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第2部 開始★ 転移酒場のおひとりさま ~魔都の日本酒バル マーチン's と孤独の冒険者  作者: 相川原 洵
ヨランタの受難と 讃岐くらうでぃ

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(1)


※ ちょっと暴力描写が入ります ※

設定メイン回で、グルメ要素はあまり無いです





 じゅうぶん、お外のホトボリは冷めたはず。数日でそういうことにして、ヨランタは外出を再開している。

 人の性格というものは個々人に千差万別で、たとえばマーチンなどは何日でも何ヶ月でも、あるいは何年だって環境が許すなら引きこもることができる。ただ、ヨランタは全くその類ではない。気のおもむくままに外を歩いて誰かと袖を振り合わせる、くらいをしないことには生きている気がしない。


 とはいえ、まずは様子見だ。はじめに、安全そうな朝の冒険者通りの人混みの中を歩いてみる。



‹ ↓ ここから読み飛ばし可 ↓ ›



 おさらいになるが、ヨランタを追っているのは〝聖堂〟と呼ばれている、この王国で最も有力で支配的な宗教組織だ。

 彼らは〝回復魔法〟を〝神聖魔法〟と呼び、使用独占権を各地の国から得ている。それをもって、〝闇ヒーラー〟つまり組織に属することなく独学の魔法による半端な治療行為を勝手な料金設定で勝手に行う(ヤカラ)を取り締まっている。

 ほか、マフィアの一種とされる呪術師ギルドなど、王権にも神権にも敵対する組織の捜査・逮捕権を持っていたり、国際組織である利点を活かして市場の秩序維持・管理権も国から買い取ったりしている。


 闇ヒーラーに関しては貧民相手の商売なら、程度問題だが、必要悪として見過ごされることもある。

 が、精霊の加護を得たと豪語し、事実、正規ヒーラーが束になってもそれに数倍する力を持つ・自身も呪術師であり呪術ギルドにも出入りしていると噂され・挑発的に市場をチョロチョロしているヨランタは、ただの闇ヒーラーの立場を超えて〝聖堂〟が決して見過ごすことができないワンマン一大勢力と見られはじめているのだ。



 ところで、聖堂騎士率いる治安維持隊にとって〝捕り物〟は日々の業務の中での最も華々しい舞台である。

 往来の万座の注目を浴びて悪人を取り囲み、堂々名乗って退治する。場合によっては詩や物語になることさえある、騎士にとってはまたとない名を売るチャンスだ。


 だが、そうやって準備万端整えて〝名乗る〟などという(しば)りのような手続きを自らに課している連中だ。そんなのにのんびり逮捕されるなんてヘマは踏むものか。

 ヨランタは、舐めている。心の底から舐めている。

 これは、油断といえるだろうか。結果的にいえば、最悪の油断となってしまった。



‹ ↑ ここまで読み飛ばし可 ↑ ›



 大通りの人並みのなかを押されるようにして歩いていく。遠目にも私は不思議にとてもよく目立つとよく言われるけど、こうも大男密度が高い空間では完全に紛れてしまってるだろう。


 このまま冒険者ギルドまで行ってみよう。久々に、以前の輸送クエストみたいな長期の遠出仕事を受けてみるのもいいだろう。アレはあまり(ゲン)の良い思い出ではなかったが、閉じ込められているよりはマシだ。

 そんな物思いを妨げるように、独特の匂いが鼻を刺した。これは、乳香?


 しくじった、前と後ろの大男、すこし間隔をあげて右にも、冒険者風の格好をしているが、聖堂の捕り方役人だ。聖堂のお香を染み付かせているなんてバカな捕吏(ほり)もいたものだ。この距離だって、捕まるヨランタ様じゃないぜ。

 ホラ、左に空間ができた。ギルドは右だけど、今日は諦めよう。ためらわず、正面の男の後ろ姿の膝の裏を蹴り上げつつ人波にポッカリ開いた隙間に身を投じる!


 矢!?


 バカじゃないの、こんな人混みのなかへ、殺傷力を落としたものとはいえ、弓矢を打ち込むの!?

 自分の腰骨に突き立った細矢がシュールだ。正面の路地に射手。第2射の準備を終えようとしている。本気だ。あんまりビックリしているので、まだ痛みは感じていないが足が止まってしまっている。そして、背後から迫る気配。振り向くと、すでに棍棒が振り上げられている。



 白昼堂々の奇襲。


 聖堂騎士にとって捕り物仕事は神聖な仕事だが、あんな悠長なことを言ってられなくなることもある。それはガチヤバイ〝敵〟が出現した時で、そんな場合には手段を選ばない、らしい。


 敵、とは背教者、異端、神敵とまで区分けされた組織の幹部クラスであることが多い。

 私も?私が? まさかぁ。

 そう、考えさえしなかったのが油断だったのかな? いきなりだけど、人生これでおしまいかぁ。残念!





