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ハイスペックおじさんは異世界ファンタジーを夢見る

作者: オトヤ

13歳 中学1年の3月。

雪も溶け始め桜の蕾ももうすぐ開く季節。

終業式も間近に迫り友達は春休みにどう過ごすか話し合ったりしている。

春は始まりの季節とは誰が言った言葉だっただろうか。

確かに始まりの季節だった、それは一つの終わりがあったからこその始まりだったんだと気づいた……。


両親が、離婚した。


父の不倫が原因だった。

こともあろうに僕と母さんの前にその不倫相手を連れてきたんだ。

そして僕達の前で頭を下げてこう言ったんだ。


離婚してくれ。

彼女を本当に愛してしまったんだ。

慰謝料も養育費もしっかり払う。

だがこの家からは出ていってほしい。


母さんはいつもニコニコと笑顔で、そんな母さんが僕は大好きだった。

この時もいつものように微笑んではいた。微笑んではいたんだ。

ただ、その顔はとても悲しそうで、辛そうで、反論もせず静かに頷いていたんだ。


僕は父が嫌いだった。

この出来事があって父……。いや、アイツが大嫌いになった。


転校の手続きは特に問題なく進み、友逹からは急すぎると驚かれたり悲しまれたり激励されたりして、僕は終業式をまたずにこの学校を後にした。


行き先は爺ちゃんと婆ちゃんの家。

母さんの実家だ。


春、始まりの季節。

出会いと別れの季節。

この引っ越しで僕はおじさんと出会ったんだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



引っ越しから数週間、今日から新しい学校への転校初日とともに始業式の日。


中学2年になり初めての登校だ。

一度転校する学校を見学した時に家からの道も覚えたから問題ない。


「行ってきます」


靴を履いてからそう言って玄関を出る。


「行ってらっしゃい、ハルくん」


母さんが笑顔で見送ってくれた。

母さんは引っ越してきた当初の塞ぎ込んでいた時のつくり笑顔とは違い、最近は以前のように心から笑っているように見える。


多分あの人のお陰なんだろう。

そう思っていると、僕と同じタイミングで


「行ってきます」


隣の家から一人の男性がでてきた。

髪をオールバックにしたグレーのスーツを着こなす壮年の紳士。

この人こそ引っ越した当初落ち込んでいた僕と母さんを励ましてくれた人『元木康司(もときやすじ)』さんだ。

母さんの小学校からの幼馴染だそうで色々と気をつかってもらっている。


「おや、春斗(はると)君おはよう。そうか今日から学校だったね」


「はい!康司おじさんおはようございます!」


出会ってからそんなに時間も経っていないけど、僕は康司おじさんに憧れを抱いていた。

おじさんは物腰の柔らかくて博識で僕が質問しても嫌な顔一つせずに親身になって答えてくれた。

母さんと同じ年齢と聞いているけど康司おじさんは独身らしい。

恋人もいないそうでおじさんの両親も心配してるみたいなことを婆ちゃんが母さんに言っているのが聞こえた。

頬をほんのり赤く染めて母さんは困った顔をしていた。

短い時間だけど接してみて、僕はアイツと比べてこの人が父親だったらと考える事もある。


アイツとはここ数年まともに会話をしていなかった。

それどころか家に帰ってくることも少なくなり、帰ってきたとしても夜遅くだったりして顔も合わせる事も余り無かった。

母さんが料理を作って遅くまで起きて待っていたことも僕は何度も見ている。


だけどおじさんは空いている時間の度に僕達を連れて出掛けたりもしてくれた。

学校までの道を案内してくれたのもおじさんだった。


「だけど大丈夫かい?」


するとおじさんは少し眉を下げて聞いてきた。


「何がですか?」


僕は何のことかわからずおじさんに聞いてみた。


「いや、以前教えた道だけど一昨日から工事が始まって通行止めになっていてね。学校に向かうなら少し遠回りの迂回をしなければならないんだ。今からの時間だと走ってギリギリかな」


え、そうなの?

