15話 ふたりのエレノア
「それじゃあ、また」
「ええ、また会いましょう」
暫くその場で談笑していたがレイラが戻ってきたので切り上げることにした、何やらフィンとレイラも話をしていたけれどあんなに仲が良かったかしら。私の知らない所で皆それぞれの交流を深めているものね。
「フィンと何を話していたの」
「暫く会えないかもしれないという事を少し、ノア様から聞いていると生意気だったのでお灸を据えておきました」
「貴方たちいつの間に仲良くなったの?」
「仲良くなんてありません、従者同士で意見の交換をしているまでです」
こうは言っているけれどレイラが無意味に人と話すことも珍しいから、存外フィンのことを気に入っているのかもしれないわね。それか本当に従者同士で何かと話すことがあるのかしら。微笑ましく見ていたら珍しく反抗されてしまったわ。
それはそうと入学の手続きには暫く時間がかかるものだと思っていたから、すんなり話を通してきてしまったレイラに驚いた。大体の貴族が通う事になるあの学園には入学にあたっての試験などは特にないのは知っていたが、どういう手続をしてきたのかしら。そう思って問い掛けると予想外の名前が上がった。ユウリ様だった、つまりミレナから私の入学に関しての話を聞いて根回しをしてくれたという事ね。思いがけない援助に驚きはしたけれど、厄介な事にならずに入学が出来るというのは正直とてもありがたいわ。王子様の推薦ともなれば断る理由もないのでしょう、私の身分に関しては城下町で安全性や有用さが保証されているからこの国を総べる立場にある人には知れていたようだし、ギルドで頑張って依頼をこなしてきたかいがあったわ。
「それにしても、ミレナの行動が早いわね」
「たまたま孤児院の方にユウリ様が居たようです」
「それで話が通ったのね、あの子も意外と抜け目がないわ」
ミレナとユウリ様の手助けもあり入学に関しては大した障害にならず、レイラの手腕もあって学生服もすぐに手に入れられた。こんなにも簡単だと拍子抜けしてしまう。でも大変なのはここからよね、シャルと約束したのだから勉強もしなくてはならない。必要な知識は付けていたつもりだけど、最近は依頼をこなすことに注力していたから知識量は落ちてるわねきっと。一先ず学園に行ってみて今後の事は考えるしかないわ。
「今日は早めに休みましょう、明日から学園に通うわよ」
「はい、私も当然従者として付き添わせていただきます」
「そうね、頼りにしてるわ」
そうして迎えた翌日はとんでもなく騒がしいものになった。早速というべきかミナと出くわす事になると散々騒いで喚いてくれて本当に迷惑極まりない事にお話にすらならなかった。私を殺しに来たの!?なんのために来たの、こんなやつと同じじゃ勉強なんて出来ない。などなど、ありとあらゆる否定文を連ねられて呆れてしまった。
「あなた、周りの方へ迷惑だわ」
「酷いこと言わないでって前にも言ったじゃない!」
「どっちの方が酷いのか自覚がないの?」
転入早々に嫌な目立ち方をしているけれどこれも想定内、ほぼ同じ顔をした女が居るんだもの。野次馬たちの声も当然聞こえている、ミナの周りには男が数人、今日はルイの姿はないようね。私の傍にはレイラとティリーがいる、まあティリーの姿は私たちにしか見えないけど。
「エレノア様に近寄らないで頂きたい」
「そっちが勝手に寄ってきて騒いでいるんじゃない」
「彼女はこんなにも怯えているのに何を言っているんだ」
「それはこっちのセリフよ、勝手に騒ぎ立てておいて人を悪者扱いするなんて品格を疑うわよ」
よく分からない男たちも騒いでくるけど全員頭が残念なのかしら、こっちが悪くなるようにしたいのだろうけど全然なってない。大体エレノア側の評価って地の底程に落ちているのだから周りから見ていても転入生の顔が似た女にイチャモンをつけているようにしか見えないのよ。“あれってエレノア様……?”“双子の姉妹でもいたの?”“でもなんか絡まれてないか、可哀想”なんて感じで周囲の評価はこちらの味方でしょう、学園内での評価も上げていかないと。
「お騒がせして申し訳ありません」
周りへ向けて表情を作って頭を下げる、私と同じようにちゃんとレイラも頭を下げて周囲への好感を拾っていく。もちろんミナはずっと騒いでいるけれどこんなところでこの女の相手をしてるだけの時間がもったいない、ミナの評価を下げることは第一目標だけど私が貴方に地獄を見せるのは卒業の日って決めているの。だって私はシャルと約束したのだから、成績でも人としてもあんたを負かせてやるから覚悟しといてね。
「皆様の邪魔よ、退いてちょうだい」
騒ぎ続けるミナを無視して横をすり抜けていく。背後から待ちなさいよ!なんて金切り声が聞こえたけれど後ろも振り向かないで職員室へと向かう。今の私たちには背後からの奇襲も意味がないし、敵に背を向けたところであの女じゃ敵にもならない。今は学園内での立場を作ることが目的だから、先に先生方の信頼から獲得していきましょう。そうして担任の先生と学園長先生にご挨拶をして複雑な事情は隠したまま、エレノアとは赤の他人として認識してもらう。間違ってもあんな女と姉妹だなんて認識されたくないもの。話が終わると授業に参加するのだけれど今まで様々なことを学んできたおかげか、意外と着いていけないものではなかったのが幸いね。これなら勉強しながらでも色んなことが出来るわ。ミナはもちろん私たちを睨んだり影で何かしら言っていたようだけれど、私の行動と結びつかない悪評は当然信じて貰えずに転入生の顔が似た女に嫉妬する哀れな女として噂になっていたから笑っちゃう。それでも一定数取り巻きの男や性格の悪そうな女が居るのはやっぱりマナのせいかもしれないわね。
「ノア様、学園でお会い出来るなんて嬉しいです」
「本当になんだか不思議な感じね」
「ふふ、何か困ったら聞いてくださいね」
「もちろんよ、頼りにさせてもらうわ」
授業が終わるまでそわそわしている姿が見えていたからなんだか可愛い、合間の休み時間にミレナが声を掛けてくると癒しの女神と知り合いの女ってだけでまた噂される材料になったみたい。卑しくも嫉妬している視線も感じるけれど汚い視線を浴びせないでほしいものだわ。ミレナと話しながらもミナの様子を監視しているけれどこういう時は普通の人間を装って過ごしているのね、あんなにも薄汚い姿を廊下では晒せるのに教室では一般人の顔をするなんてバカの考えることはよく分からない。
「教室では大人しいのね」
「あまり人がいないところじゃないと攻撃的にはならないんです」
「やり方が陰湿だわ本当に」
確かにさっきの廊下も数人程度しか見ていなかったし人の目が少なければ少ないほど本性を表すのかしら。廊下でも今でもマナの詳細がつかめない、なんだかあまり女の子には触っているようにも思えないし、それでも取り巻きに居るということはマナの干渉を受けていると考えて間違えはなさそうなのだけれど。発動条件が分からない以上、不必要な接触であの女に対する好感が上がるのは勘弁してほしい。ミレナも私も女神様の加護があるから滅多なことはないと思うけれど、あの女を好きになるだなんて絶対にイヤ。




