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【第一部・完結】七龍国物語〜冷涼な青龍さまも嫁御寮には甘く情熱的〜  作者: 四片霞彩
恋結ばれた二人の新たな契り、永遠へと続く真の愛を
101/107

【101】

『でも私が受け止めきれなかった神気を蛍流さんが吸い込んだのなら、蛍流さんは余分な神気を持っているということですよね。また前みたいに感情に左右されて天候が変わるんじゃ……』

『その心配は要らない。今回の一件で蛍流は青龍として覚醒した。これまでのように自分が神気に振り回されるのではなく、自分で神気を操るようになる。余剰分も少しずつ龍脈に流せるようになるだろう。今はまだ覚束ないが、近い将来には父とも対等に渡り合える青龍になる。これも君のおかげだ。感謝している、海音』

『あの、昌真さんはまだ黒龍と繋がっているんですよね。またいつか蛍流さんと敵対する日が来るのでしょうか……』

『俺は黒龍に選ばれた形代だから、当然のことながら黒龍とは繋がっている。だが俺が憎んでいるのはあくまでも七龍に傾倒したこの国の在り方であり、蛍流個人では無い。蛍流には父のような苦しい思いをして欲しくないだけだ。家族を守るためなら、苦しめている原因を取り除きたいと思うものだろう。たとえその原因がこの国とこの国を守護する七龍であったとしても……』


 一緒にこの国の在り方を変えないかと誘われた時からなんとなくそんな気はしていたが、やはり昌真は蛍流個人ではなく、国を護る七龍に選ばれた形代が国と民のために犠牲となる国の在り方を憎んでいる。そう思うようになった原因も身近で家族を―― 父親であった先代青龍が苦しむ姿を見ていたから。

 その先代の跡を蛍流が継いだ以上、いずれは蛍流も先代青龍と同じように苦しむようになる。昌真は蛍流まで父の二の舞になって欲しくないからと、七龍を奪ってこの国を変えようとしたのだろう。家族想いの立派な青年である。


『そうですね。家族のためなら、もしかしたら私も同じことをしていたかもしれません……』

『君も家族想いだな……だがこの話を蛍流にしたところ、君とは違って説得されてしまってな。蛍流は父や青龍、そしてこの国の民衆に乞われたから青龍になったのでは無く、この国を守りたいと心から思ったからこそ、自分の意思で青龍になったと。君の言葉で思い出したと言っていた』

『何か言いましたっけ。私……』

『ここに来たばかりの頃、蛍流に言ったのだろう。「最初から上手くいく人はいない。失敗を恐れずに、今後の糧にすれば良い」と。その言葉に救われたと言っていた。失敗続きに加えて役人どもの陰口で自信を失っていた若き青龍を肯定してくれた唯一の言葉だと話していたよ』


 言われて思い出せば、確かにここに来たばかりの頃に好き放題言って蛍流を侮っていた役人たちの非礼を詫びられた際に、蛍流にそう言ったような覚えがある。あの時は何も事情を知らない海音が生意気な口を利いてしまったので、もしかすると怒らせてしまったかもしれないと焦ったが、蛍流の心には別の意味で響いていたらしい。その時の紅潮した蛍流の横顔も思い出したからか、海音は面映ゆい気持ちになる。


『それで思い出したそうだ。父や歴代の青龍たちが大切にしていた世界を守り、俺や今後現れる伴侶――つまり君が住みやすい国にしたかったから、父の跡を継いで青龍になる決心をしたと。あわよくば異なる世界から迷い込んでしまった異世界人たちをも守れるようになりたいと、夢まで語られた。俺の完敗だったな』


 蛍流のために良かれと思って国の根幹を脅かすような大罪を犯そうとし、そして失敗した上に肝心の蛍流に否定された割には、昌真の顔は晴れ晴れしていた。やはり昌真の行動の起点にあったのは蛍流の存在なのだ。大切な弟の未来を救うために、自分の命を張ってこの国を守護する七龍に謀反を起こそうとした。昌真と蛍流の間にある深い兄弟愛を感じて、自然と海音の頬が緩んだのだった。


『蛍流さんのことが好きなんですね』

『たとえ血の繋がりが無かろうとも、蛍流は共に育った俺の弟だ。大切な家族が苦しめられているのなら助けたくもなる。勿論、君のことも』


 海音は瞬きを繰り返しながら、『私もですか?』と場にそぐわない声を上げてしまう。


『黒龍の力で他者には見えるはずが無い俺の姿が見えた時から、君が青龍に選ばれた伴侶であることは気付いていた。この地を守る守護獣は誤魔化せたのだが……やはり青龍に選ばれた君には敵わないらしい。俺が君を陥れてここから連れ出そうとした時も、君を取り巻く青龍の加護に阻まれたからな』

『あの雷って、やっぱり清水さまの力だったんですね。ただの静電気じゃないとは思っていましたが……』


 この山を降りて見知らぬ華族の元に嫁がなければならないことに嘆いていた海音が昌真の誘いに乗って手を取ろうとした時、それを阻むように青白い雷が二人の間に轟いた。ただの静電気にしては大きいと思っていたが、あれこそ清水が与えてくれた青龍の加護だったらしい。


『弟である蛍流の伴侶として認められた以上、君は俺の義妹(いもうと)ということになる。君の詳しい事情は蛍流から聞いている……随分と苦労したそうだな』

『そんなことは……』

『蛍流は分別のついた生真面目な優男に見えるだろうが、ああ見えて我が儘なところがあれば独占欲も強い。自分が欲しい物や好きな物は手に入れないと気が済まないんだ。そこの窓辺に飾っているゼンマイ式の玩具もそうだ。あれも元は俺が父から貰ったものだったが、気に入った蛍流が自分の物にしてしまった。父は飽きたら返されるだろうから今は貸してやれと言っていたが、結局返されないまま、いつの間にか君の手に渡っていた』


 昌真が示した部屋の窓辺には、以前この部屋の玩具が入った行李の中から見つけたゼンマイ式のブリキで出来た遊牧民と馬の玩具が飾られていた。

 和華が来た際に運び出した荷物を、今朝方蛍流と晶真がこの部屋に運んでくれたので、せっかくだからと海音が窓辺に置いたのだった。


『蛍流は君に懸想している。時には他の男に取られないように、度を超えた熱烈な愛を与えてくるだろう。君の気を引こうと甘えたり、我が儘を言って困らせたりするかもしれない。俺たちに対してもそうだったように……蛍流には甘かったからな、父も俺も』


 そこで晶真が大仰に溜め息を吐いた。眉間に深い皺まで寄ったことから、相当蛍流に手を焼かされたのだろう。海音は心の中でそっと晶真に同情したが、昌真にとってはそれさえも懐かしい思い出なのだろう。遠くを見ながらゆっくり話すのが何よりの証だ。


『蛍流や青龍、この世界のことに限らず、困ったことがあれば遠慮なく頼ってくれて構わない。そのためのお目付け役兼教育係だからな。それにしても少々難ありな男の伴侶をよく受け入れたものだ……これから苦労するな、海音』

『それも覚悟の上です。昌真さんもそうですよね?』

『そうだな』


 そこで昌真が小さく破顔したので、海音も笑みを浮かべる。そうしてあまり遅いと蛍流が嫉妬するからと、昌真は部屋を後にしたのだった――。


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