表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

ラストミステリー

-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --


 今更ながらに髭マスGAGAに対して疑心を抱いてしまったため、よせば良いのに髭マスを観察してしまう常松。それはもう髭マスの身体に穴が開くのではないかと思うほどに凝視しまくってしまう。


 しかし、掴みどころの無い髭マスGAGAではあるものの、そのお下劣な態度や発言からは、少なくとも常松を陥れるような気配は一切見受けられなかった。


 更にお札に関する情報をどうにか引き出そうと必死になる常松は、実は髭マスがもっと重要な秘密を隠し持っているのではないかと直感する。


 そんな常松の思考を逆手に取るかのように髭マスの口から発せられたのは、『ユリコママから何かもらっていないのか?』という問い掛けであった。

 果たして髭マスは、ユリコママからもらった“三枚のお札”のことを知っているのであろうか? それとも、ただ単に気まぐれで訊ねたに過ぎないのだろうか?


 そして、意表を突かれた常松は、この問いかけにどのように切り返すのだろうか!?

 もしかしたら作者の気持ちを察して、物語の進行を早めるために真実を語ってしまうのか? 

 それとも「この秘密は墓まで持って行くぞ」と言わんばかりに誤魔化してしまうのか?


「出来れば正直に喋っちゃってくれた方がこの先の展開が楽になるんだけどなあーー!」という作者(てん)の声は常松に届くのか?


 それよりも、そもそもの話であるが、常松が胸ポケットにしまった三枚のお札には、本当にユリコママが説明したような効力があるのだろうか?


 この物語において、髭マスの氷属性(インチキ)魔術を除けば、唯一の異世界っぽいアイテム。それが三枚のお札である。


 しかし、常松の葛藤に加えて、うっかりこんなアイテムを登場させてしまったばかりに、このアイテムの使い所については全くのノープランだったことに気がついた作者の苦悩が露呈する。


 そんな苦悩を知らない常松の回答如何で、この先の流れが変わるという重大局面を迎えるのであった。



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


(この髭のオッサンはどこまで知っているんだ? 全てお見通しってことなのか!?)


 髭マスGAGAから思わぬ言葉が飛び出した。

 意表を突かれた常松の額から先程飲んだシャンパンの水分のみが噴き出す。 


「どうなのよお、ユリコママから何か大切なモノとかあ、貰ったんじゃあないのお??」


「いやあ、そんな女の子の大切なモノなんて、幼気な俺ごときが頂いちゃえる訳がないですよぉ」


 常松は思わず、作者でさえも何なのか今ひとつ確信の持てない“女の子の大切なモノ”というワードを口にしてこの場を切り抜けようとしてしまう。


「あら、常ちゃんったらあ、なかなか気の利く返しを入れてくるじゃあないのよぉ・・・」


「俺なんて、どうせ女にモテないダメダメ男ですから、そんな大切なモノなんてもらえる訳がないんですよぉぉ」


「はいはい、常ちゃんが女にモテないのは重々承知してるから〜、そんな自虐的な発言なんていらないのよお〜、あと、ユリコママは、女の子っていうよりはレディなんだからあ、まあ何かの間違いでってことも1000万分の1の確率であるかもしれないじゃあないの」


「ちょっと、ちょっとおー! 1000万分の1って、どんだけの確率ですかあ! ほぼほぼ皆無ってことじゃあないっすかあ!」


「常ちゃんが、あと三〜四回くらい生まれ変わった頃には、頂いちゃうことが出来るかもってことよお」


「いやあ、そんな気の遠くなるような……っていうか、既に次元を遥かに超えまくっているし、勘弁してくださいよ」


「常ちゃんがつまらない話で、こっちの質問を煙に巻こうなんてするからあ、こんなことになっちゃったのよお」


(こりゃあ、この髭マスは、全てお見通しってことで間違いなさそうだぞ、仕方ない、本当のことを話すしかないか)


 気を取り直した常松は、観念して話を切り出そうとすると、その出鼻を挫くように髭マスが先手を打つ。


「やあ〜っと、真実を話す気になったのかしらあ、常ちゃんったら、あたしのことを疑っちゃったりして、可愛いとこあるじゃないの」


(やっぱり間違いないな、こうなれば、この髭のオッサンに全てを賭けるしかないな)


「いやあ〜、流石はマスターですね。ちょっとギャグでもかましてやろうかなあ〜、なんて色気を出しちゃったけど、ものの見事に返り討ちにあっちゃいましたよ。マスターを笑わそうなんて、それこそ100万年早いっすよねえ」


「ノンノン、100万年じゃあなくて1000万年早いってものよお〜」


(ノンノンじゃねえって!)