僕の顔からサーッと血の気が引くのを感じた。

流石に登校初日から遅刻するのはまずいし、おじさんは走ってギリギリと言ってはいたけど僕には迂回の道がわからないから遅刻は確定だろう。


だけど、おじさんはそんな僕の表情を見て察してくれたのかフッと微笑むと自分の車を指差して言う。


「もしよければ乗っていくかい?丁度学校は私の職場の通り道にあるからね」


「ありがとうございます!お願いします!」


その言葉を聞いて僕は即答した。

よかった、車なら余裕をもって間に合うだろう。


「なら乗りなさい。ついでに迂回路も教えるからね」


そう言っておじさんは車に乗り込み、僕にも乗るように促してきた。

おじさんの車はスポーツカーだ。

僕は車に詳しくは無いからわからないけど、何か有名なメーカーの値段もお高いものらしい。

最初乗せてもらった時には緊張でガチガチになった。


「うわっ!」


車体が低いせいか乗るのにまだ慣れていないからかシートに落ちるように転がりこんだ。


「ははっ、まだ慣れないかな?…………準備はいいかい?じゃあ行くよ」


まだ違和感の残るスポーツカーのシートの座り心地に収まりをつけてシートベルトを着けた頃におじさんに声を掛けられ僕は頷いた。

それを見たおじさんは車のアクセルペダルを踏みゆっくり車が動き出す。

スポーツカー特有のエンジン音を奏でながら徐々にスピードが出て窓の外の景色が流れていく。


走り出してから十数分道を教えてもらいながら学校へ向かう。

外を見ると僕と同じように学校へ向かう人やスーツを着た会社へ向かう人達が歩いている。


「後はこの角を曲がれば学校の通りに出るよ」


おじさんの言うとおり角を曲がった先には学校がみえた。

学校の近くに来ると車を停めてもらう。


「道は覚えられたかな?」


「はい!ありがとうございました!」


「ならよかった。じゃあ転校して初めての登校で色々大変だと思うけど頑張りなさい」


「はい、行ってきます」


おじさんにそう言って車を降りる。

その瞬間、背後でパサッという音がして何気なく振り向いた。

僕が今まで座っていた助手席のシートの上に一冊の本が落ちている。

アニメ調の可愛らしい女の子のイラストが描かれたライトノベルだ。


……………………あれ?


よく見れば……いや、よく見なくてもわかった。

僕が昨夜読んでいた物で間違いない。


《スクールカースト最底辺で馬鹿にされイジメられていた陰キャオタクの僕が、異世界転移で神様特典のチートスキルで無双してモテモテになりエルフハーレムをつくった件〜僕を馬鹿にしてイジメていたスクールカースト上位だった陽キャ達はクズスキルを貰い僕に助けを求めてきたけどもう遅い〜》


本の大きさからすれば細かすぎてよく見なければ読めないくらい長く、でもどんな話か一発でわかるタイトルの表紙が座席のど真ん中に鎮座している。

僕はさっき遅刻すると確信した時よりも顔色が悪くなった事を自覚した。


あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁっ!!!


何でっ!あれが何でここに!?

確か昨夜読んだ後は机の上に置いたはずなんだけど!

もしかして何かの拍子に机から落ちてカバンに入ったのか?

いや、カバンのチャックは閉じていたし、まさかサイドポケットに入ったとか。

それが偶然座席の上に落ちた……?


あっ……。


車に乗るときに失敗した時のことを思い出した。

あの時にカバンから落ちたのか……?


そんなふうに思考を巡らせていたため行動が遅れてしまい、僕よりも先にそのラノベに伸びる手があった。


「あっ……」


おじさんは手に取ったそのラノベをジッと見る。

僕はおじさんに見られたことに恥ずかしい気持ちとどう思われるのかという不安を抱いて、きっと顔色がおかしな事になっているだろう。


そしておじさんが口を開いた。


「春斗君もこのラノベを読んでいるんだね、私も読んでいるよ」


「えっ?」


とても良い笑顔で言ったおじさんの言葉に一瞬理解出来なかった。

てっきりおじさんの性格上馬鹿にされることはないだろうけど苦笑くらいはされると思ったのに予想外の反応だった。

それどころかおじさんも読んでいるらしい。


「おじさんも読んでいるの?こういうの読むなんて意外だ」


そんな率直な感想を口にすると、その言葉に対して苦笑された。


「ははっ、実はね私は異世界ファンタジーが大好きなんだ。これでもこの類の本は結構読んでいるんだよ」


そう言えば僕はおじさんの趣味は聞いたことが無かった。

それどころがおじさんについてはほとんど知らない、短い付き合いだし当然といえば当然だけど。

…………そっか、おじさんもラノベとか読んだりするんだ。

そう思うと気持ちがスッと軽くなった。


「春斗君は今日始業式だし午前中で終わりかな?もしよければお昼でも何処か食べに行って少し話さないかい?残念ながら私の周りには同じような趣味を持つ人がいなくてね。私も今日は職場で打ち合わせだけだからさ」


