Blowing a CHUUUU
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-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
この物語の主人公である常松京太郎の名前は、あの伝説のロックバンドのリズムパートを担当するミュージシャンの名前にあやかってネーミングされたのであるが、若い世代の方々には何の事やらさっぱりであろう。しかし、そこそこの年代の方であれば納得される方もいるはず。
そう、ライブでは必ず「渋い男です」と紹介されていたあのベーシストから名前をいただいたのは言うまでもない。
しかしながら、この事実をファンの方に知られてしまうと“image down”も甚だしいなどとクレームの嵐によって大炎上は免れないかも。
開示しちゃいましたけど・・・・・・・。
さて、そんな由来を持つ常松がユリコママから貰い受けたお札。そのお札には隠された秘密があった。
一杯のテキーラと引き換えにその秘密は次々と判明してゆく。
お札は今のままでは何の効力も持たないというのだが、その理由を知った常松は、千社札状態の札を完全体にする方法を探る。
どうやら、その方法が『ヘビメタBarアイアンヘッド』に隠されているということが判明した。
お札には、ある力を注がなければ、なんの効力も持たないのだと髭マスは告げるのだが…………
“ある力”とはいったいどんな力なのか?
そして、お札に真の力が宿ることになるのであろうか!?
いよいよ、『邂逅! 髭マス編』もクライマックスを迎える……はず……かな。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
常松がユリコママから貰い受けたお札は、今のままでは何の効力もなく、ある力を注ぎ込むことで、お札が完全体になるのだと髭マスGAGAは言い張った。
つまり、今のままでは、このお札も場外馬券場に舞い散るハズレ馬券と何ら変わらないということだ。
常松は、髭マスの言葉を信用するしかないと思う反面、一応は入念に考えてみる。
(これって、使い物にならないアイテムなのかよ・・・そうなると髭マスが言っているある力ってのに頼るしかないってことなのか、正直更なるハードルがあるとか言い出しかねないし、面倒だよなあ)
「あるちから、っすかあ・・・それってぇ、つまりその力を得るってのは、当然簡単にはいかないってことですよねえ……」
面倒臭そうになってトーンダウンした常松は、だらしの無い表情で呟くように訊ねる。
「あらぁ〜、全然大変なことなんてないわよ〜、その力ってのはねえ、あ・た・しの力だからあ」
「はあ!? ええーーーっ!? マスターの? っすかあーーー!! いやいや、またまたご冗談を〜」
「失礼ねえ! 『またまた』って、股は二回続けて言うと超卑猥に聞こえちゃうでしょーー! 気をつけないと女にモテないだけでなくて、“エロボケ”って二つ名までつけられちゃうわよ〜」
「股の件は失礼しました! だけど、マスターの力ってのが、そのお〜、なんだか冗談に聞こえてしまって・・・」
「ちょっとお、なんだか随分と安く見られちゃったみたいだわねえ」
「マスター、誤解しないでくださいよお! 全然安くなんて見てないですから・・・ああ、そうだ、さっきの氷の魔術もお見事でしたよ。マスターは、もう大賢者並みのパワーを秘めているんじゃあないですかあ! でも、本当にマスターの力をお札に付与するだけで完全体になるってことなのでしょうかね?」
「だから、そう言ってるでしょーー! 冗談なんかじゃあないのよ」
「それじゃあ、それは一体・・・マスターの力ってのは、どんな力なんでしょうか」
「・・・もーう、仕方ないわねえ・・・」
「ひょっとして、力を見せてくれるんですか!?」
「何だか不本意なんだけどお、常ちゃんが全然、信用してないって顔してるから〜」
「そんな顔はしてませんよぉ! どんな力なのか少し気になっているだけですよ」
「そんな顔はしてないって言い張るんだったら、どっちかというとブッサイクなお笑い芸人みたいな顔してるってことにするわよー」
「だから、そういう顔とかの話は、このくらいで勘弁してもらってですねえ・・・っていうか、ブッサイクな顔してるって、なんか嫌だなあ」
「でしょーーー! だったら、やっぱり信用してない顔だったって認めなさ〜い。別に怒ったりしないからあ〜」
(おいおい、何故、不細工顔と信用してない顔の二択になってるんだよ・・・あと、怒るって、そんなことで怒られたくないっつーの)
「そうですねえ、怒られたくはないんですけど、まあ、ほんの少しだけ信用しなかったかもしれません・・・これくらいで勘弁していただけますかね」
