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第2部 開始★ 転移酒場のおひとりさま ~魔都の日本酒バル マーチン's と孤独の冒険者  作者: 相川原 洵
神様関係と夏酒

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餃子と木須肉 と 雁木の夏酒(1)


「そういえば、ヨランタさん聞いてる? イザベッラさん、聖堂騎士辞めるってよ。」


 ヨランタの帰宅後、イザベッラを交えての飲み会の翌朝である。


 昨夜は、良い程の時間でイザベッラは帰宅していた。彼女も元来、聖職者ではあったので潰れるほど飲むのも、夜更けまで飲食に浸るのも硬く(いまし)めるところだ。

 しかし〝休み〟の張り紙をしたにも関わらず、カレー目当ての新顔常連たちがけっこうな頻度で戸を揺らして叩いて叫んでいくので、どうにも気の休まる暇がなく良い雰囲気になることもなく、その日は過ぎた。


 そして翌朝、お互いなんとなく距離感を測り直しながら朝食を済ませ、お茶を飲んでから仕込みの準備をしつつ、話を振ってみるマーチンであった。



「え、騎士辞めるって? 引退じゃなくて。…正気?」


「キミが他人の正気を疑うかね。俺は詳しくないけど、そんなにマズいことでも?」


「そりゃあ、ユリアンたちが自由と誇りと力で勝ち取った冒険者の地位を売り払って、ようやくその下っぱの地位を得たというのに。思いつきの自分探しで投げ出して良いご身分じゃないわよ。

 ヤツには何の義理もないし敵味方でいえば敵だけど、なんか腹立つ。」



「それで自由の身になったら、ユメさんの所の日本への道を探しに行くらしい。キミがおらん間にエルフのアキベさんともずいぶん話し込んでたみたいやし。

 こうなってみれば、ヨランタさんがやろうとしてたことと丸かぶりやね。せっかくなら一緒に旅してきてもええんと違う?」


「な、なん、盗られた!? へ?なんですって、 あー、……ふん、できるものならやってみればいいさ。べつに早いもの勝ちでもないでしょうよ。勝手にやりゃあいい。」


「そりゃそうや。ま、今すぐの話でもないし。先回りして意固地になることもないでしょ。」




 昨日に引き続き外はよく晴れていて、そろそろ暑いくらいの日差しが窓から降りそそぐ。

 マーチンは半袖の軽々した服装になっていて、ヨランタはニヤニヤしながら肌色が増えた腕をジロジロ見ている。

 そのヨランタは昨日まで消えていたので夏物の用意ができていない。ここ数年の魔都の流行のへそ出しでも一丁やってみるかとも思うが、腹肉を自分でつまんでみて準備不足を痛感。季節をワープしてしまった弊害だ、神、赦すまじ。

 とりとめもないまま、朝の眠気を残したように2人、ダラダラと何やらの作業をしている。


「ねぇ、マーチン、いま、私たちは何をしているの?」


「これは、餃子を作っている。」


「ギョーザ?」

「世界中にある団子(ダンプリング)料理の一種。餃子の本場ではもっと皮が分厚い 小ぶりの肉饅頭で、スープで煮たりして食べる。でもこれは肉より小麦が高価な東北辺境域エディションで、皮が薄い版。それを蒸し焼きにする鍋貼(グオティエ)餃子。

 日本ではこっちが人気で、俺も好き。ただし日本では形は鍋貼の長四角じゃなく水餃子風の半円形にするんで、妙な混乱を招いているな。」



「ふぅん。魔都の肉饅頭(ダンプリング)はもっとぼってりしてて、焼き目をつけてからビール蒸しにするよ。肉じゃない塩豆餡饅頭もあるけど、どっちも手間かかるからちょっとお高いんだ。

 …で、なぜ、いま、これを?」


「いや、ヨランタさんが消えてる間、気まぐれでずっとカレー作ってたんやけどな。」

「ほ☆ ほほぅ?」


「手ェ、動かして。…そのせいでカレー目当ての客が増えてしもた。しかしカレーは日本酒のアテにはやっぱり邪道なんで、もう止めにする。そのかわりに何にしよう思って、大量に作り置きできる安い肉料理、で、餃子。

