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第2部 開始★ 転移酒場のおひとりさま ~魔都の日本酒バル マーチン's と孤独の冒険者  作者: 相川原 洵
旅の記憶と芋焼酎 月にホエール

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(旅の記憶)


 イザベッラとも別れて、山を下りた平地の道を進む一行。


 このご時世、護衛が道中に山賊に変わることも、商人が他の商人と喧嘩した挙げ句略奪行為に走ることも、依頼主が最初から賊であることも珍しいことではない。

 が、肝心のマーチンにそういう発想がないので、コダイソウ1人に悪心があれば荷物を奪われてしまうことは簡単な体制になっている。


 いちおうマーチンもちょっとは心配して、最初だけイザベッラを護衛に回す算段もつけていた。ただ、途中以後の計算は面倒になって、ダメならダメでヨランタなら逃げ帰れるんじゃないの? 荷物盗まれたなら、しょうがねぇや。みたいな。

 雑な仕事だが、実際これ以上に緻密な予定をつけようもないのは事実。



 ただし、今回はヨランタがそれなりの呪術師なのでもあって。害をなせば呪われるし殺せば祟られる厄介さんであること、そのヨランタが聖堂とのツテを作っていて場合によっては聖堂までも敵に回すこと、肝心の積み荷の価値が不透明であること。から、おおむね母虎グループが(そむ)く心配はないと、マーチン以外のユリアンや冒険者ギルド員なども見ている。


 そしてこの缶詰交易が今後大きな利益になるならば、今後も任されるはずの母虎グループが得る利益は莫大になるはずだ。その限りにおいて、とりあえず信用してみよう。

 と、いう計算のもとで皆が動いている。





 この国は魔都山脈が見下ろす広い広い平地。どこまでも平地。

 その大半は平靴の高さまでの草が砂利の間に生えているだけの草原。ところどころ、川や地下水脈の都合で森や農地があり、農地ができるところに村があり、村々をつなぐ要地に町があり、町々をつなぐ要地に都市がある。


 それらは都合よく分散しないので、片寄って密度が高い地域では揉め事が起きる。幸い、現在の王政は安定していて、大きな内乱が起きるには至っていない。細かい内戦は国のどこかで常に起きていて、毎回、人死にも数人から十数人単位で避けられていない。

 都市の市民は戦士ではないが、農夫は準戦士扱いでもある由縁である。


 一方、片寄りがまばらな村は、魔物の災害や野盗による人災が起きて人知れず廃村になっていたりもする。



 ヨランタたちのルートは後者の地域を通る。前者の豊かな地域を目指すと数日で王都に到着するが、今回は特に用事がない。

 王都に背を向けると、自然、田舎へ田舎へと歩を進めることになる。


 初日は宿場があったが、この先に宿場はまばら。加えて、馬車2台分の人員が宿をつかう予算は割ととんでもない。この先は野営で過ごさざるを得ない。季節は晩夏。

 必然、母虎グループのメンバーは半裸になるわけだ。



「貴重な水の配給は、まずお馬様最優先。次にあーしとヨランタで、団員。だからっつってガブ飲みはさせねぇからな。暑ッ苦しい格好して汗かいても知らんぞ。」 


 そう言って笑うコダイソウは胸も腹も二の腕もたっぷり波打たせている、堂々とした半裸。


 半裸って、半々じゃないよね。割合でいえば普通の夏服でも1/3裸くらいではあるし、こいつら4/5裸くらいだもの、と、扱いに困りつつヨランタも覚悟して半裸集団の仲間入りする。

 団員は、イケメンと、そうでない男と、団長引き立て役の女たち。イケメンの前で締まらない腕や足や腹をさらすことに抵抗があるヨランタだが、団長を差し置いてクライアントにちょっかいを出すことは〝半殺しにして道端に打ち捨ての刑〟を意味することを知る男たちは、もっぱら敬遠の構え。


