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第2部 開始★ 転移酒場のおひとりさま ~魔都の日本酒バル マーチン's と孤独の冒険者  作者: 相川原 洵
水無月 と KIDで みぞれ酒

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(配信者ヨランタ)


 神様からもらったテレビとビデオカメラのセットで、さっきヨランタが撮ってきたという動画を見ている。みぞれ酒は飲み干して、みぞれていない普通の冷酒を飲みながら。


「で、このコレは、イザベッラさんを権威で押し込めて辱めてやろうという企画かね。」


「ンもう、見てから文句言ってよ。ヤツは黙って負けてるような女じゃないって。」


「つまり、失敗したんか。ほな、気兼ねなく見せてもらおう。」

「そういうわけでは。」



『イザベッラ、御召しにより(まか)り越しましてございます』


 仰々しく扉が開き、仰々しい衣装の人物が仰々しい所作で現れ、大主教の主教座(カテドラ)を前にしてひざまずく。しかし、その表情には戸惑いの色が濃い。

 

『うむ、よう参った。だがそなたには並ならぬ嫌疑がかけられている。此度は、その疑いを晴らすべく呼び出した次第である。隠すことなく申し開き、神の前で身の証を立てるが良い』


『嫌疑!? この私に? …我が身に恥じるところ、一片も無し。是非にも、告発者と対決をさせていただきましょう。して、その告発やいかに。』




「なんや、ずいぶんカッコええな。この芝居がかった言葉遣いは、神様翻訳でなかったらとういう感じで喋ってはんねやろ。」


 マーチンはポテチを持ち出して、それなりに興味深そうに映像に見入っている。ヨランタの関心は自分で撮った映像よりもマーチンがたまにしか開けないポテチにさらわれて、ニコニコ上機嫌ながら話は聞いていない。

 ポテチと日本酒は難しい組み合わせだが、この際、重要な要素ではない。



『急ぐでない。そなたも、わらわが神の息吹に触れた噂は聞き及んでおろう。何を隠そう、イザベッラに悔悛を迫られたのは、まさに神である。』

『なッ!? う、失礼を、いたしました。』


『…さればこそ、わらわも何をもって神が罪とされたか、すこしも存ぜぬ。ならば、』


 黄金の塊のようだったファニーが立ち上がり、しずしずとイザベッラに歩み寄って何かを懐から取り出してコトリと、その前の床に置く。

 ここでカメラが動き、イザベッラの斜め後ろに回って望遠ズーム。すっとピントが合って、差し出されたものの正体が明らかになった。


 それは、黄金のマーチン像。

 15センチ程度の小像だが、調理服を着た男で顔の造形もしっかりしている。不思議なポーズをとっているが、これは手に何も持たないながら刺身を切っている姿だ。




「一時停止。なんじゃコレ、阿呆か。誰が、いつ、あんなものを。」

「ふふふ、よく出来てるでしょ。私が、昨夜、例のルベドの心臓から作りました。そのせいで宝石は1ミリ小さくなっちゃった。」


「なんたる無駄遣い。さっさと鋳潰せ。…いやしかし、カメラの性能めっちゃ良いな。ズームも解像力も、ピント合わせも申し分ない。野鳥写真も使えるでコレ。」


「また、なにか知らないけど儲からないヒトリヨガリthingを考えてるね。そんなことより、映像再開!」



『これは現世に降臨された使徒殿の像である。虚空に告解するより、それに向かっての方が想いを打ち明けやすかろう。存分に、告白するが良いぞ。』


『なッ! こ、これは…』


 再びカメラが回り込み、イザベッラの紅潮した顔を大写しにする。

 当人は反射的に拳を握り込み、像を殴りつけるか投げつけようともしたようだがその姿に気づいて果たせず、震えながら真っ赤な顔で汗を流している。


『ほれ、何か思いつく罪があるのではないですかな? 神は、そんなそなたをも愛してくださる。悔い改める瞬間を待っておられる。お応えするのは、今ぞ?』


『わ、私は…』

『私は!?』


『私は、シュテファニエ大主教のための白砂糖の輸送隊を山賊に扮して襲い、強奪品を売り払い、以って孤児院改修の追加予算としたことがあります。これに関してはミコワイ主教、ラファウ会計長とも合意の上、私の主導で行いました。』