「大将、大変だ、ヨランタが捕まった!」

「えー? …いわんこっちゃない。ほんで?」


 いまだ昼前の酒場の扉をガチャガチャいわせて、4人の冒険者たちがマーチンのもとを訪れた。


「あ、いや、クールだな。俺達は救出に動かざるを得ないんだが、大将はアイツからなにか聞いちゃいないか?」


「あー、今度捕まったら手足もがれて奴隷商に売り飛ばされるから買い取ってくれ、って金を預かってる。ホンマに、そんな?」


「おそらく、もうそんな事態じゃなくなってる。」



‹ ↓ ここから読み飛ばし可 ↓ ›



 ヨランタの冒険者仲間にしてリーダー・ユリアンの語ったところでは、こういうことだった。


 今回、聖堂が強硬に動いたのは呪術師ギルドとの対決姿勢を強く打ち出した方針の一環で、情報を吐かせるためというのが大きい。ついでに、かなり隠し持ってるはずの財産も没収したい。

 それもあって、彼女がすぐ殺される可能性は少ない。

 そもそも聖堂では不殺の戒律を重視しており、事故死・病死は仕方がないが火刑等に掛けるときには王権側に引き渡して国家の裁きとするくらいに〝殺し〟は嫌っている。


 ヨランタにもまだ逆転の目はある。

 国の王様はずっと以前から彼女の回復魔法の強さを聞きつけて、利用したくて仕方がない。聖堂側が罪人扱いして彼女の技能を隠そうとするのに疑いの目を向けているのだ。

 水虫ひとつ癒せない聖堂の回復魔法に対する国王の信頼は浅い。



 あの女は「有数の回復魔法の使い手」を自称しているが、実際はぶっちぎりの世界最高の術士なのだった。虫歯や癌を気軽に魔法で治すなど彼女以外には考えもつかない。ただ、それを言ってしまうと聖堂のメンツを完全に潰してしまうので、厚かましいヨランタなりに遠慮している自称なのだともいえる。


 加えて、聖堂も一枚岩ではない。特に大主教は糖尿を患っている。この世界ではヨランタにしか治せない病。内部の保守派と原理派は飽くまで否定する姿勢を崩さないが、第三勢力の大主教派が伸びれば状況は大きく動く、はず。



 しかしヨランタも良くない。聖堂の教えでは、「この世界は人間がタイタンを滅ぼした功績として神から譲り受けた」という神話になっている。そのタイタンの生き残りがいて、その加護を受けたと公言するのを何度警告されても(はばか)らない頑固さはどうしたものか。

 タイタンを崇めるわけでも他人に説いて回るでもないので異端者とはされていないが、役人の面倒がりによって虚言として見逃されているに過ぎない。


 また、回復魔法と称して呪術を混ぜていることも宗教的に相容れない。彼女の師匠がその手法を提唱し、異端として聖堂を追放された問題でもある。

 ヨランタの得意な虫下し、あるいは癌や水虫などの治療も有り体に言えば呪殺だ。

 聖堂の回復魔法は自然治癒力を増幅させることしかしないため、病の患部を魔法で除去しようとはもともと想定していない。比べると、病原の部位を呪殺してしまえばいいという手法は効果的だ!としても、殺しを忌む教えでは決して受け入れられないものなのだ。



‹ ↑ ここまで読み飛ばし可 ↑ ›



「めっちゃ詳しいやん、ユリアンさん。」


「ややこしいことが気になる性分なんだよ。だから、前から本人とギルドで聞いて回ってた。

 で、な。俺らはヨランタと格別に親しいことは周知の事実だから、冒険者の仁義として手をこまねいてるワケにはいかねぇ。

 大将にも手伝えとは言わん。戦うのが戦士、市民は戦わない。ただ、なにかアイツから聞いてないかと思ってな。あと、人目につきにくいココで作戦会議をさせてくれ。」



「大丈夫かいな。特に聞いてることはないけど。で、放っといたらあの子、どうなるん?」


「順当なら拷問の末、火あぶり。悪くしたら、その才能だけ利用するために手段を選ばず、さて何をされるやら……」



 ひたすら聞かされたマーチンはしばらく目をつぶって腕を組み、ウ~ンと唸る。やがて、渋々、といった(てい)で、


「んー、俺、お尋ねモンになるんかな。ゆうてもな、しょうがないな。キミらに、ウチから持ち出せる今ある最強のアイテムを託そう。

〝ガソリンの一斗缶の缶詰〟。


 特別に燃えやすい油が入っててな、この缶自体を強火で(あぶ)ればかなりの大爆発を起こす。陶器の瓶に油を移し替えれば火炎瓶も作れる。

 3缶あるから、賢く使えば街をひとつ丸焼けにすることもできるやろ。使い方は、任せるわ。」


「お…おう。んー、ぉぅ。大将…マーチンさん、俺もアイツも、聖堂についてロクな説明をできやしないが、アレはアレで必要な組織なんだ。一般市民も普通の戦士も、心の拠り所にしてる。

 街道や橋の整備も、文化娯楽の諸々も、聖堂がないと始まらない。今更だが、それだけは知っておいてくれ。

 もちろん、ヨランタの奴は助ける。この、缶詰?も使わせてもらうし、大将をお尋ね者にもさせやしないさ。そういうことでひとつ、よろしく。」



「あ?うん、じゃ、それで。まぁ、あの子が痛い目にあうのは残念ながら当然でもあったから、あんまり無理せんと。ほどほどで、な。」








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