 いや、お店としてはカレー屋は悪くないんやけどな。シンプルやし、近場に競合相手もおらんし。ゆうても、俺は日本酒屋さんやからね。」


「相変わらずひとりよがりにやってるねぇ。」

「ほっとけ(ころ)すぞ。あ、〝カレーは品切れで終了しました〟って張り紙お願い。」




 ジュウゥゥゥ、と、鉄板に蓋された中からたまらない音が響いている。

 カウンターにはヨランタの冒険者仲間たちと、その他数人が並んでいる、同日夜の風景。


「いやぁ、俺ら結局なにもできてねぇのに、奢ってもらっていいのかい?」


「捜索に無駄骨折らせてしもたしな。コレくらいはさせてくれ。

 あと、カレー目当ての客が暴れたらひと睨みくれてやってくれたらOK。」


「そういうことか。カレーが無くなったのは俺も残念だよ。でもヨランタがいれば大丈夫だろ。それなりの戦士なら呪術師に半端な喧嘩を売ったりしねぇし。」


「それは、それでなぁ。飯屋に来た客が次々怪死してたら、いろいろそれどころやないで。」


「なぁに言ってんのよ、マーチンにツェザリ。殺しゃしないよ、せいぜいお腹痛(なかイタ)☆」

「アホか、飯屋の客がみんな腹痛(ハライタ)なったら店潰れるわ。」



 そんな憎まれ口も挟みながら、餃子が焼き上がる。こんがりと、ふっくらと、ツヤツヤと。炎が踊るような備前焼の大皿に4人前丸く整然と並べられ、目でも楽しめる料理だ。


 酒は、〝雁木(がんぎ)〟の夏酒。味の強い料理にもサラリと相性良く、労働で疲れた体にみずみずしい命を吹き込むかのような酒。

 それを注ぐ酒器は、マーチンが気力ゼロ状態のときは客に選ばせる手間も省略して枡にグラスで溢れさせて注ぐ、いわゆる〝もっきり〟タイプで一律に提供していた。が、


「選んでもらってもええけど、どうする?」

「俺は、選びたいかな。」

「量でいえば枡にこぼれるヤツのほうが多いんだろ? そっちのがいいさ。」

「俺も。」「アタシは選びたい!」


「めんどくさい。どっちかにおし。ちなみに、枡の方は昭和の大衆居酒屋発祥のサービスで、ちゃんとした酒器で飲むほうがそりゃあ格は高い。……みんな枡でええか?」


「選ぶ方で。」

「俺たち準騎士様だからな!」


 他所の客はちゃっかり量が多い方を選んだが、たしかに彼らにも身分が発生しているのだ、それなりの振る舞いを覚えてもいい。…と見えたのも一瞬のこと、すぐさまに狂気の餃子パーティーは幕を開けた。




「あんなにがんばって作ったのに。1日で無くなるもんだねぇ。」


「…売れたなぁ、寸胴いっぱいの麻婆豆腐と共に。2日以上ぶん作ったはずやったのに。日本人が好きな中華No.1コンビ(ラーメンとチャーハンを除く)やからなぁ。」


 営業終了後、疲弊した2人がテーブル席に突っ伏している。



「あの4人でギョーザ200個は食べたんじゃない?」

「まさか。ゆうても、100個なら1人当たり25…もっとやな。あー、ホンマに200かも知らん。それに麻婆を丼鉢にナミナミと3~5杯か。突き出しのザーサイは見事に1人前ずつやったけど、アイツら、そんなに若かったか?」


「ユリアンが私と(おな)い、他はもうちょっとだけ下だったはず。若いよ?」


「うそ? そうかぁー。ユリアンは俺と同いくらいかと思ってた、苦労してんのね。キミは時空が歪んでるな、年齢嘘ついてへんか。

 ……ま、それはええねん。明日以降も毎日これ、できる?」

「毎日はムリ☆」


「即答かいな。しかし日々の労働というのはこういうことですよ?」

「そして私はそれがムリなのね。」


「んじゃ、その割烹着は誰かに譲り渡すか。やりたいヤツ、探せば誰か居るやろ。」

「イヤ、これはもう私のものだよ! っていうか、マーチンだってこれを毎日はイヤでしょ!」


「ご炯眼(けいがん)。もっと楽なのがいいねぇ。お香々(こうこ)酒場とか。御御御付(おみおつけ)酒場とか。冷奴酒場とか。」

「そう考えると、お刺身は偉いね。」


「せやねん。でもなぁー、生魚食える人材もここでは少ないからな。肉で……楽な…」

「あ、生肉を出してお客に焼かせるって、どう?」


「焼肉屋か? アレはアレでえらい(超しんどい)で。」

「あるんだ、ニホンにはそんな店。」


「ほかに客に働かせる店といえば、お好み焼き、鍋、……」



 いろんな食べ物を思い浮かべて、疲れ果てた体も思わずグゥと音を鳴らす。


「俺らも食べよ。餃子、6個ずつ残してある。あと、何があるやろ。」


「あっ、あるんだ! 良かった、良かった!」


「キミはちょいちょいつまみ食いしてたやろ。給料出してへんから怒らんけど。おっ、木耳(キクラゲ)がある。そうや、中華スープも作ろう思て忘れてた。じゃ、もちろん卵に…なら、アレが出来る。」


「うぇっ、バレてた!? うーん、…えっ、お給料!??」








更新が遅くなってすみません、明日も更新します

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