「はいはい、本来なら超絶に怒り心頭になるところだったけどお〜、正直に打ち明けてくれた常ちゃんの清い心に免じて、特別に! 怒ったりなんかしないわよ〜」
常松の顔が引き攣る。
(おいおい、やっぱり怒る予定だったんじゃねえかよ・・・怒ったら、いろんな意味で怖そうだし気をつけないとだな)
「とにかくマスター! 俺としてはどんな力を使うのか、とっても気になってるんですよ!」
「その前に・・・常ちゃん、本当にお札を持ってるんでしょうねえ? 持っているのがポー◯牧師匠の千社札だったり・・・なーんてオチは無しよぉ」
「流石に、それはないですって! 間違いなくユリコママからお札を三枚いただいたんですよ。きっと何かの助けになるアイテムだって言ってくれて、それで遠慮なくいただいてきたんですよ」
「常ちゃん、そのお札を見せてもらってもいいかしら? ・・・大丈夫よ、お札を取り上げたりなんてしないから・・・」
「・・・・・・わかりました! 俺はマスターを信用していますからね、お見せしましょう!」
常松は既に観念しているので二つ返事で答えると、胸ポケットに右手を差し込んで徐に取り出した。
常松の右手に握りしめられた三枚のお札は、丁度ビール券のようなサイズで、紙製の札であった。
もらった時には嬉しさの余り、あまり気にも留めなかったのだが、よく見ると何も書かれていない真っ白い無地のお札であった。
それをカウンター上に置くと、髭マスはその何も書かれていない真っ白いお札を血眼状態で凝視する。
「マスター、そんな凄い凝視しちゃってますけど、まさか何か見えちゃったりとかするんですかー?」
常松は、ついつい意地悪な調子で髭マスを揶揄う。
「しいーっ!! ちょっと静かに! 集中してるから!!」
髭マスは、人差し指を自分の口の前に立てながら常松を静止する。
(なんだあ、珍しく真剣な眼差しになっちゃったりして・・・マジで何かが書かれたりしているのか?)
常松は髭マスの真剣な表情を見てから、真っ白いお札に目線を落とした。
常松も今一度、お札を見てみるが、やはり何も書かれてはいないし模様すらない。
すると、髭マスが突然凝視しすぎて血走った眼を常松に向けた。
「あっれーー!? おっかしいわねえ? この紙切れ、なーーんにも書いてないじゃあないのよお」
(・・・紙切れとか言っちゃってるし・・・)
「・・・まあ、見ればわかりますが、何も書いてないですよねえ」
常松も意見を合わせる。
「文字とか絵柄とか、模様とかの類は何も書いてないわよねえ」
(―――? 何を当たり前のことを口走っているんだろ? どう見たってそうだろう)
「そのようですよねえ、何もない真っ白い札にしか見えませんねえ」
「ただ、まあ、なんとなくだけど、辛うじてねえ」
「辛うじて?」
「指紋だけはギリギリ見えたわよお」
「ええーーーっ!? 白地なのに指紋が見えちゃうんですかあ?」
「本当よ! 見えちゃったんだから仕方ないでしょう! あたしって昔から視力だけはアフリカの原住民並みに良かったりするのよねえ」
(マジか? このオッサン、透かしたりしてなかったけど、そんなもん見えるのか? 適当なこと言ってるんじゃないのかな・・・)
「まあ、そのおかげで、この紙き・・じゃあなかったお札がユリコママからの授かり物だってことが証明されたわ」
(おいおい、言い直しちゃってるよ、なんだか証明されたってのも信憑性に欠けるよなあ)
「あのぉ、辛うじて見えた指紋で証明されたってことは、指紋がユリコママのものだってわかったってことですかね?」
「当たり前じゃあないのよお! そうに決まっているでしょう・・・あっ、指紋は2種類あったから、もう片方は常ちゃんのものね」
(にわかには信じ難いなあ・・・)
常松は苦笑いするような表情になっている。それを髭マスは見逃さない。
「あらら! ま〜た常ちゃんったらあ、あたしの話が信じられないって顔しちゃってるわね」
「いやいや、そうではありませんって! ビックリしただけですからあ」
「そうなのお? まあ、いいわ! じゃあねえ、これからとっておきの御呪いってやつを披露するわよ」
「ええーっ、また氷の魔術ですか?」
「違うわよおーー! それは、さっきやったでしょーー! これから見せる御呪いは、常ちゃんのためにやる大事なやつなのよお」
「俺のため・・・です・・・か?」
「そうよお、これから、華麗なあたしの神秘性溢れまくる念を放出するわよ! そして、その念をこのお札に刻印させるのよ!」
髭マスの何やらお札に何かを刻印する的な発言に怯む常松。
(一体、 何を放出するんだあ? もしや、魔力なのか? 魔力の刻印とかってやつなのかあ??)
