霊紋と直伝
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
居酒屋漢だらけが、次元パトロールの詰所のような店だと聞かされた常松は、一歩間違えたら、ここには辿り着いていなかったのだと振り返った。
さらに、なんでもお見通しのゆうこママのおかげで、BARアイアンヘッドのマーキュリーGAGAこと髭マスが、この世界の秘密や元の世界に戻るためのヒントになる貴重な情報を提供してくれていたことを思い出した。
その髭マスが推薦したゆうこママが只者ではないことを確信した。
そしてママの発言から連想したのは、転龍呼◯法をマスターすれば潜在能力を100%引き出せるという“某北◯の拳”の一節であった。
連想するだけにしておけば良いのに、「俺も一子相伝のすごい技が使えたらいいのにな」と小中学生レベルの妄想を抱いてしまう。
そんな、どうでもいいことを考える常松にゆうこママから目覚めの喝を入れられて我に返るのであった。
心の内を見透かされた常松だが、一番重要なお札の件をどうするつもりなのか!?
大丈夫か、常松!!
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
ゆうこママに喝を入れられた常松は、妄想状態から抜け出し、平常心を取り戻した。
(おっと、危なく、潜在能力を引き出すために転龍呼◯法の習得を目指すところだったぞ)
「いやあ、まさか、居酒屋漢だらけが次元パトロールの溜まり場と化しているとは思わなかったもので驚いてしまいましたよ」
「あら、ようやく正気に戻ったのね。で、どうするの? 大切なお札の件で何か知りたいんじゃないの?」
(やべっ、そうだった。また一番大事なことを忘れるところだったよ)
常松は、自分の愚かさを認識しているようで、全くわかっていないという生来の能天気野郎だが、逆にユルユルな性質だったからこそ、ここまで無事に来れたといっても過言ではない だろう。
「ママ、お札のことですが、どうすれば効果を発揮することが出来るのかを教えてもらえませんか!」
「ようやく、話の本質に迫ってきたわね。きっと作者も安心していると思うわ」
「えっ!? さく・しゃ・・・とは?」
「はいはい、それはこっちの話なの! そんなことよりも、ユリコちゃんからもらったお札のことよね。それ、もう一度、見せてくれるかしら」
「はい! 喜んで!!」
場末の居酒屋の店員のように二つ返事で返した常松は、三枚のお札を1枚ずつテーブルの上に並べた。
意外にも几帳面に並べられたお札を、ゆうこママは真剣な眼差しで見つめる。
よく穴が開くほど見つめるというが、ママの瞳からマジ○ガーなんとかの光子◯ビームみたいなものが飛び出すのではないかと思われるほどに、ガン見している。
そして、真ん中のお札に指を置いた。
「ねえ、このお札をGAGAちゃんがアレしたわけよね?」
(アレが、お札とか、話が混乱するから、呼び名を変えて欲しいなあ・・・マジで)
「・・・はい、確かこの中のどれか一枚は、桃じり、じゃなかった桃の刻印が浮き出ていたはずなんですが・・・
あれ? なんか見えなくなっちゃってるような、全部真っ白に戻ってるような・・・」
自分が陰陽師だと言い張った髭マスが、一枚だけ『桃』の文字が刻印してくれたはずなのだが、改めて差し出した
お札は三枚全てが真っ白い元のお札に戻っている。
「まあ、素人には見分けはつかないから仕方ないわね・・・実は、これはね、“水みくじ”のようなものなのよ」
「水・み・くじ・・・ですか?」
(なんだ、なんだ、初めて聞いたぞ、占いとか、おみくじとかなのか?)
