18話 作戦会議
人の気持ちに作用するマナがあると聞いたことはあった、けれどそれがあの女の使えるものだとは。シャルが教えてくれた情報はかなり有用なものだった、それと同時に頭を悩ませることにもなってしまったけど。人の感情を操れてしまうなんてとんでもない、本人に自覚がないからこそ大事に至ってはいないが場合によっては世界があの女に堕ちる可能性がある。使い手に問題があるからこそ女神様が危惧していてたのはこういう事なのかもしれない。何より自覚なく周りに媚びているから友人と思っていたあの周囲の人達も無自覚に取り込んだ被害者なのかも。私やミレナには好きなんて感情はまるでないからその単語を使うこともなかった、逆にユウリ様には好きなんて言葉投げ付けていた可能性があるから一時の感情作用はあったのかも。ミレナが不思議がっていたユウリ様の件はそういう事だったのね。この事はふたりにも教えておかないと危ない。
授業が終わると教会に集まるように声を掛けておいた、そこでシャルに教えてもらったことを伝える。ふたりも予想外な展開に驚いていた、当然よねまさか人の精神に影響を与えるだなんて。注意喚起をして特にユウリ様にはこの国が傾くきっかけになるかもしれないから、用心した方がいいことを伝えた。予防する事が出来ればいいけれど、シャルも困っていたようにしつこく付きまとわれたらどうしようもない。なるべく身を隠したり、あの女が来れない所に行くしかないわね。
幸いと言うべきか本人には自覚がある様子が一切ない。あの学園でも精神作用系のマナを特定するための環境は整っていないから卒業するまでに自覚を持つのは難しいだろう。洗脳された人達は可哀想だけれどその感情を元に戻すことは出来るものか分からないのだそう、ユウリ様のように少しなら時間と共に効力が落ちていくようだけれど完全に離してしまわなければそれもまた難しいように思える。これから対策するべきなのはあの女のマナを自覚なく発動させないこと。すごく難しい問題だけどやっぱり国王陛下の前で化けの皮を剥がしてあげるのが良さそうね。
「ミレナ。あなたが女神様に頂いたマナって活用してる?」
「教会で行う相談会の時には使っています、怪我を治したりお話を聞いたりするくらいですけど」
「全く使っていない訳では無いのね。もしかしたら加護の力も使えるんじゃないかしら」
「私が加護を……?」
「マナが成長するのは分かっているでしょう、それなら加護も使えるかもしれないわ」
「ユウリ様を守るイメージですよね……、やってみます」
ミレナが祈りを捧げると光が収束していく、誰もが思わず見とれてしまうような美しい光。その光は大きな塊になると弾けて今度はユウリ様の元へと集まっていく、ふわりと包み込むようにして彼の周りへとどんどん集合していくとそのまま消えていった。これは成功したのだろうか、ユウリ様も不思議そうにして自分の手や身体を見回している。
「今のは……」
「加護を付けたつもりなんですが、どうでしょう」
ミレナ自身初めての挑戦だから自信がない様子、私たちにも確かめる手段はないから成功していることを願うばかりね。もう少し試行錯誤してみたいとミレナが言うので、そちらはふたりに任せることにした。私が居ても役に立てることはなさそうだから、家に戻ってレイラ達と作戦会議を立てることにする。
「早急に決着を付けるべきだと思います」
「私もそうは思うわ、でも今はまだ手札が弱いのよね」
「他国の王子を怒らせた時点であの女は処罰されるべきでは」
「それも含めていつかは言及してもいいけど、今はまだよ」
「シャルちゃんがあの場で罪として咎めなかったのだから、私たちが扱うには難しい問題よね」
「そう、ティリーの言う通り。シャルがあの場で咎めなかった事を私達がとやかく言うのは難しいのよ」
「でも、精神操作だなんて……放っておくと犠牲者が出るのでは」
「それに関しては私たちの知ったことではないわ、あの女が地獄に落ちるまで徹底的に詰めていくべきよ」
レイラが言う事にも一理あるけれど関係のない他人の心配をする程優しくはないし、そんな事に使う時間もない。それに今の私達にはまだ手札が少な過ぎる、あの女の最悪な性格は知れているとしてもそれだけで牢屋に入れることは難しい。牢屋に入れる以外にもひとつだけ可能性はあるけれどどこまで上手くいくものか、期待はしているのだけれどね。
「私はルイに賭けようと思ってるの」
「ですが、ルイ様はあの女の手中に収まってしまっているのでは」
「それを利用するのよ」
「どういうことかしら?」
「その時までのお楽しみよ、私は絶対にルイが行動を起こすと思っているの」
レイラにもティリーにも思い付かないようだけれど、あそこまでの愛情と執着を持て余しているルイなら絶対にその機会を逃さないと思ってる。それならその行動さえも逆手にとって私たちの復讐の中に組み込んでしまえばいい。
「私は思うのよ、普通に罪に問われて普通に牢獄に入れられても私達の積年の恨みは消えないでしょう」
「それは当然ですね、私達が奪われた年月はあの女に普通の罪を償わせたところで取り返せない」
「そうね、ひとりでノアちゃんを待ち続けた日々は本当に寂しかったわ」
「それならやっぱり、それ相応に永遠と苦しんでくれた方が私達は嬉しいじゃない?」
「それも当然です」
「そうね、当然だわ」
「それならやっぱりルイに行動を起こしてもらった方がいいわ」
不思議そうにしているふたりを納得させるだけの説明を今の私には出来ないのよね。それでもこの選択が正しかったと思える結果になるように努力だけは怠らないようにしないと。さあ復讐の準備を進めていきましょう。そう声をかけてふたりにはまたギルドで名前を売ってもらう、ノアという女がティーカップを連れて町のために働いている。という噂が広まってから私が動けない時にはレイラとティリーのふたりで仕事をこなしてもらうようにしている。私自身が居なくてもティリーが居ることでレイラをノアと勘違いしたり、私の仲間だと分かっている人達からすれば、ノアがいなくても町のために頑張ってくれていると勝手に好感度を上げてくれる。
実際に学園の後や休みの日にギルドへと顔を出しては高難易度の討伐などをこなして自分の力を高めることをしつつ、自分自身での好感度上げも忘れない。合間に合間に勉強もしてシャルとの約束も守っている、何故かは分からないけれどあの時の約束が彼が入学したことで無くなることはないと思っていたから。そうして迎えたテストではシャルとふたりで上位争いをした末に負けてしまったのよね。それでも彼自身も努力しているのなら私が手を抜くことは許されないと気を引きしめることが出来たわ。ミレナはついに加護が成功したと喜んで報告をしてくれた、ユウリ様も自分を守る温かな力を感じていると言っていた。いつも守られてばかりで情けない、自分にもミレナを守る力が欲しいと剣を習い始めたのには驚いたわ。そんな忙しい日々を過ごす中で時折、エレノアが行っためちゃくちゃな事件の話なども聞いていた。いつかの時に私とシャルが潰した宝石店で買っていたものが盗品だと証明されたのに、それは自分が買ったものなのに返すのはおかしいと騒ぎ立てたという話が個人的には一番面白かったわ。駄々をこねたりせず素直に返してあげるだけでいいのに、頑なに自分の評価を下げるその姿勢には脱帽ね。