 ではあっても、こうなるとこの集団は蛮人系の魔物の群れとたやすく見分けがつかない。時に、こういう旅の一行が魔物のふりをして村を襲うこともあって、油断ならない。

 ただし、現在は馬車の積み荷がいっぱいなので特に問題はない。その積み荷の半分は水と食料、馬車のメンテ部品その他。旅の終盤では荷物が軽くなるので、どうなるかわからない。危なっかしい集団だ、ヨランタのまとめ役としての資質が問われている。





 田舎の平原から荒野、そして国外に出て山地の石国(サモ)に入って、原生林は魔物の巣なので避けて岩ばかりの土地を行き、〝無主の平原〟を経て、目指すユメさんの家屋敷がある国・南海を臨む海山国(フルワッカ)に至る。その途上。


「ウッキー!」

「ウホッ、ウホッ、オボボホッ ♠」

「キャーキキキ、キョー☆」


「おィ、そろそろ国境が見えるぞヨランタ、馴染みすぎだぜ。手前ェらもそろそろ人間に戻れ。」



「……ぁあー、久しぶりにヘヴィでちょっと壊れちゃったよ。で、今どこだっけ?」


「もう、そこの砦を過ぎたらお目当ての海山国(フルワッカ)だ。お迎えも来てるんだろ? まったく、厄介な辺りを猿芝居で通しやがって。」


「いやぁ申し訳ない。みんなノリが良くて、つい。」




 誰に追われているわけでもないのに荒野から荒野をただただロバに揺られて進む日々の果て、遂に目的地付近まで到着。途中は意識を朦朧とさせていたので仕事としては問題があるけど、これから上手くやれば結果オーライだ。

 衣服を整え、身なりを良くして国境を越える。



「ようこそカレー粉師匠様御一行! ほら、あなた達もご挨拶して! あ、娘と息子です。」

「カレー粉様こんにちは!」

「ごっちょちゃんっちゅ!」



 おひさしぶり、わざわざ国境まで一家でお出迎えのユメさん。

 旧交を温めたりいろいろの前に、まず私、カレーの人なのかしら。小さい子は私の顔を見てごちそうさまと言ったのかしら。


「紹介するわね、こちら、娘のユミ5歳。旦那似の濃い顔だからきっと派手な美人に育つはず。楽しみだね。下が、息子のドブリヴォイェ2歳。こっちが日本人顔になっちゃったけど、賢いから次期領主として領地を豊かにしてくれるのよ。カレー粉師匠も協力してね。」


 子供大好きなのが見てとれるユメさんの表情。たしかに娘ちゃんは5歳というには大人びた、今でもなかなかの美人さんだけど。名前は地味だね。派手な名前の男の子の方は、約束された永遠のボンクラだと私の目には映る。

 でも、これが日本人顔だというのか、マーチンの子供だと言われれば納得しかねないくらい、そういう顔立ち。…あ、そう思ってみていたらちょっとカワイイかも。



「オイお嬢さんがた、荷物はどこへ運びゃあいいんだ。」

「あ、そうだ、ユメさん。」

「ウチまではまだ半日歩いてもらいます。大丈夫?」



 そういうことならここで一泊しても良かったけど、コダイソウとしては到着が夜になるとしても強行軍を選択。勢いに押されて皆も、やや早足に残りわずかの道を急ぐ。


 その道の左右を埋めるのは歓呼の声をあげる群衆。皆が手を振り、旗を振り、熱狂するように叫ぶ。


「カ・レ・エ! カ・レ・エ!」



「ユメさん、あれは、何?」


「困るよねぇ。この辺は魔都と違って、珍しいことが全然ないから目立つのよ。それに最近、旦那の誕生日祭で、お土産のカレー粉にデミソースも混ぜて領民に振る舞っちゃった。

 そしたら評判になって。次はいつカレーが食べられるんだ、って。仕方ないからお金を貯めて、商人からもお金を募って大量発注したわけですよ。そのカレーが到着したってみんな喜んでさぁ。異世界グルメでチート人気ね。」






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