ウイルスくんと博士
「ついにできたぞ!!非生物会話装置じゃ」博士はでき上がった装置をなでながら電源を入れた。
その時、博士は大きなくしゃみをし、装置の真ん中に立てた一番最初にしゃべらせるつもりの木の板を吹き飛ばした。
何もしゃべらせるものを設置していない状態で装置が動き出した。装置は重たい音を立てながら木の板があるはずだった空間をその床から白く照らしはじめた。
何時間たっただろう。ようやく装置が停止した。正常に停止したため博士は安心した。もう夜だ、なんだか熱っぽかった博士は大好きなラジオ番組をかけたまま眠ってしまった。
翌朝、目覚めた博士はとても体調が悪いことに気がついた。風邪薬を取りに行こうと立ちあがったところ、どこからか声が聞こえる。
「こんにちは、ぼくたち、あなたのおかげでたくさん増えられたよ」
博士は驚いた。近くで声がするのに周りを見渡しても誰もいない。
「誰だ?わしはこんなこと信じないが…。ひょっとしたらもしかして妖精か?」と博士はふざけて言ってみた。
「妖精?とんでもない。むしろヨウセイはあなたです。昨日あなたがあの装置を起動してぼくたちにしゃべる力を与えてくれたじゃないか」
博士は昨日の記憶を思い出した。確かに装置は起動した。でもそれは空っぽだったはず…。気体を入れてもしゃべらせることができないから酸素や窒素のたぐいでもなさそうだ。バクテリアも生物だからしゃべらせることはできない…。
「いったい君は誰だね。心当たりがない。」咳こみながら博士は聞いた。
「ウイルスだよ。ぼくたち、生物じゃないんだ。生物と非生物の中間といったところかな?」
「ひょっとして、おまえらがわしに感染したということか!?」
博士の意識がもうろうとし始めた。彼は激しく咳をしながら見えないウイルスにつかみかかる。
「むださ、ぼくたちの大きさは約10000分の1ミリメートル。つかむことなんてできないよ。」
「おのれ…おまえらのせいで妻も友人たちも…。」
これが彼の最後の言葉だった。
つけっぱなしだったラジオ番組がニュースに切り替わる。
「速報です。新型の致死性ウイルスの感染が急速に広まっています。新型ウイルスは発熱のあと激しい咳がみられ、感染から24時間以内に死に至ります。発症前後にウイルスと名乗る声が聞こえるなど幻覚のような症状がみられ、その症状が見られた場合すぐに保健機関へ…」