「あ、はいっ大丈夫です!」


「そうかい、じゃあお昼にまた迎えにくるよ。君のお母さんには私から伝えておくよ。もし都合が悪くなったら遠慮なく連絡をしてくれて構わないからね」


「わかりました」


そう言うとおじさんはラノベを僕に手渡してから車を走らせていった。


その後僕の初登校は無事何事もなく終えることができた。

何人か仲良くしてくれる友人も出来てこれからの学校生活も楽しくなりそうでよかった。


そして昼、僕はおじさんと合流して家への帰り道にあるファミレスに行くことになった。

おじさん曰くもっとお高いレストランに連れていってくれると言われたが、断わって一般的なファミレスにしてもらった。

僕はマナーも知らないしそんな店に行ったら落ち着かなくて話もまともに出来そうになかったからだ。


そして店に入ってから数十分後…………。


「でね、私が疑問に思うのは何故異世界転移物や召喚物で来た主人公達はあれほど適応能力が高いのかということなんだ。普通に考えて元々一般人の人がいきなり戦闘で上手く立ち回ったり知識チートで周りに称賛されるのは現実的ではないように感じてしまうんだよ。例え神様特典的な身体能力強化や魔法が使えたとしても物事を実際に経験したわけではないからね。私だって医療関係の知識や経験を得るために医大を出て研修なども回数こなしているし戦闘経験を積むために自衛隊に入隊しレンジャー資格を取るにまで至っているんだ。もしその人物の過去にそのような経験があるということが描写されているなら納得は出来る、経験というものはそれだけ重要な要因だと私は思うんだ。他にも作中で主人公が陰キャという描写があったりするが、そのような人物がいきなり知らない土地に転移や召喚などされたとして上手く現地の人達とコミュニケーションが取れるかという事も疑問に思うところではあるね。私だって学生の頃から出来るだけ周りと関わるように友好を深めたり休みの日はボランティア活動に積極的に参加したりしていたさ。それに陰キャと言われるような人物がハーレムなど作れるのだろうか、もし仮にハーレムを形成出来たとしてもそれを上手く女性達を平等に扱い不満を抱かせないのならばそれはもう陰キャとは言えないんじゃないだろうか春斗君もそう思わないかね?」


「ア、ハイソウデスネ…………?」


おじさんの話は正直面白いと思うけど、何かちょいちょい過去の話が引き合いに出されてそっちの方が気になるんだけど!?


「それによくある展開だと王族と懇意になり仲良くなる話もあるね。当人に召喚されたのなら別なんだろうけど偶然助けた場合だからと言ってそう簡単に王族と気軽に会える立場になれるなんてことは無いと思うんだ。転移や転生してきたとしても元は一般人立場が違う、文字通り世界が違うんだ。まぁ転生ならば貴族階級に生まれる可能性もあるかもしれないが、そうでなかった場合仮に功績を積んで爵位を貰うとしてもマナーというものはたとえ異世界だろうと上流階級には必ず付いて回るものさ。一般人には覚えるのでも大変だろう。私は大学時代各国のマナーを覚えて講師達にも御墨付を貰うまでに至ったけどね。故にお姫様と……なんて甘い考えは持たないほうがいいと思うかな」


おじさんは本当に異世界ファンタジーが好きなのかな…………?