「いや、そういうことではなくてですね……」


「そうよお、だから早く教えなさいよお、ユリコママから貰ったんでしょ〜、ア・レ・を」


「ア・レ・ですよねえーー! 確かに貰いましたよ、ア・レ・を」


「やっぱり貰っていたんじゃあないのよ、お・ふ・だを〜、そのことでね、常ちゃんに超絶に大事なことを教えておかないといけないのよ」


(ついに、核心のワードが飛び出したぞ……よーーし! 聞いてやろうじゃあないの)

「教えてくれるんですか? どんなことでしょうか?」


「じゃあさあ、常ちゃんは、何枚貰ったのかしら?」

「えっ!?  あ〜、はい、三枚ですけど……」

「あらっ!? 中途半端ねえ〜、四枚にすればちょうど良かったのにねえ」


「そうなんですかあ、でも“三枚のお札”なんて物語があるくらいで、なんだかファンタジックだと思うんですけど」


「またまた常ちゃんたら〜、それを言うなら“四枚のお札”でしょ〜、ファンタジー満載の昔話ってやつよねえ、中途半端なのよねえ、ユリコママったら四枚にしてあげたら洒落が効いていて面白かったのにねえ」


 常松はつい先ほどのやりとりを思い出した。

(そうかあ、さっきも、金田一や犬神家の件(※注)で揉めたよなあ、こっちの世界じゃあ、昔話でさえも少しだけ違いがあるのかぁ、まあ三枚でも四枚でも、どっちでもいいけど)

※注:第22話GOLD or SILVER参照


 ここが異世界であることを改めて実感する常松の前で、髭マスが小さなショットグラスを二つ取り出した。


「常ちゃん! いよいよクライマックスってやつよお!!」

「えっ、どういうことですか??」


「ほらあ、このアイアンヘッド篇もかなり長くなってきちゃったじゃなーい。ド◯えもんの相棒の名前みたいに伸び伸び〜になっちゃってるでしょ〜、だから作者もマンネリ化を気にしているのよお〜、あたしは結構活躍出来ているからいいんだけどね、『早く次のステップに進みなさーーい』っていう天の声が聞こえてくるのよ」


 そう言って、徐にテキーラボトルを取り出すと、小さなショットグラスにテキーラを注ぐ。


(なんだあ、今度はテキーラが出てきちゃったぞお・・・罰ゲーム的な奴なのかあ?)


 常松の心配をよそに、髭マスはてグラスを常松の前に差し出した。


「さあ、いよいよ、ラストミステリーにチャレンジしてもらうわよーー!! GAGA人形とかはないけどお」


(おーーーい・・・それは某クイズ番組のやつじゃあねえのかあ・・・突然、ミステ◯ーハンター的なレポーターとか登場しないだろうなあ)


 そんなレポーターが登場するわけもないのだが、常松の脳裏に徹子さんやまことくんが浮かび上がる。

 そしてラストミステリーを宣言した髭マスが続ける。


「さあ、ラストミステリーを解き明かしたいのなら、そのグラスを一気に飲み干すのよおーー!」


「マジっすかあ! これって・・・テキーラっすよねえ?」


「そうよお〜、だからどうしたのお? 男でしょお、ググーーーっと飲み干しちゃいなさいよおー」


「これを飲めば、最後の謎が解き明かされるってことですよねえ?」


「つべこべ言わずに飲みなさーーい! 飲めば、その謎の解明に一歩近づくのよーー」


「どちらにせよ、俺も知りたいことがありますからね、よーーし、京太郎いきまーーす!!」


 木馬から射出される某ニュータイプの如く、声をあげた常松はグラスを一気に口に運ぶ。


「プハアーーーッ! 効くなあーー、これアルコール度数すごいっすよね」


「お見事――!! いけるじゃあないのよお!」


「これでお札の謎について教えてもらえるんですよね!」


 常松に続いて、髭マスもテキーラを一気に口の中に流し込む。


「それじゃあ、常ちゃんが知りたがっていることに答えようじゃあないの! 何なりと言ってごらんなさい」


(お札のこともあるけど……それよりもミステリアスなのは、なんでこのオッサンがお札のことを知っているのかってことだよな)

