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第2部 開始★ 転移酒場のおひとりさま ~魔都の日本酒バル マーチン's と孤独の冒険者  作者: 相川原 洵
かき揚げ と 田光

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(1)


 そんなこんなで平和に暮らしていたヨランタとマーチンのもとに、ファニー大主教からのメッセンジャーとして彼女の手下、(Super)( GANBARI)( Guard)( Kinght)のカヤが訪れた。


「み、水をください。…ください? んー、水を、おくれでないか。うーん、水を出せ。これは違うな。水…冷えた湯冷ましを所望する。これだ、店主殿。」

「偉そうにするのがなかなか板につかん娘さんやね。はい、ご注文のお冷や。いや、今日も暑いねぇ。」


 夏の日中を歩いてきたらしいカヤは、差し出された冷水を一息に飲み干す。そして、

「氷……ここまでしてくれとは言っていませんよ。なんと贅沢な…」

「氷入れへんかったら温いやろ。そんな大層なもんとちゃうから。そういうのは、もうええねん。ご要件は?」



「あ、応、そうでした。猊下からの伝言であります。えー、「延び延びになっていた、百人の会を5日後にやるから、そのつもりで居れ」と。「延びたぶん、今回は200人連れて行く。用意を(おこた)るな」とも。

 …私は内容をわかっていないのですが、店主殿は了承した、と伝えても?」


 ヨランタの消失から復活のゴタゴタで忘れられかけていた企画、無理矢理に人を集めてn百人達成の神様アナウンスをイベント化する案。アレをいよいよ実行に移そうとしているらしい。



「ん、断りたいけど、一度は引き受けてた件やからしょうがない。アレ、なんで引き受けてしもてたんやろ。……あ、ヨランタさんが拾ってきた仕事やったか。でも人数を増やされても困る。」

「あ、私のせいだった? もうマーチンは断ってもいいと思うよ?」


「猊下の仰りようには、400は切りが悪いので500までやってしまいたい、あと、イザベッラ姫様がセルフ失脚されたために大主教派閥の人員が激増した。そのせいもあって、猊下の仕事が増えてストレスを溜めておられるので、何でもいいから派手なことをやりたがってあられます。」



「セルフ失脚て。」

「誰かの陰謀に図られたわけでもないのに、結果的にそういうような形になっておられるので。いったい何があったんでしょう。」


「ん……おぅ…それは、責任の何割かはキミがイザベッラさんの従士から猊下ちゃんの騎士に鞍替えしたせいもあるんやないかな(ごまかし)。

 それはええけど、その猊下ちゃんがご希望のまま放ったらかしてくれてるアプリコットとマンゴーのスムージー。カヤさん、ひと口飲んでって猊下ちゃんに感想言うて、早う来いって伝言お願い。冷凍庫の場所取りでかなん(・・・)わ。」



 要請を話半分に聞きつつ、マーチンが差し出したのはモンスター災害の荘園から頂いてきた季節のフルーツ製のスイーツ。凍らせた果物をヨーグルトなどと一緒にミキサーにかけた背徳のドリンク、スムージー。

 アンズとマンゴーで層を作り、間にはクリームを挟み、、天面にはアンズジャムと粗切りの生マンゴーを乗せてミントで飾っている。酒場のおじさんが作るには似つかわしくないが、おじさんだってこういうのは好物なのだ。

 その背をヨランタがポカポカ叩いていることは無視。


「こ、こんな派手やかな…」

「キミも騎士なら、(しゅう)の好みくらい押さえときや。ほとんど果物そのまんまやから奢侈でもあるまい。

 …ところで、猊下ちゃんは何やら手柄を上げたら王様の宮殿に返り咲けるって思ってるらしいけど、実際、そうなん?」


「あ、それでありますか? ズズズ…ひゃうっ!こ、これは、ズゴゴゴ……すごい……世界には、こんな……

 あ、それですよね。猊下がここで手柄を上げてしまえば聖堂の適性があると示すことになってしまうので、役割ができて余計に帰れなくなるんじゃないか。と私などは愚考しますが、猊下は、それで呼び戻されるとお考えです。

 実はもうじき、王都ではあるお姫様が離縁されて外国から出戻りしてこられると噂がありまして、その(かた)のほうが比較的に心映え優しく素直で信心深いので、何もしないほうが自然に交替でお帰りになれると思うのですが。ただ、私は後ろ盾が猊下だということになっていますので、帰っていただいては困る、ような。」



「おぉ、優しい物腰で全方位に裏切り者。いや、理屈はわかる気がする、ありがとう。」


「いや、イザベッラ姫様からは〝門閥も後ろ盾もなかろうが、お前なら40になる前に騎士になれるだろう〟って言って頂いてたのですけれど、猊下は今すぐ騎士に取り立ててくれるって。もちろん魔都の聖堂の者にとって猊下が組織トップなのは法の通りなのですから、誰でも従いますでしょう? それに私、修行を始めて12年でもまだ24ですよ!? ズススス…… あの、もう1杯、いえ、せめてもうひと口でも……」




 そしてイベントの当日。

 朝から意気揚々と乗り込んできたファニー大主教と、護衛兼交通整理要員のユリアンたち〝アポスタータ〟の4人、料理アシスタントに専属料理人のモニカ、あと1人知らない若い男。ファニーの若いツバメだろうか?


