お見通し
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
豊満な熟女が大好物だと勝手に決めつけられてしまった常松。
勝手に決めつけられるのは気分の良いものではないが、正直なところ外れてもいなかったので複雑な心境になってしまう。
むしろ半分は当たっているようなものだと内心思っていた。
一応は形式的にも、ちょっとした抵抗を試みたが、よく考えてみれば、目の前にいるゆうこママも熟女のカテゴリーのような気がしたことで、全否定するのは得策ではないと考えた。
この微妙なさじ加減の難しさは、この夜で一番デリケートな会話なのかもしれないと直感していた。
しかし、ゆうこママの何事も見透かしてしまうスーパーな能力の前に手も足も出ない状況は続く。
そういえば、作者も忘れかけているのであるが、
常松のどうでもいい好物の話に花が咲きすぎて、この物語のキーアイテムである“お札”の件はどこに飛ばされてしまったのだろうか?
常松は、なおも続くゆうこママからの波状攻撃を防ぎ、カウンターを仕掛けられるのか!?
この状況を乗り切る次の一手は・・・・・。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
常松は、再び始まったゆうこママによる容赦のない波状攻撃にさらされたが、この裏世界に入って免疫ができたせいか、高い耐性が備わっていた。
「まあ、とにかく俺の顔にいろいろと書いてある話はこのくらいにしてですね・・・」
「あら、私の言っていることが嘘だとでも言いたげな様子ねえ」
ゆうこママの口調が穏やかになりはじめた。そのトーンの変化を察知する常松。
(こういう口調になるってのは、嵐の前の静けさみたいなもので、話がこじれまくって取り返しがつかなくなる前兆だぞ!)
「ねえ、常松さん、本当のところはどうなのかしら」
ママの穏やかすぎる口調は、冷え冷えの冷気を帯びているように感じた。
(話を元に戻す前に、俺の好物についての議論を決着つけるしかないのか)
「わかりました。お答えしましょう! 確かに俺も男です。だから、豊満だとか、豊満じゃないとか、否そういうことではなくて、相性さえ合えば、俺にとっての好物ってことですよ」
「相性って、何の相性なのかしら?」
(ええっ!)
「あっ、それは、その、性格ですよ」
「性癖?」
(無理矢理ーーーっ!!)
「ちょ・・何を言い出すんですかあ! 違いますって! 性格ですよ。発音が全然違うじゃあないですかぁ、お願いしますよ!」
「あら、最近耳が遠くなって、変なふうに聴こえちゃったみたい、ごめんなさいね!」
「いやあ、無理矢理すぎて逆にビックリしましたよ! まあ、とにかくですね、お互いの性格がマッチしないと・・・ってことなんじゃあないっすかね」
「ごめんなさいね。ちょっと揶揄ってみただけですよ。LLには行ってないのよね。まあ、入ってしまっていたら、おそらく今ここで私とおしゃべりなんかしてなかったでしょうし・・・」
「えっ、あの店って、そんなにやばいんですか!」
「行ってみればわかるわよ・・・行ってみたいですかあ?」
「いやいや、そんな危険な店には入りたくないっすよ!」
「でしょ〜、いくら常松さんが豊満熟女好きでも、決して足を踏み入れてはダメよ。私の忠告はしっかりと聞いておくべきよぉ、おわかりかしらぁ」
ゆうこママは、何故かはわからないが、勝ち誇ったような表情になっている。
“私を崇め讃えなさい”と言わんばかりの雰囲気が丸出しだ。
(完全に豊満熟女好きということになっちゃってるよ、俺!)
「肝に銘じます! ところで、その、話がすっかり俺の謂れの無い好物の方向へ流れてますが、ちょっと教えて欲しいことがあるのですが・・・」
「あら、何を知りたいの?」
「その、俺の入ってしまったお店の件ですが・・・」
常松の話をここまで聞いたゆうこママは、ハッとして“忘れていた!”という表情に変わる。
それは、もう『ヤベエッ!』という文字が3Dで浮き上がるほどの形相だ。
「あ、えっとぉ、そうだったわよね。あっ、忘れていたわけじゃあないのよ、メインディッシュ的な話だと思ったから、ひとしきりしてから聞こうと思ったのよ」
「・・・だと・・・思いました」
なんだか常松の方が、罰が悪くなってしまう。
「常松さんが入ってしまったお店というのは、そこの店よね?」
言いながら店の扉の方を指差している。
「そうなんですよ、むさ苦しい店員だらけのそこの居酒屋ですよ」
「ふう〜、やっぱり・・・そうだったのねぇ〜」
ゆうこママは、先程のドヤ顔とは打って変わって“非常に不味い”と言わんばかりの表情になった。
その表情を見た常松は、これまた不安が募りまくる。
「もしかして・・・あの店って、相当ヤバイんですか?」
「あっ、ちょっと待ってちょーだい、その前に・・・」
ゆうこママは、2つ並べたぐい呑に日本酒を注いで、ひとつを常松に差し出した。
「このお酒は辛口で結構イケるのよ、グイッとやって、話はそれからね」
(なんだ、この間は? 飲まなきゃいけないような話ってことか?)
