亜空間の宴【後編】
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
消えたエレベーターの謎よりも大人の女性の色香に惑わされてしまい、ユリコママとの乾杯をチョイスしてしまった常松に“悲しい男の性”が滲み出る。
しかし、当の本人にその自覚はない、まったくと言って良いほどにない。
間髪いれずにユリコママの亜空間呪術『ボトルイレチャッテー!』が炸裂し、常松は敢え無く撃沈する。
毎度おなじみのちり紙交換のような、というより最早死語となった“ちり紙”の存在がどうなっているのか気になるところではあるが、そんな状況をどのように打破するのであろうか!
そして、
・・・・・常松が選んだボトルとは!?
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
スナック亜空間のカウンターには、ウイスキー、ブランデー、ジン、焼酎などが並んでいる。
ユリコママは、それら様々なお酒を指さしながらウインクひとつでボトルキープへと誘う。
「ボトルは何にしますぅ? ウイスキーが良いかしら♡」
ママのウインクに一瞬ドキッ♡としてしまう。
(おおーーーっと、なんだなんだ、そのウインクは!? まさか、美味しいお酒もあるけど私が一番おいしいのよ的なアピールなのかー!?)
と、バカ松でなくて、常松の脳というより下半身が、“エロに都合の良い考え”、つまりエロい妄想を抱いてしまうのだが、そんな美味しい話はあるわけがない。
さすがにそれはないかと自分に言い聞かせて、常松は気を取り直してキープボトルを選ぶ。
(さて、何を飲もうかな?)
「ウイスキーって気分じゃあないんだよなー、だからといって焼酎も甲類は嫌だしなあ」
「ゆっくりと選んでくださいねえ」
(こうなったら芋焼酎のロックでも飲むとしよう。でもって、つまんな〜い話をして、エレベーターのことなんか忘れてしまうのもいいかもしれないぞ!)
消えたエレベーターの件は有耶無耶にされてしまった。さらに常松はお酒の誘惑に負けてしまい、そんなことはどうでもいいと考え始めてしまう。
だが、逆にこんな時だからこそママのテンションにあわせる必要があるのかもしれない。そう直感が告げているようにも思える。単にママと美味い酒をヨロシク飲みたいだけなのかもしれないのだが……。
常松の場合、このような不可解な状況下に身を置いていても、得意のいい加減さが役に立っているようであった。
「芋焼酎がいいんだけどなあ、ありますかねえ?」
「あら〜、焼酎派なのね。しかも芋なんてシブいわね〜♡ うちは、黒喜界島ならあるわよ」
「おおー、ラッキー! それ好きなんだ! じゃあ黒喜界島をお願いします」
「いま、この黒喜界島って人気あるわよね。最近は、赤とか、白喜界島なんてのもありますものね」
「俺も普段は黒が好きでよく飲むんだけど、最近は白も好きで交互に飲んだりするんだけど、あー、でもやっぱり、赤も大好きで捨てがたいんですよねー」
典型的な優柔不断男にありがちな、どうでもいい常松の酒の好みを聞きながら、ロックグラスに焼酎を注いでいたユリコママが、クスッと意地悪っぽく微笑んだ。
「いやだわ〜♡ 黒とか、白とか〜、でもってえ、赤とか〜♡」
「んっ、何が…...ですか?」
「だってぇ〜、なんだか好きな下着の色の話でもしてるみたいでしょ〜♡」
(ええーーっ! まったくそんなことは微塵も思わなかったぞー! 何故、そうなる!!?)
「常松さんって♡エッチね〜。黒がお好きで〜♡ 白も好みなんでしょ〜、でもって、やっぱり赤が大好きなんでしょ〜♡」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ! 焼酎の話ですよーー、芋焼酎の!! そんな話じゃあなかったですよねー! なんで急にあっちの方向へ流れちゃってるんですかーー!?」
突然、話題がシモネタにすり替えられ、しかもそのシモネタの罪を擦り付けられて思わず取り乱してしまう。
ユリコママは、そんな常松の取り乱した表情を悪戯な目つきで見つめている。
「じょーーだんですよ〜♡ そんなに興奮なさらないで〜♡」
「いや〜、突然のフリで思わず驚いちゃって取り乱しちゃいましたよ。お恥ずかしい」
「そ・れ・で〜♡ 私の下着の色を想像しちゃったから〜♡ 思わず興奮しちゃったってわけなの〜♡」
「………二段落ちってやつですね。はいはい、そうですよ。ママのパンツの色が気になってしまいましたよ」
抵抗をあきらめた常松は開き直り、ママのシモネタに乗ることにした。
「私のお♡パンツの色はあとで教えるとして〜ぇ♡ さあ、飲みましょうよ」
(まだ言うのか)
ユリコママは常松のシラケ顔にはまったく動じていないようだ。
「は〜い♡ 芋のロックです」
「ママも焼酎で良ければ飲みませんか?」
「もちろん! 一杯、いただきますわ」
「じゃあ、せっかくだから2人で楽しく飲んじゃいましょう!」
「そうこなくっちゃー♡ せっかく常松さんと出会えたんだから、私も思いっきり飲んじゃうわ〜♡」
「嬉しいことを言ってくれるなー!!」
(このママは、なんかイイ感じだよなあ、こういう女性ってキライじゃあないんだよなあーー)
こういう時の男の気持ちというものは何とも表現しづらいが、舞い上がるだけ舞い上がってしまう前兆なのか? 将又、女の手中におさまりつつあるマヌケとでもいうのか、鼻の下が伸びまくってる最中とでもいうのだろうか? 何れにしても残念な男の悲しき性が現れはじめているようであった。
グッとくるママのナイスな言葉に喜び浮かれる常松のテンションが、大気圏を突破して一気に銀河の遥か彼方まで上昇していく。
酒の勢いを借りてさらに調子に乗る常松は、よせばいいのにバブリーな時代によく使われていたというか、よく使ってしまった恥ずかしい台詞を口にしてしまう。
それはもう、いつもの声ではなく、カッコつけた声色をつくって.........
「ユリコママの瞳に......乾杯!!」
「あら、うれしーーぃ♡ かんぱ〜い♡ 常松さん、ステキ〜♡」
(なんだかツイてんな〜俺、マジでナイスな店を開拓しちゃったんじゃあないのー!)
ケニーGのロマンティックなインスト曲がバックに流れているかのような甘い雰囲気に、常松の鼻の下は伸び伸びに伸びまくっていた。
もちろん、ケニーGの曲が流れているのは常松の脳内だけで、傍から見ればカッコつけまくって、かなり恥ずかしい奴になってしまっているということを本人は自覚できていない。
そして......
消えたエレベーターのことなど、最早どーでもイイ状態になっていた。
亜空間の宴は、まだまだ続く。
こういうことって、男なら誰にでも一度や二度、経験あったりするよね?
「君の瞳を弁護します!」的なーーー!