「店主殿、何か?あぁ、こいつは聖帝国の聖帝の16男…(19?細かいことをいうな、耳が穢れるわ)で、ピオトルという(ペーター?田舎訛りを聞かせるでないぞよ)。たまたま遊びに来ておりましてな、覚えてやる必要はありませぬ。

 まったく、14年前は〝僕のお嫁さんにしてあげるよ〟って可愛い10歳児だったのに、むさでかい男になりおって。無碍(ムゲ)にもできぬゆえ、隅に座らせて花籠の置き台としてでも参加させて…おほーっ、なんと美しいユリの花! わらわへの贈り物ですか!」



 違うよ、神様の花は粗末にしたらヨランタさんみたいに消されるかもわからんよ。

 とぼけながらマーチンは薄青のバラを1輪だけ(えびら)に挿して、静かな音楽をかける。ポッカリと口を開けて愕然と固まってしまったファニーを放っておいて、モニカを手招きしてヨランタとも一緒に打ち合わせ。


 以前の予行で、大体の流れ作業の見当はつけてある。メニューは、好評だったジーパイとセルフの缶ビール、または甘党にはマンゴースムージーの2種のみ。


 スムージーは、先日のカヤと、その直後に押し寄せたファニーには凍らせたマンゴーで提供したが、数日後、大型のタルで大量のマンゴーが運び込まれてきたので今回は生マンゴーと氷のミキシングで大量生産する構え。

 ミキサー操作が今日のモニカの仕事。一度操作して見せて、試食させてみる。「モニカめは神命の啓示を得ました」と、以後は黙々とスムージーづくり。成果物はまだぼんやりしているファニーと山分け。


「客が集まるのん、もっと先なんやろ。それ、作り置きでけへんから。操作覚えたら皮むきして備えといて。あと、ピーターくん?と冒険者たちにも振る舞ってあげてね。」



 などとわちゃわちゃしながら始まったイベント。

 集まった客は行列を組んで店内に入り、ちょっとした飲食の後に、店先にたむろして神の声を待つ。

 マーチンはひたすらチキンを揚げ、ヨランタが愛想よく配る。缶ビールの開け方は初見だとなかなか難しいようだが、店内交通整理のジグやレナータが指導。


 客の多くは酒と肉に並ぶように思えて、スムージーの氷を砕く轟音と甘い香りは目を引くようで甘党メニューも意外に人気。

 ファニーは「わらわのぶんが減る!減らせ、薄めろ」とモニカをせっつこうとするが、基本1人のキッチンに4人はいかにも狭い。「ピーターくんのお相手しとき!」と生マンゴーとナイフを渡されて部屋の隅に追いやられる。


そして、



 ♪ パッパカパ~ン ♪


『おめでとうございます、当店はユニーク来店者が400人に達しました! 店レベルが5に上がります。悪知恵の(おもむき)無きにしも非ずですが、我が願いに大きく反するものではないため今回限り認めましょう…ましょう…しょう…う……』



 四度(よたび)、店内に声が響いた。


 マーチンとファニーは、つい首をすくめて目を合わせる。本気で怒らせたら否も応もなく消される。その恐ろしさは実際に見ないと理解できない種類のものだが、まさに目の当たりにした2人だ。考えてみれば、かなりリスキーだったとわかる。

 なお、ヨランタは消された瞬間の記憶がないためか、ぽやんとしている。


『レベル5の特典は【テレビとビデオカメラ】です。コンテンツは自前で制作するように。今日中にもう1レベル上がるようですね、それは良いでしょう。お小言は、その後に…後に…ちに…に…』



 声は去り、静寂が戻った。落ち着いた音楽が、喧騒や調理音の響きが消えてようやく耳に届く。

 見れば、いつの間にか店奥の壁に壁掛けモニターが設置されている。


「ヨランタさん、見てるー?イェーイ。」

「えっ? ……あっ、それ、ニホンの、おぁっ、スゴーイ!!」


 マーチンがボソボソと覇気なく喋りながらヨランタにカメラを向けている。店内の視線が壁に大きく写ったキョトンとした顔の女の映像に集まっている。ヨランタも振り返ると、くせ毛黒髪頭の後頭部が写っていて、その背景はまぎれもなく、自分が見ている店内。

 日本経験がある彼女だけは即座に理解して、大興奮で騒ぎながらあちらを見たりこちらを見たり飛び跳ねたりポーズをとったりしているが、自分では後頭部しか見ることができない。



「いや、これ、どうせいっちゅうねん、アホか。」


 マーチンがボソボソと不平を漏らして、モニターが黒い壁に戻った。

 客たちは、今の一幕がまるで理解できない。あまりにもわからなさすぎて神の声を聞けた喜びさえ吹き飛んでしまったようだ。


「だからさ、ルドウィク率いる楽士団・フィーチャリングマーチンの演奏で私が歌って踊るのがあの壁に写ったらステキじゃない?」


「本気か、自分好きすぎるやろキミ。聖女チャンネル配信とかやるつもりかい。」



 ふたたび、店内にチキンが揚がる音が響きだす。引き続きイベントの様子をお楽しみください。







毎回ちょっとずつ文字量が増えていますが今回は特に、びっくりするほど主題に届きませんでした。ので、今回も(3)まであります。

ところで「ユニーク訪問者」って通じる表現でしょうか。日本語で何ていうんだろう。「個別ユーザー数」で通じる人には「ユニーク」のほうが通りがいいでしょうし。






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