17話 気味の悪い感情
「なんなのよあれ……」
仲良さげに話す男女の集団を見付けて監視していた。私を除け者にして有理くんとお喋りなんてエレノアはやっぱり邪魔をしに来たんだと思っていたのに、別の男を引き連れてなんだかいい雰囲気を出してるしなんなのよ。私がヒロインなのにあいつらばっかりイチャついてるのは納得がいかない。大体あのイケメン誰よ、私の作った設定だと有理くんにあんな知り合い居なかったはずなのに。どんどんシナリオが変わっていってるのにミレナはずっと有理くんと仲良いし、エレノアもやってきてようやく悪役令嬢らしい事でもするのかと思ったら真面目に授業を受けてる、ほんとに意味分かんない。
「どうしたの」
ルイが私の肩に頭を乗せて甘えるように擦り寄ってくる、まるで猫みたい。なんか居るのよと不機嫌そうに返すと集団を指さした。ふーん。なんて興味がないような声を出していたけれど、こっちを見ろと言わんばかりに抱きしめられて嫉妬しているのがわかった。
「あんなやつらどうでもよくない、俺とデートの約束でしょ」
「そうね、行きましょ」
付き合っているわけじゃないけどこまめにデートはしていた、ルイだけは他の男達よりも特別に可愛がってる。こうでもしないといじけちゃうしそういう時って決まって離れてくれなくなるから少しめんどくさい。でも逆にこまめにデートさえしていればたまに放っておいても文句も言わないし、何より彼女のように丁重に扱ってくれるからデート自体も楽しい。
「エレノアは俺の事好きだもんね」
「好きよ、当たり前でしょ」
こうして愛を囁き合うのも恋人同士みたいで気分がいい。ルイも周りの女に噂されるくらいはかっこいいし、なんであの方があの女に、なんて僻みも聞こえてきて悪くないのよね。優しい所もあってそういう所が周りに影響を与えていたけど最近では私以外に興味がない様子でそれがとても良い。ルイが私だけを見てくれるなら万が一、有理くんがミレナの毒牙から解放されなかったとしても保険になる。それに新しくイケメンが追加されたからこれからもっと楽しくなるかもしれない。
そんな企みを知らないでいたから次の日には地獄を見ることになった。隣国から勉強しに来たという名目で入学した事で、やたらと玉の輿狙いのハイエナに目を付けられてしまったらしい。朝から同級生の質問責めでノアさんに助けを求めて視線を送るが断られてしまう始末。ノアさんには瓜二つの抑止力がいた事でこんなに囲まれてはいなかったらしい、ユウリも役立たずで止めろって視線を送ってもにこやかに手を振ってくるばかりで意図すら理解していない。あの人本当に国の仕事とか出来るんですか。その中でも特に厄介だったのがエレノアという名の偽物で朝から付きまとってきて鬱陶しい。他の量産型みたいな人たちと一緒で僕の立場を狙う汚い感情がうるさいにも程がある、フィンに命令して囲んでくる奴らを遠ざけても自分は特別とでも言いたげに近寄ってくるから、ノアさんの目的がなければ外交問題にでも発展させて、牢獄に投獄してやりたい気持ちがあった。心做しかノアさんも落ち着きがないですしね。
何より最悪だったのはこの女のマナだ。ノアさんは“マナが掴めなくて下手なこと出来ないのよね”と言っていた。それもそのはず、精神に作用するマナはその性質上本人にも他人にも分かりにくい。その中でもこの人のように特定の単語に呼応して反応するマナは、専門の鑑定士が居なければその存在を認知すること自体が難しい。僕の場合は他の精神作用系のマナと違って自覚がしやすい分、自分で理解して使うようになった。ただこの女の場合は自覚もなければ周りに対応するマナの持ち主が居なくて野放しになっている、僕自身が同じ系統のマナで精神耐性を持っていたからこそ防げているが、そうじゃなかったら暗示にかかっていたかもしれない。しかもノイズの響き方からして特定ワードは“好き”って単語だろうな。愛されたいっていうこの女を体現しているようで気持ち悪い。
「うるさいな……頭が痛い。フィン、何とかしてくださいよ」
「えっ、大丈夫ですかシャルレイ様、私が介抱しますよ」
「失礼ですけど、ご令嬢離れてもらえますか。あなたが居るとシャルレイ様が休めない」
「なによ、女の子がいた方がいいでしょう」
「自惚れるのもいい加減にしてもらえますか、貴女の声がうるさいんですよ」
言っても言っても聞かなくて図々しいにも程がある、面倒くさくなりそうだから黙っていたけれど我慢の限界だった。この国の人は優し過ぎるところがあるみたいですね、初めてこんな形で侮辱された。って感情がダダ漏れだ。男なら誰でも言うことを聞くと思ってるらしい、フィンは影響されるかもしれないから注意させないといけないな。
「二度と僕と従者に近寄らないでください」
「なんで……そこまで言われなきゃならないんですか」
「自分では気付いていないみたいですけど、うるさいんですよ。なにもかも」
「どういうことですか、私はただ仲良くしたくて……」
「そういう所ですよ。……ノアさん、ちょっといいですか」
あまりにも物分りが悪いから、ノアさんには申し訳ないけれど利用させてもらう事にした。彼女が近くに居るならこの人は遠ざかる、突然呼ばれて戸惑いを見せているが構わない。そのまま彼女を連れて教室を後にした、幸い次の授業までは時間がある。フィンに監視をさせると空いている教室を拝借してさっき得た情報を伝える事にした。彼女の体を奪った悪女、似ているというか同じはずなのにこんなにも別物に思えるのは性格の違いだろうか。
「あの人、精神操作系のマナですね。希少性が高く自分でも気付いてないです」
「えっ!?嘘……本当に?シャルは大丈夫なの……?」
「僕は耐性があるので大丈夫です、でも逆に僕以外は危ないと思います」
「そうなのね……でも、なんで……いえ。無粋ね、ごめんなさい」
「ありがとうございます、僕の事に関してはいつかまたちゃんと教えるので」
「ええ、信じてるわ」
あの人とは違って物分りがいい、心の奥底では気になって仕方なくてもこの場は僕の立場もあって黙ってくれる。こういう所が要領良くていいと思うんですけどね、この国の人間って見る目ないんだろうな。
「本題ですが、恐らく“好き”という単語が起爆剤ですね。愛されたい執着がマナとして影響してるものかと」
「そんな簡単なことで人を操れてしまうならとんでもない能力よ」
「いえ、それ単体では少しあの人のことが好きになる程度でしょうね。ただ繰り返し聞かされることで夢中になっていく、洗脳状態に陥るものだと思われます」
「それなら納得出来たかもしれない、私の幼なじみがあの女に執着してるのよ。それってもしかして」
「洗脳状態にあるのかもしれませんね。潜在的にあの人の事が好きだった可能性もありますから、絶対ではないですけど」
幼なじみなら元々ノアさんの事が好きだった可能性がある、そうなれば恐らく成り代わったあの人を延長として好きになってしまったのかもしれない。気付いた時には遅くて本当に好きだった人よりも、今の存在を好きになってしまっている。なんて事が普通に有り得るはずだからその場合は洗脳と言うよりも増幅剤として機能しているのかも。そんなことを考えて話している内にフィンから呼び出しがかかる、もう授業が始まる時間みたいだ。ノアさんと共に教室へと戻るとあの人が睨んでいたけれど視界から無いものとしてそちらを見る事もしなかった。心の中を盗み見て、悔しがってるなあ、なんて思いながら。




