人集める必要があるし、願ってもないことですわ。ぜひ。」
こうして、4人の仮救護チームが完成した。
そして、実際にCクラスの一同は冒険者の救護テントに赴いた。
アリスは見たところやはり軽傷の者が多いという印象を受ける。
しかし、ここからが難解だった。
アリスたちのチームが引き受けた患者は至る所に傷を負っていた。
最初、女子たちも傷を見て慌てたり、リオも知識こそ豊富だが経験不足な面が見て取れた。
そして、アリス自身は仲間との連携、特にコミュニケーションの面で問題があった。
そんな最中、急な知らせが入る。
「緊急だー!!重症を負った奴がいる!誰か手当を頼む!」
担がれてきたのは腹部に大きな包帯を巻き、そこからは血が大きく滲んでいた。
だが、あいにくたまたまレイは所用で外していた。
アリスはその怪我人を見て覚悟を決める。
「私たちに任せてください!」
銀髪の少女はそう名乗り出た。
「嬢ちゃん。一刻を争う事態だ。頼んだぞ!」
すぐさま治療が取り行われる。
アリスのチームの面々も最初こそ自分たちの手に負えるのかなどと困惑していたが、アリスの気迫に押され覚悟を決めた。
そこからは早かった。
まず今までのが嘘のようにアリスから的確な指示が飛ぶ。
「リオ。腹部に呪いを受けている可能性があるわ。調べてちょうだい。」
「2人は包帯を取って、腹部にヒールを!」
リオも据わった表情で呪いの種類をその豊富な知識から言い当てる。
「これは、普通の治癒じゃ間に合わせにしかならない。『悪魔の囁き』と言われる呪いだよ。呪いを受けた者の生きようとする力を削ぎ、恐ろしい幻覚さえ見てるはずだ!」
聖属性にも心得があるアリスの判断は早かった。
リオは止血をし、女子2人はヒールで応急処置。
そして、他ならぬアリスは呪いの解呪を行う。
「聖なる癒しの大天使よ。彼の者の傷を癒したまえ。ホワイトブレス。」
アリスが息を吹きかけると、呪いの黒い粒子が空中に離散していった。
「リオ。これで大丈夫なはずよ。」
そして、重症を負った男は目を覚ます。
辺りは静まりかえっていたが、男がアリスに声を掛ける。
「嬢ちゃんが俺を救ってくれたのか?にしても見事だ。呪いさえ受けてあの傷死んだかと思ったぜ。」
すると辺りは歓声に包まれる。
「嬢ちゃん!ありがとー!他の生徒たちもよくやってくれたぜ!!」
アリスたちは微笑みながらテントを去ろうとするとレイが現れた。
「まだよ。」
そう言い放つとレイは救護テント全体に大魔法陣を敷いた。
すると、全ての救護人の残った傷が癒えていく。
レイからするとお粗末な処置をしたと思われるチームもあったからだ。
「これが、レイ姉さんの力...」
アリスは感嘆としていた。
「うおおお!!レイ様が来てくださったのか!?」
そこからは次々とテントを訪れる怪我人たちをクラス全体で処置していくのだった。
家に帰ったアリスはロイとレイと食卓を囲む。
「なるほどそんなことがあったのか。」
ロイは感慨深そうに聞いている。
「修羅場がアリス。あなたを強くしたのね。」
そう言われるとアリスは照れくさそうに。
「いえ、私はレイ姉さんに比べたらまだまだです。でも、人と連携して動くことの大切さを学びました。リオたちが居なければあの患者を助けられたかどうか。」
「アリス。それでいいのよ。真に優れた者は個の力も大切だけど、周りを活かしきる者のことを言うのよ。」
アリスはこのレイからの金言を胸に留めようと思ったのである。
次の日。
少し驚くべきことが起こった。
朝のホームルームの事だ。
「皆さんに紹介したい人がいます。」
レイがそう言うと、教室に入ってきたのは意外な人物だった。
アリスはまさかと思う。
「昨日。世話になったな。俺はリサルト。冒険者を引退して、教職に就くことになった。」
「ええー!!」
「こちらのリサルトは元A級冒険者よ。今日からこのクラスの副担任として皆の指導をしていくわ。」
「よろしくな!」
リサルトは皆の前で笑顔を見せた。
冒険者だからか言葉使いもなっていない。
だが、この中年の男がA級冒険者だったとは。
そして、リサルトは剣術を教えることになるらしい。
渦中のアリスはまたしても虚をつかれたと思ったんだとか。




