気付けるヒントがあったのに、どうして気付けなかったんだ
自転車で50分弱、漕いで行った。
オープンしたばかりの、ディスカウントストアに。
夏の自転車は、疲れるものだ。
それが、脳を鈍らせたのかもしれない。
暑い中を、ずっと休まず漕いだ。
だから、きっと気付けなかったんだ。
あんな、分かりやすいことに。
運動をせず、疲れていない状態。
しかも、冷房室に30分入り浸った後。
そんな脳なら、気付けたはずだ。
普通なら、気付ける程度のやつだ。
坂を、いくつ越えたことか。
何回、立ち漕ぎをしたことか。
何回、虫が顔に体当たりしたことか。
何回、水が欲しいよ、と思ったことか。
自転車で、何度、よろめいたことか。
自転車で、何度、まだかぁ、と思ったことか。
それでも、乗り越えてきた。
でも、乗り越えられない壁もあるのだ。
世の中には、色々あるから。
ディスカウントストアに着いた。
そこで、野菜を買った。
お菓子を買った。
飲み物を買った。
他にも、色々買った。
Tシャツが、399円。
かなり、安すぎる。
それを、2つ買った。
すぐに決まった。
速乾Tシャツが、安い。
それだけで、買った。
即断即決だった。
即断即決、速乾Tシャツ。
即断即決、速乾Tシャツ。
即断即決、速乾Tシャツ。
3回、繰り返してしまった。
早口言葉みたいに、なってしまった。
いや、違うかもしれない。
決して、言いにくくはないから。
特に何も考えず、買っていた。
安いものを買うとき、そんなに勇気はいらない。
スッと、手に取って買ってしまう。
399円も積もれば、山となる。
399円も積もれば、山となる。
それなのに、簡単に買おうとしてしまう。
それは、あまりよくない。
そこは、改めないといけない。
ただ、そのTシャツが今、大活躍していることは、間違いない。
買うとき。
セルフレジ。
そこしかなかった。
人がいるレジが、ひとつもなかった。
普段も、セルフレジがあれば利用する。
だから、抵抗なく、レジを開始した。
買う予定のTシャツから、ハンガーを取る。
そして、スキャンして、エコバッグに入れる。
そんな簡単なことが、出来なかった。
どうしても、出来なかった。
不器用なのか。不器用なのか。
僕は他の人より、不器用なのか。
そう思ってしまった。
でも、針に糸を毎回、5秒以内に通せる男だ。
ハンガーなんて、普段は簡単に外せるのに。
なのに、ハンガーでつまずいた。
ハンガーで、つまずいてしまった。
Tシャツから外したハンガーを、床に落として。
それに、つまずいたのではない。
そんな、ドジはしない。
ハンガーで、行き詰まった。
それだ。
困っていたら、店員さんが来てくれた。
そして、Tシャツから簡単に、ハンガーを外してくれた。
やはり、僕が不器用だったのか。
さすが、店員さんだな。
それくらいで、そのあと、特に気にすることはなかった。
数日後、そのTシャツを着る時が来た。
着ようとした。
首を先に入れて、着ようとした。
おかしかった。
いつものTシャツと、違う感じだった。
通らない。
押しても押しても、通らない。
丸首Tシャツだった。
しかも、頭が通らないほどの細い穴。
僕は頭の大きさには、定評があるけど。
普通の人でも、通らないと思う。
マスクに顔を、飲まれそうになっているようなアイドル。
そんな人なら、通るかもしれないが。
ハンガーが抜けなかった。
なかなか、外れなかった。
それが、頭の入口が小さいよ、というヒントだったのだ。
そこに、気付けなかった。
よく気付くね。
そんな言葉ばかり、投げ掛けられた少年時代だった。
それしか取り柄がない、人間だった。
だから、今回気付けなかったのは、悔しい。
安いだけで、買おうとしてしまった。
首部分の形状も、穴の大きさも見ずに、買ってしまった。
速乾、地味色、激安、の3つが揃った時点で決めた。
他の重要であろう部分を見ずに、買おうとした。
失敗した。
ずるずると、引きずるくらいの過ちだった。
ほぼ安さで、決めてしまった。
女子高が共学になって、男子が入ってきた。
だけど、男子がそれほど入って来なかった。
そんな高校、みたいな感じだ。
女子が安さ、男子がその他みたいな感じだ。違うか。
Tシャツは着れるかどうかが、一番重要なのに。
そこを見ていなかった。
着られなかったら、399円を海に投げ捨てるようなものなのに。
海にお金は、絶対に投げ捨ててはダメだ。そうだ。
399円を捨てるようなものなのに。
そこを、全然見てなかった。
なんとか、着られた。
Tシャツがなんとか伸びて、助かった。
それが、救いになった。
頭が大きいと、脳も大きくて、頭の回転も良くなる。
その反面、入口の小さい丸首Tシャツは、着れなくなる。
頭の回転がいいはずなのに、鈍くなって、入口の小さい丸首Tシャツを買ってしまった。
頭の回転がいい人が、回避できる入口の小さい丸首Tシャツを、回避できなかった。
ジレンマというやつか。
ジレンマという言葉が、ピッタリくるかは分からないが、そんな感じだ。
視野が狭かった。
ほぼ、ひとつのことしか見えていなかった。
どのくらい狭かったかというと、その丸首Tを着ようとした時に見える、景色くらいだ。
ほぼ見えない。
穴が小さすぎるから。
今後、同じようなことを、起こさないためには、どうしたらいいか。
考えようと思う。
一番大事なことは、きっと何のために買うかだ。
買う一番の目的を考えれば、気付けるはずだ。
人生は謎解き。
そんな感じで、これからの人生を過ごそうと思う。