「ありがとうございます! いただきます!」
常松は一気に飲み干した。
「常松さんってお酒が強いのね。ここでは、それがあなたの強みになると思うわ、酒飲み体質に生まれて良かったわね」
「まあ、お酒は飲みなれているのもあるけど、強いというか人並みだと思いますよ」
「えっ!? 今なんて? ・・・うまなみ? なんですかあ」
「いやいや、だから無理矢理すぎですって! 全然違うじゃないですか! “ひとなみ”と言ったんですよ」
「あら、ごめんなさいね。ほ〜んと嫌になるわ〜、最近難聴気味だからぁ」
(このママは、絶対、わかってて言ってるよ)
謝罪を言葉にするものの、謝意の感じられない態度で、ゆうこママは常松に日本酒を継ぎ足す。
「で、お酒は馬、じゃなかった、人並みに飲める常松さんが、入ってしまった居酒屋の話よね。例のむさ苦しい店員だけど、あいつらはね、要注意なのよ」
「えっ!? あの赤い三連星がですかあ??」
「・・・“三連星”って、何かしら??」
「あっ、ごめんなさい。俺が勝手につけたあだ名です」
「それって、あの筋肉自慢の三馬鹿のことよね。上手いこと名付けるじゃない」
「見た目のインパクトが半端でなかったですから、それで彼らの赤いドシフン攻撃をギリギリ回避して、速攻で戦線離脱したんですよ。その時、脳裏に過ぎったのが“赤い三連星”というワードだったんですけど」
「つまりは、店の扉は開けたけれど、すぐに退散したってわけね」
「そうなんです。直感で“危険を”察知したんだと思います。ああいう男の息吹的なやつって苦手なんですよ」
「賢明だわ・・・あの店で飲んでいたら、今頃はどうなっていたことやら」
(LLもやばいけど、やっぱり三連星も危険な奴等だったのかあ・・・あの見た目だからなぁ)
「居酒屋漢だらけは、次元パトロールの詰所のようなところなのよ」
「――――!」
常松は思わず、唾を飲み込んだ。
「厳密に言えば、プチ詰所のようになってしまった・・・というところかしらね」
「ホントっすか!! 俺は、そんな店の暖簾をくぐってしまったのか・・・」
(いやあ、マジで危なかったじゃあないか、あのドシフン兄弟はヤバいんだな)
「少し前にね、常松さんと同じ側から迷い込んだサラリーマンが止せばいいのに漢だらけに入ってしまってね・・・それっきり店から出てくることはなかったみたい」
(あっ、そうだったな・・・思い出したよ)
「そういえば、髭のマスターも同じようなことを言っていたような気がしますよ」
そう言いながら、髭マスが間髪入れずに繰り出した数々の攻撃を振り返った。
思えば、髭マスは意外にも重要な情報をちょいちょい提供してくれていた。しかし、それよりも強烈な存在感の圧が強すぎたせいで常松の記憶には、そういった重要な情報は薄らとしか残っていなかった。
人というのは、見た目のインパクトや派手さにばかり関心を寄せてしまいがちだ。だから、地味な真実や重要度の高い小さな情報を見落としがちになる。
選挙でもどこかの偉そうな党の党首が、去勢を張って体裁の良いイメージばかりで実は中身の全くない空論を述べまくって、国民をだまくらかしている演説を見かけるが、常松もまた、髭マスのインパクトだらけの波状攻撃に対応するのに精一杯で、大切な情報を見落としていたのである。
特に今にして思えばだが、髭マスと常松の相性は物凄くマッチしていた。
その相性の良さによって、常松が髭マスの潜在能力の半分以上を引き出させてしまう化学反応とでもいうような、いらないサービス精神を誘発させていたのかもしれない。
(そうか、髭マスは大事な情報をかなり教えてくれていたんだよな・・・でも、余計なことの方が多くて全然重要視していなかったよなあ。70%くらいはどうでもいいことだったしなあ)
どうでもいいことが70%、大切な情報が30%と思ったその時、子供の頃に読んだ本の一説を思い出してしまう。
『人間は潜在能力のうちの30%ほどしか引き出せないのだ・・・・・・・』と、武論尊先生原作の「北斗の◯」にそう書かれているのだ。
ちなみに某ミンメイ書房の書籍ではない。
またもや、全然どうでもいいことを思い出した。かなり脱線してしまったが、今になって髭マスが教示してくれていたことを理解した。
そして、その髭マスが推薦してくれた“大料理ゆうこ”のゆうこママが常松の運命を握る最重要人物なのかもしれないと改めて思うのであった。
それと同時に常松は思う。
(100%の潜在能力を引き出せたら、某ケンシロウのように世紀末救世主になれるのかな!?)
一方、シンキングタイムに入って、惜しげもなく間抜け顔を曝け出す常松を黙って見つめていたゆうこママは常松の心の内に分け入ってみる。
さらに目覚めの喝を放つ。
「なれるわけがないでしょう!」
恐るべし! なんでもお見通しのゆうこママ。




