16話 転入生はひとりじゃない
放課後になるとミレナに呼び出されるまま中庭へと向かった、ティリーには一足先にお屋敷の方へと戻ってもらってギルドの様子を見に行ってもらう。中庭には植物で出来たアーチ状のパラソルの下に小さな机と椅子がある休憩が出来そうな空間があり、その空間の中に王子様の姿があった。ミナにバレると厄介だから急いで来たのね。初めてちゃんとお目にかかるユウリ様は想像していたよりもちゃんと王子様で、教室で見た時にも女の子たちがメロメロになっていたからその気持ちだけはよく分かった。
「はじめましてユウリ様。私はエレノア・アーデント……今はノアと名乗っております」
「はじめまして、ノア。ミレナから話は聞いてるよ、俺に何か出来ることがあるのなら何でも言ってくれ。助力しよう」
「ありがとうございます。この学園への入学の手引きもして頂いたようで」
「バレていたか。ミレナがいつも世話になっているからそのお礼も兼ねてね」
「ユウリ様!」
「ごめんごめん、冗談だよ」
ナチュラルにいちゃついている。これを見せられていたら確かにあの女なら激昂しそうだわ。私ですら見ていていいものなのかと考えさせられてる。レイラは露骨に目を逸らしているし、こんなに幸せラブラブオーラを撒き散らしておきながらこのふたりが付き合ってないってどういう事なの。そしてこの状態のユウリ様を奪おうなんて考えられるミナもどうなってるのかしら、肝が据わってるどころか毛でも生えてそうな勢いね。心臓と肝に剛毛が生えている……本当にそういう感じでしょうね、あの女は……。
「もう、ユウリ様。ノア様にお話があったのでしょう」
「私にまだなにか……?」
「ああ。実はこの学園にもう一人転入生が入る予定でね」
「えっと、それと私になんの関係が……?」
「あれ。結構親密に関わってるって聞いていたんだけど、もしかして知らないのか」
王子様の仰りたいことがよく分からない、転入生と私との関わりってそれは。そう思っていたところで後から遅れてやって来た人物を見て目を見開いた。肩に付く程度に少し長い黒い髪、灰色と紫を混ぜたような澄んだ瞳、その風貌を私が見間違う訳がなかった。
「シャル!?」
「こんにちはノアさん、もう少し秘密にしておきたかったんですけどね。そこの人がうるさくて」
「うるさいって人聞きが悪いな、確かに勝手に呼んだのは俺だけど」
「そういうのなんて言うか知ってます?余計なお世話って言うんですよ」
驚きで彼の名前を呼ぶことしか出来なかった、この場にシャルが居ることだけでも信じ難いのにそればかりか王子様に軽口を叩いている。これこそ本当の不敬罪になるのでは……いや、こんなやり取りを出来る仲として考えるべきなのでしょう。でもどういう経緯があれば王子様と軽口が叩けるというのだろうか、そう考えた時に隣国の人であり従者が居ることを考えたら自然と頭の中で導き出された答えは彼が隣国の王族であることだった。それならばうちの国の王子とこれだけの口上を繰り広げていても疑問はない、他にも聞きたいことは山ほどあるけれど。
「あの、まさか……シャルって隣国の王子様……」
「そうですよ。さすがですね、今この場の情報だけで考え付いたんですか?」
「そう……だけれど、いえ。そうです、待ってお願い状況の整理が……」
「ノアさんが取り乱すところは初めて見たなあ、いいものが見れましたね」
「お前はいつもそうやって……、まさかとは思ったが言っていなかったんだな」
「言ってないもなにも、ノアさんの後に手続きしましたから」
あまりにも予想外の展開に頭痛すらしてきたわ、つまりシャルは私が学園に行くことを決めた後に入学を決めたわけで着いてきたってことになるのかしら。なんてそれは流石に思い上がりも甚だしいわよね。今までの事はまあ普通に考えて王子であることを隠して情勢でも見ていたって所だろうし、学園に通う話を聞いて留学もありだと思い付いた。ってところかしら。ミレナも状況が分からなくて子犬みたいな顔をしているし、ちゃんと紹介してあげるべきね。
「ごめんなさい、ユウリ様。ミレナも唖然としているし、彼のことをちゃんと教えて頂いても……?」
「ああ、すまない。彼は隣国であるモラードの王子であるシャルレイ・ヴェレットだ。俺の昔からの友人でもある」
「不本意ですけどね」
「本気か冗談か分からないことを言うのはやめろ」
噂には聞いてましたが、おふたりは仲がよろしいのですね。なんて言いながらミレナも挨拶をしている。シャルは名前も偽っていたのね、そればかりは仕方のないことだとは思うけれど今更私も態度を改めることが出来るだろうか。今まで知らなかったとはいえ要人に不遜な態度を取ってしまった。考え出すとキリがない事に頭を抱えていると、それを見透かしたかのようにシャルレイ様が私の視界へと入ってくる。
「何を考えているかは聞かなくても分かりますけど、そんな事今更直さないでいいですからね」
「いえ、そういう訳にも……」
「僕がいいって言っているのに、逆らう方が不遜では?」
「それもそう……よね、あぁもう、言ってくれればよかったのに」
「言ったらノアさんは最初から距離を置いていたでしょう」
「それもそうだけれど……」
視界の端ではレイラがフィンに肘を叩き付けていた、あぁそうよねその気持ちも分かるわよ。もちろん私もシャルに同じ事をしたいかと言われたらそうは思わないけれど、気持ちだけなら分かるわ。やり場のないなんとも言えない気持ちになっていると、渦中の当人も不安げな表情を見せてくる。
「すみません、言うタイミングがどうしてもなくて」
「いいのよ、事情を考えたら当然だと思うわ。ただちょっとまだ飲み込めなくて」
「ゆっくりでいいです、僕の立場も含めて受け入れてください」
「えっと、それって……?」
「今まで通り仲良くしてほしいってことです」
「それはもちろん、今更改めるだなんてやっぱり出来る気がしないわ」
一瞬どきっとしてしまった、言い回しが独特だったけれどなんだか大切なことを言われたような気がしたんだもの。本当にシャルには色々と驚かされるし振り回されて調子が狂う。なんだか嬉しそうに笑っているし、ちょつと腹立たしいわ。
「まあそんな訳で、明日からは僕も同級生ということになりますので、よろしくお願いします」
「ノアが一緒に居た方がシャルレイも安心だろうから、俺からもこの話をしようと思っていたんだ」
「私も学園には不慣れですので、よろしければユウリ様とミレナにも頼りたいと思っている所存です」
「当然です、わたくし達にお任せください。ね、ユウリ様」
「ああ、出来うる限りのサポートを約束しよう」
こうして私たちは初対面を終えた、ユウリ様はシャルが私と知り合いだと聞いて入学の話をしているものだと思っていたらしい。それが蓋を開けてみたら何もかも知らなくて寧ろ驚いてしまったのだそう。ここまで秘密主義だと思わなかったとユウリ様は言っていたけど、彼くらい警戒心があった方が身の安全は保証されると思うのよね。寧ろ僕くらいの警戒心を持った方がいいと思いますけど。ってシャルも言い返していて笑ってしまった。似たもの同士かしら私達って。