「あとはあれだね異世界への移動方法。私が異世界ファンタジー物を読んで一番最初に興味を持ったことなんだ。私としては異世界には大きく分けて3つの移動方法があると考えているんだ『転移』『転生』『召喚』。さらに細かくすると二次創作や乙女ゲームを題材にしたものによくある憑依転生やプレイしているゲームのアバターの姿のまま転移するものもあるけど今は置いておこう。私は『転移』と『召喚』はほぼ同じものと考えている。ただ人為的かそうでないかの違いだと思うんだ。人もしくは神の意思で異世界に連れてくるものが『召喚』事故などで偶発的に飛ばされてくるものを『転移』ということだね。そしてこれらと『転生』の違いは肉体が現実世界のままか異世界で生成されたものかという違いではないのかと考えている。『転移』は現実世界産の肉体『転生』は異世界産の肉体。異世界産とはつまりよくあるパターンだと赤ん坊からのスタートするもの等だね、現地の両親から産まれれば勿論肉体は異世界産となるわけだ。他には神様が創った肉体のパターンだがこの場合は既に肉体はある程度の成長をしている状態であったり元の姿を形作っていたりするがこれもまた現実世界での元々の肉体ではないので『転生』だろう。基本的に『転生』する場合は現実世界の肉体は既に亡くなっている事が多い。テンプレとしてよく使われるものとしては転生トラックや神様の不注意事故などがあるね。転生トラックは神様を介さずに異世界へ転生することが多く、神様の不注意事故は神様にお詫びとしてチートを貰っての転生をする事が多い。他にも『転生』『召喚』どちらにも存在するパターンが神様に異世界を救う素質があるとして選ばれる事だね。この場合神様に選ばれるだけあって現実世界での能力が元々高い者の場合が多い。生まれつきの者もいれば私のように努力や経験によって能力が高い者もいる。その上私は先にも言ったような適応能力も高いのではないかと自負している。そう考えれば私は神様にとってはなかなかの優良物件ではないかな!?それなのに!何故私は異世界に行けない!神はなぜ私を選んでくれない!!!」


ドンッ!!!


おじさんが握り拳をテーブルに叩きつけた。

周りがシンと静まり返り僕達に視線が突き刺さる。


「…………おじさん、周り」


僕の言葉にハッとしたおじさんが周囲を見渡し立ち上がり。


「お騒がせして申し訳ありませんでした」


そう周囲の人達に謝り静かに席についた。

しばらくすると周りも元の様子に戻っていく。


「春斗君もすまなかったね、つい熱くなってしまったよ」


おじさんは眉を下げて僕にも謝ってくれた。

ようやく冷静になったようでコーヒーのマグに口を付けてひと息つく。


僕もコップに残ったコーラを飲みきって、ドリンクバーへお代わりを取りに行く事を伝えて席を立った。

ドリンクバーの機械からコーラをコップに注ぎながら僕はおじさんの様子を思い出す。

おじさんがあそこまで熱くなるなんて驚いたと同時に妙な違和感を感じた。

そして最後の言葉。

まるでおじさんは異世界に行くことを本気で望んでいるような…………。

いや、そんな事は無いよね。

小学生でも異世界ファンタジーは創作物の世界だってわかる事なんだから。


コーラを持って席に戻る。

おじさんは見た限りいつもの落ちついた雰囲気に戻っていたので軽い気持ちで聞いてみる。


「おじさんは異世界へ行ってみたいと思う?」


その言葉を聞いたおじさんの目がキラリと光った気がした。

そしてこう答えが返ってきた。


「もちろんさ。私はいつかは本当に異世界に行くつもりだ。そのために子供の頃から今に至るまで努力を重ねて来たからね。異世界で役に立つようなことは一通り経験してきたつもりだよ。今の仕事も異世界へ行く事を考えれば都合がいいから就いたようなものさ」


「ぶっ、ゲホゲホッ……えぇ?」


胸を張って堂々と宣言をしたおじさんの言葉に思わずむせてしまった。

だって宣言したおじさんの目は真剣そのもので冗談を言ってるようには見えなかったからだ。

僕はナプキンで口を拭いながら聞いた。


「冗談だよね?僕をからかっているんだよね。異世界ファンタジーは子供でもわかる作り物の世界なんだよ?」


「ああ春斗君の言いたいことはわかるよ。でもね、私は本当は異世界があると知っているんだ。実際に異世界の人と出会っているんだから…………」


僕を見つめる目が細まり鋭さを増した。


「…………ッ!?」


その目を見て何も言えない僕は思わずツバを飲み込んだ。


「君は聞いていないみたいだね、君も知っている人達なんだよ」


「えっ?僕の……知っている人……達?」


おじさんは両肘をテーブルにつき口の前で手を組んで僕から目線を外さずに言う。


「君のお母さん、そしてお爺さんとお婆さんさ」


その言葉に僕は全身に衝撃を受けたような感覚を感じた。


〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ただいま…………」


ファミレスを出た後おじさんに家まで送ってもらった。

まさか母さん達が異世界の貴族、しかも公爵家の出だったなんて!