「水占いで使う札みたいなモノってことよ。それほど有名ではないし、増して男性だと余計に知らないわよね」
「いやあ、占いとかって、あまり興味がないもので知りませんでしたよ。どういう意味でしょうか?」
「そうね。占いとは違うから、まずその点は勘違いしないでね・・・で、これから話すことは、信じるか信じないかは常松さん次第よ。私の持つ力でお札に宿る力の源泉を引き出してあげないと、このお札はただの紙切れで終わってしまうのよ」
「それはなんとなく話の流れで理解できますが・・・アレがどのアレなのか分かりづらいっす!」
「私の左掌にはね、生まれつき淡く光る“霊紋”が宿っているのよ。この力を使うの・・・」
そう言って、一番左のお札に左手をかざす。
すると彼女の掌が青白っぽい光を放つ。
やがて淡い光は収まり、真っ白だった札に淡い水色の何かの文字が浮かび上がってくる。
「すごいぞ! こんな技は今までに見たことがない。掌が青白っぽく光ったから、臨場感に演出効果がプラスされて、凄味が増している」
言いながら常松は、かつて“超魔術”と呼ばれたオールバックのサングラスのオッサンを思い出す。
『キテます』と連呼するあのオッサンの凄技。そのオッサンの超魔術を間近で観ていた他の有名人や芸能人には、何がキテいたのか、何がどの辺りにキタのか、たぶん理解出来ていなかったと思うが、当然お茶の間の常松たちにはさらに不可解だったはず。
(しかし、あのオールバック&サングラスのオッサンに『キテます』と連呼されると『なんだかわかんないけどキテるよなあ』と思ってしまったよな〜、キテる何かは見えないから胡散臭いはずなのに妙な説得力があったなぁ)
思考が明後日の方向に舵を取ろうとした、その時、ゆうこママが告げる。
「お札に隠された文字が浮かび上がってきたわ・・・これで完成よ」
ゆうこママが掌に宿る霊紋を札にかざしたことで、文字が浮かび上がった。見た目がまるで呪符のようだ。
「真面目に凄いですよ! さすがは、何でもお見通しのゆうこママですね!」素直な言葉が漏れる。
「こう見えても、私はシャーマンの血を引いているから。生まれつき特別な何かの加護なのか、力なのかが備わっていただけよ」
「シャーマン・・・っすか? ジャーマンではないですよね?」
「それだと、あのプロレスの神様と謳われたカール・ゴッチの必殺技“ジャーマン・スープレックス”(※注)に話が流れるわよ」
※注:プロレスの芸術品と評される。アントニオ猪木もカール・ゴッチ直伝の必殺技としていた。
「それは失礼しました。まさか、プロレスの神様の必殺技だったとは・・・」
「いいのよ・・・あの力強くもしなやかで美しいブリッジが蘇るわね。初代タイガーの高角度からのジャーマンも魅力的だったけど、そんな華麗な技と間違えられるのも悪くないわ」
(なんか、宣言通り、また話が違う方向へ流れてるぞ。話を戻さないと)
「ママの霊紋の力は、確かに優しくしなやかな何かを感じましたが、シャーマンの血筋というと生まれ持ってのスキルということなのでしょうか?」
「本当はカール・ゴッチ直伝とでも言いたいところなんだけど、残念ながら生まれながらの特異体質なのよ」
(その直伝は、猪木だけでいいんだけどな・・・あと、『残念ながら』とか言っちゃってるし)
「いやいや、残念ながらって、そんな残念なスキルではないですし〜」
「あら、勘違いしないでね。能力については残念とは思っていないのよ、カール・ゴッチ直伝ではなかったことが残念なのよ!」
(そこ、そんなに残念な要素なのかよ!! ママは掴みどころがないというか波長が今ひとつ合わないよなあ・・・しかしここは平常心で自分の意見を貫いてやるか)
「何だか、こっちの世界に来て、初めて異世界って感じのする体験をさせていただきましたよ」
「超魔術を観た芸能人の台本に書かれた台詞みたいなお世辞はいらないわよ」
「えっ!? 超魔術を・・・ご存じで・・・」
「さっき、私のスキル発動をみながら、あのオールバックのグラサンを思い出したでしょ」
(————! やっぱり、見透かされてるぞ、マジかよ)
言葉に詰まる常松の動揺を面白がっているのか、ゆうこママが更に続ける。
「とにかく、これで三枚のうち一枚は効力を発揮できるようになりましたよ、良かったですね」
ママのバイオリズムが全く掴めない常松は、たいして回っていない脳みそをフル回転しようとするが、逆に混乱気味になってしまう。
頭の中は、お札→“アレ”と呼ばなければならない→霊紋→オールバック&サングラス→キテます→シャーマン→ジャーマン・スープレックス→カール・ゴッチ→シャーマン→初代タイガー→直伝→超魔術といったワードがグルグルと目まぐるしく飛び交っているようだった。
しかも、このワードだけ並べても、何の関係があるか一貫性がないように思うのだが、一応は流れがあるため、余計に混乱してしまう。
最早、ママの“掴みどころ”などと言っている場合ではなく、ついていけるかどうかの問題であった。
混乱した常松に平常心を呼び戻すことができるのか・・・・・。
常松の精神力が試されているのかもしれない。
混乱する常松を他所に、ゆうこママは、二枚目のお札に手をかけた。
しかし気になるのは、髭マスのCHUUUを受けた時に浮き出たはずの桃の文字、その文字が何故消えてしまったのか? ということなのであるが、常松はその謎を解明させる気があるのだろうか?
だが、常松の心の内には『まあ、あれはあれでなかったことにしようか』という考えが芽生え始めていた。
そして、お札の呼び名を“アレ”と呼ぶのはいい加減にやめて欲しいと本気で願う常松と作者は、呼び名を変えることが出来るのだろうか・・・。