 

 そう考えた常松はテキーラの力を借りて、思い切ってド・ストレート勝負に挑む。


「じゃあ、聞きますけど、何故マスターは俺がユリコママからお札をもらったことを知っていたんですか?」



「………まあ、そうくるわよねえ……実はね、この世界に迷い込んだ裏世界の人間がね、あたしの店に来るだろうってことは少し前に聞いていたのよ」


「――――えっ?・・・俺が来るって知っていたんですか? それってユリコママから聞いたってことですか?」

常松は動揺しながらも会話を続ける。


 正直、かなり驚く内容ではあるが、ただでさえ摩訶不思議な状況下に身を置く以上、そんなことがあっても不思議じゃあないのだと頭の片隅では思っていた。


「イエーーース! ユリコママから聞かされたのよ。最も、常ちゃんがってことではなくて、迷い込んだ誰かがっていう話だったんだけど」


 常松は、その話が自分にとって、プラスに作用するのか、将又マイナスに作用するのかを考えてしまう。


 髭マスやユリコママが自分を助けようとしているのであれば、この世界からの脱出の糸口が見えるかもしれないが、予め知っていて罠を張って次元パトロールに通報する気だとしたら二度と元の世界には戻ることが出来なくなるのではないか? そんなことまで考えてしまう。


(これって、俺を罠に嵌めようとしているってことはないよな? しかし、それならこんな周りくどい真似などする必要もないしなあ・・・しかし、ここで足踏みしたところで何も得られるものはないんだからネガティブ思考は切り捨てよう)


 そう覚悟を決めて、尚も髭マスに疑問を投げる。


「何故、彼女はそんなことを・・・予知能力があるとか? 何か特別な存在だったりするんでしょうか?」


「そうねえ・・・・・正直、あたしにもよくわからないのよね・・・ただね、お札についてはとーっても大事なことが一つあるのよ!」


「そんなに重要なことなんですか? 是非、教えてください!!」


「じゃあ、テキーラもう一杯、付き合ってもらうわよ〜」

「ええーーーっ!! もう一杯っすかあ」


「当たり前でしょー! とっても重要なことなんだから、もう一杯くらい付き合いなさいよお、あのワールドクイズ長寿番組でお馴染みのラストミステリーなのよお〜」


(だから、ラストミステリーってなんだよ!だからって、なんでテキーラ飲まなきゃいけないんだっつうーの)


 嫌気で満々の常松のグラスにテキーラが注がれてゆく。


「マジっすかあ、んじゃあ、そのミステリーをハントしちゃいますよー!」

常松は2杯目を一気に飲み干す。


「やるじゃなーーい! んじゃあ、お札の秘密の花園的なやつを教えるわよ」


 真剣な眼差しを髭マスの口髭辺りにロックオンする常松。髭マスは再びテキーラを飲み干して開口する。


「そのお札ってのはね、今のままでは何の効力もないのよ〜」

「はあ?? ・・・・・それじゃあ・・・ただの紙切れじゃあないですかあ」


「でもね、常ちゃんが何故、このお店に入ったのか、よく思い出してみて・・・ユリコママのアドバイスがあったんじゃないのかしら? 最初はアイアンヘッドに行けって・・・」


 髭マスGAGAのその言葉に稲妻のような衝撃が走る。


「確かに・・・そうでした! ユリコママにこの店に入るように勧められました」


「そうだとすると、常ちゃんがもらったお札は、あたしのお店に来たことで本物の力を発揮出来るようになるってことになるわね」


「要するに、ここに来なければお札はただの千社札に格下げのままだったってことっすか・・・」


「そういうことよ! 実はね、ある力(・・・)を注ぎ込んでやれば、お札は見事完全体になるのよ! これはユリコママからの情報だから間違いないわよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