そして、髭マスの表情が一段と険しくなる。
「しかも、そろそろ時間も無くなってくる頃なのよね! 常ちゃん、これからあたしの言うことをしっかり聞いてもらうわよ!」
「ええっ!? どういうことですか?」
「ちょっと会話が弾みすぎちゃって、もうタイムリミットまで僅かなのよ! 常ちゃん、外へ出る準備をしてちょーだい! そして颯爽とこの店から出て行くのよ!!」
「あなたのことは、あたし達が守ってあげるから、とにかくここを出るの! 先ずは、このお札をしっかり持って、そこに立ってごらんなさいな」
何やらただならぬ気配を感じ取った常松は、急かされるままに荷物を持つと、右手でお札をしっかりと掴んで立ち上がった。
そのままカウンター後方のジュークボックスの前に立って髭マスを見る。
すると、髭マスが何やら両掌を口元に押し当てているのがわかった。
「常ちゃん、今からあたしのエネルギーをそっちへ渡すから、しっかりと受け取るのよーー」
「―――? それって、どういうことっすかあ? エネルギーって何なんですかあ? 今ひとつ理解できないんですけどおお」
「いいからあ、お札をあたしの方へ差し出すように向けるのよ! そして、あたしからの『愛』を受け取るのよー!」
(――――はあ? なんだそれ!?)
髭マスの言葉の意味が全く理解できない状況の中、その髭マスは何故か真剣な眼差しを向けてくる。
「マスター、仰っている意味が全くわからないんですけどお・・・」
「いいから、言った通りにしてちょーだい」
「よくわかんないんですけど、わかりました・・・」
常松はよくわからないままお札を持った腕を髭マスの方へ差し出した。
すると髭マスは、両腕を常松に向けて勢いよく開いて、口元にクロスさせていた両掌を常松に向かって伸ばす。口髭が上がって露わになった唇がタコチュー状態になっている。
『 Blowing a CHUUUU――――!! 』
「さあ、あたしの特別な愛の印・・・しかも幸運のチュウなのよおーーぅ! フライングゲットしてえーー!! っていうか、ゲットしちゃいなさあーーーい!!」
常松の全身に戦慄が走る!
..............常松は生き残ることが出来るのか!!
今回、冒頭で述べました主人公のネーミング由来となったベーシストが所属していた伝説のロックバンドの代表曲の一つでもある“image down”の疾走感溢れるダウンピッキングは圧巻だったなあ……と、しみじみ思うほどに、作者も嘘偽りのないこのミュージシャンの大ファンなのです。
だから何かしらの形でスポットを当てたいという強い想いがあって名前だけお借りした次第です。
ただ、この物語の主人公のしょーもない人柄や人間性は、モデルとなったミュージシャンとは一才関係がなく、むしろ似ても似つかない人格なので、ここのところは強調してお伝えしておきます。
そういう訳で、
そのミュージシャンが作詞作曲したご機嫌な楽曲をヒントに、ワーカービーである主人公は生まれたということを暴露しつつ、その哀れなワーカービーがまさかの異世界的な裏世界に迷い込んでしまうという安易な発想によって創作されたこのチープな物語もおかげ様で25話を超えてしまいました。
その節目ということで、ネーミング由来について述べさせていただきました。
I Love Tsunematsu. Longer than forever !!