『死刑!死刑!火刑!』




「この映像、絶対外部に流せへんやん。そもそもの問題やけど。ホンマ何やってんの。」


「いや、ちょっとねちねちイボンヌをいじめてやろうってファニーちゃんと企んだネタだったんだけどね。敵もさるもの、だね。」


「この世界初の動画がイジメ録画って最悪やな。しかも宗教者による。ま、続きを見てあげよう。ちょっと面白くなってきたし。」



『それに、私は……』

『もう、どうでもいいから言いたいことを言ってしまえ。』


『私は、過日のヤウォンカで起きたモンスター災害の原因はヨランタだったことを知りながら、後任の者が気づいて適切に対処できるか試してやろうと黙っておりました。今思えば、恥ずべきことです。』


『!!なん!たる!言い!が!か!り!!』




「うわ、マイクが近いよ。これどうやって音量下げるの。」

「怨霊を退ける?そんな機能まで?」

「無いよ。撮影者は叫んだらダメ。わかるでしょ。」

「はぁーい。」



『やはり貴様、ヨランタだったか。(おのれ)がフードで誤魔化せる程度の怪しさだと思ったか。』


 さすがに、こうもカメラワークを気取っていればバレないはずもなく、ばっちりカメラ目線で睨まれている。画面で見ているマーチンさえ身がすくむ思いだ。


『あ、気付かれてた。でも、それとこれとは別だよ! 私を(おとし)めようと嘘をつくなんて、神様の前で!』

『それは真かイザベッラ。証明できねば誣告罪であるぞよ。』


『これは、異な。この神聖な場でもし虚言を吐いたならば我が魂も肉体もたちどころに()かれるであろう。私の無事が真実を証明している。

 ヨランタ、お前は後始末をせずに呪術師ギルドを滅ぼしただろう。結構なことだが、残った呪具やら何やらがどうなるか、自明のことであるのに。

 …その手にしているのは、マーチン殿の神具か。汚れた手で何を(つか)もうが、汚れたものしか手に入らぬと知れ。悔悛するのはお前たちだ。』



『ふ…フゥーン、だ、お説教ババァ! 私たちの(たくら)みがこれだけだと思うなよ!』

『そう、そうですよ! 今のは小手調べ!このスーパー神具に屈するがいい!』


 ファニーが杖をひと振りして合図すると、いかにも怪しい覆面に黒ずくめの人物たちが黒い布に覆われた長い棒のようなものをうやうやしく運んできた。


『これこそ〝真実の槌〟。この神具の前で〝はい〟か〝いいえ〟で答えられる問に答えれば、嘘であった場合にのみ棒が倒れかかり、その者の頭を砕くという。

 本来なら一度、1問にお布施を金100枚は納めさせるべきものだが、そこは、わらわゆえな。』


『ハッ。何がしたいのかはますますわからんが、乗ってやろうじゃないか。もう敬語など要らんだろう!』



 恐ろしげな神具が設置されている。想像以上に巨大な、ドクロや牙の顎、鋭い爪が生えた手、剣や槍など物騒なモチーフに飾られた下方から、上方へ伸びていくに従い無機質なのっぺりした棒になっていき、見上げるほどに高い最上部は球体、というよりもっと禍々しい(コブ)状に膨らんで異様な雰囲気を放つ。

 イザベッラは案内を拒否して、自分から所定の位置に堂々と歩み寄り、座る。そこまではふてぶてしい態度が見えたが、神具に向き合うと流石にそのオーラに威圧され、ゴクリとつばを飲んだ。