おじさんに僕の家族の話を聞いた後


『帰ったら君のお母さんに聞いてみなさい。私は彼女からその話を聞いて子供ながらに決意を固めたんだ、必ず異世界に行こうとね。彼女達が来た道は一方通行らしくてね、それにもう戻るつもりも無いらしいから私は独自に異世界へ行く手段を探しているんだ』


そう言って少し悲しそうな顔をしていたのが印象的だった。


「あっ、ハルくん。お帰りなさい」


母さんが笑顔で迎えてくれる。

僕は真剣な顔で母さんに聞いてみた。


「母さん、少し聞きたい事があるんだ…………」


「なぁに?そんな改まって」


「か、母さんは異世界からきた人……なの?異世界の公爵令嬢だったって…………」


僕の言葉に母さんはいつも笑顔で細めていた瞳を開き、笑顔を消して真剣な顔になる。

母さんのこんな顔は初めて見たかもしれない。

しばらく無言で僕を見つめていた母さんがゆっくりと口を開く。


「もしかしてヤスくんに聞いたのかしら?」


母さんの声が少し低くなっている。

思わずツバを飲み込む。


「も〜やぁだ〜!恥ずかしいわ〜。ヤスくんもそんな昔の話を引っ張り出してハルくんに聞かせるなんて〜!」


「ええっ!?」


母さんは両手で顔を隠していやんいやんと顔を振っている。

見ると耳まで真っ赤に染まっていた。


「どうした?二人とも玄関で何している?中に入りなさい」


すると居間から爺ちゃんが出てきた。


「だって~聞いてお父さん!ヤスくんがハルくんに私の黒歴史を教えたんだって〜」


「黒歴史?」


「ほら〜私が小学生の時にここに引っ越してきてしばらくの間恥ずかしい事言ってた時期があったでしょ?」


母さんの言葉に爺ちゃんはしばらく考えたあと大声で笑い始めた。


「ぶわっはっはっはっ!あれか!お前が何かの漫画に影響されて『私はここに来る前は公爵令嬢だったのよ!』って言ってたやつか!」


んえっ?漫画の影響…………?


「もう!お父さんだってノリノリでヤスくんに『確かに私は公爵だったが貴族のしがらみに嫌気が差してここに来たんだ、内緒にしておいてくれ。今は普通の一般人として静かに暮らしたいんだ』みたいな事を言ってたじゃない。それっぽい雰囲気出しながら!」


「ふん!わしは元劇団員だぞ。それくらいの演技造作もないわ!それにしても康司君もノリノリだったではないか、手を胸に添えて片膝をついてたわ。はっはっはっ」


「うぅ〜、確かにヤスくんがその設定にノッてくれて仲良くしてくれたから友達も出来て孤立しなくてすんだけど〜」


まってまってまって。

えっ、何?

演技?設定?

どういうこと?


もしかして…………母さんはただの中二病だった、爺ちゃんもそれに乗っかって演技をした、おじさんはそれをずっと今の今まで信じ続けてきたってこと?


すべてを理解した時、僕の瞳から一筋の涙が零れてきた。


おじさああああぁぁぁぁぁん!!!!!!!


ううぅ、僕は悪くないのに何故かおじさんへの罪悪感に押し潰されそうだ……。


「ハルくんどうしたの?顔色が悪いわよ、大丈夫?」


「うん、大丈夫……。でもちょっと部屋で寝ることにする」


「そう?わかったわ。お夕飯の時に呼ぶからそれまで休んでなさい」


僕は部屋に戻るとベッドにダイブした。


「うん、今日の事は忘れよう」


そう独り言を口にして目を閉じる。

僕はゆっくりと意識を手放していった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


原案・兄 執筆・弟

兄が考えた話を弟が形にしました。

本文に異世界ファンタジー転生・転移物の批判的な表現が出てくる所もありますが、我々兄弟は異世界物が好きです。

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