 ファニーが再び、大主教らしい重々さを演じて話す。


『これより〝真実の槌〟を用い、真実を問う。被告・イザベッラは〝はい〟か〝いいえ〟のみで応答せよ。イザベッラ、了承せしや。』


『はい。』



 映像を見るだけの側にも肌寒さを感じるほど、ピンと張り詰めた空気が漂うようだ。


『問う。汝イザベッラは、』

 グッと溜めて、

『使徒マーチンに恋心を抱いているのか! おっと、〝はい〟か〝いいえ〟だぞ!』




 ピッ、と音がして映像が消えた。


「何すんのマーチン!」

「ど阿呆。ほんま、お前ら、…阿呆。」

「ねー、がんばって撮ったんだから。見てよー。」

「がんばり方を間違えとる。映像はウン百年残せたら資料的価値はものすごいんやろけど。編集してこの先消せへんかな。こら、叩くな、噛むな。見るから。えーっと、」



『〝はい〟!』


 きっぱりと、迷いなく、でも少し頬を赤らめながらイザベッラが宣言した。おぉー、と、カメラを構えるヨランタも低く唸るほど。

 棒は、微動だにしない。


『続けて第2問。これはヨランタからの問いである。汝イザベッラは、』

 グッと溜めて、

『悪徳貴族に(さら)われて手籠めにされかけているとき使徒マーチンに救い出されたいと妄想したことがあるか!』



 こちらではマーチンがヨランタの頭にゲンコツを落とすなか、画面の中のイザベッラは明らかに動転している。

 神具まで使って問うような題ではあるまい。バカバカしい。神罰を受けるべきはお前だ。言いたいことは山ほどあるようで結局一言〝バカ野郎〟に終始するだろうが、ここでははいかいいえ以外の返答は許されていない。


『…………………はいぃ。』



 プブっ、とノイズ音声が混ざる。マーチンはノーコメントだ。

 真っ赤な顔に涙を浮かべて歯ぎしりせんばかりにヨランタを睨む被告を差し置いて、ファニーも会心のニヤニヤ顔で口を開く。


『第3問。』

『いつまであるんだ!』

『おっと、自由な発言は許可できませーん。汝イザベッラは、』

 グッと溜めて、

『夢の中で使徒マーチンと熱い抱擁を交わし幸せな口づけをしたことがあるか!』

『知ったことか!いいえ !!!』


 震える絶叫とともに、棒がぐらりと揺れる。ぐらり、ぐらり、ゆらゆら。

 誰もが固唾をのむなか、棒の先端の(コブ)が口を開き、少年とも少女ともつかない不思議な声が響き渡る。


『ヨランタ。また、ちょっとお話をしようか。』

『ひゃ』


 ここで映像は途切れた。




また(・・)?」

「うん。また。でも、今日はすぐに戻してくれたよ。こんなだったから、映像がちゃんと撮れてたか不安だったんだー。」


「で、この後どうなったん。」

「特に、何も。イボンヌは帰った後だし、ファニーちゃんも言葉を濁すし、腫れ物扱いだよ。ま、聖堂の人に敬遠されるのは願ったりではあるし? 禍福はよじった縄のごとし。…………な、なに?じっと見つめちゃって。」


「いや、キミはいつが見納めになるかわからんから。意外にまつ毛は短いなって思って。」


「ちょっと、それどういう意味?私だって見つめちゃうから。むー。……イェー、勝った!」


「俺は野生の獣ちゃうねん。でも大丈夫そうやな。次はちゃんと公開できる動画を撮ってきてね。」

「わかってるよ。私だって反省してますゥー。

 マーチンは子猫ちゃんの映像が欲しいのよねっ!」


「公開できるのをな。でけへんの見せたら次は折檻やで。」

「あら、それはそれで魅力的☆」





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― 新着の感想 ―
今週も楽しく読ませていただきました。 ヒロインズのやり取りが好きすぎて、先週の作品を読んで買ってきて飲んでた田光の生原酒が2口分ほど変なところに入ってしまったことに対する洵氏の責任を問いたいw あ、…
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