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伝説のドラゴン

-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --


 髭マスGAGAが話す和風スナックという店の正体が、“大料理ゆうこ”だと判明した。

 更に髭マスから“大料理ゆうこ”のママ、ゆうこは髭マスGAGAの店で飲んだことがあると聞かされた。少しでも多くの情報が欲しい常松は、髭マスとゆうこママの会話の中身が気になり、墓穴を掘りながらも元の世界に戻るための情報を聞き出そうと足掻きまくる。

 が、髭マスからの容赦ない攻撃を喰らって、あろうことか“真性”のレッテルまで貼られてしまう。


 それでも諦めない常松は劣勢に立たされながらも、苦し紛れの反撃を試みる。それが予想に反して見事にヒット!!

 ついでに、髭マスが実は“仮性”だったという全くいらない情報までもゲットしてしまう。


 やがて、真性Vs仮性のバトルに決着がついた頃、自称クールビューティ系の髭マスGAGAは、自分が魔術使いなのだと告白……否、言い張って、更に常松を翻弄する。


 誰も頼みもしないのに、髭マスは念仏のような何かの詠唱を開始してしまう。

 その念仏をよくよく聞いてみると、それはまるで昭和の魔法少女が唱えていた、あれというか、それ? であった。


 髭マスの魔術が、常松の目の前で炸裂する。

 満面のドヤ顔GAGAが『どうだあ! これぞ氷属性の魔術だぞ!』という体で生み出したのは、至極立派な球体の氷であった。その球体の氷は、常松が余所見をした隙をついて、ロックグラスの中に綺麗に収まっていたのである。


 この狡さ極まりない、何ともお粗末な感じの魔術的な現象を目の当たりにした常松は、それを魔術だと認めてしまうのだろうか!?


 考えてみれば、この物語も異世界ものなのである。


 異世界といえば、剣と魔法、勇者と魔王、薬草とか、なんか凄いアイテムの数々、精霊と魔物、そして極みはチートといった要素がなくてはならないのが一般的。

 みんな大好きファンタジーな世界観でなければ読者は寄り付かないのだ!


 そんな訳で、この物語もいつの間にか無駄に20話を越えたこともあり、ラノベやアニメで大人気の異世界もののテンプレ的なエッセンスだけでも加えてやろうという作者のイヤラシイ思惑によって、本当に魔術師が登場してしまうのであろうか?


 そんな大魔道士的なキャラが、実は髭マスGAGAだったという展開になるのだろうか?


 そして常松は、そんなGAGAのなんちゃって魔術に助けられたりするのだろうか?

 

 髭マスGAGAの魔術によって、いよいよこの異世界酒場放浪記も、血湧き肉躍る冒険

活劇ファンタジーのような展開になってしまうのか?


 何はともあれ、髭マスGAGAの正体が魔法少女だと無理矢理な展開をつくるのか?

それは無理だけど・・・。


 それよりも、常松は髭マスGAGAの分かりやすいイカサマを暴露するつもりなのか、それとも泣き寝入りを決め込むのか!? シラけながらも仕方なく。


 今後の展開を左右するかもしれないこの局面をどう打破するのか!?


 我らが常松からいよいよ目が離せない!! ………なんてことはない。



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 髭マスGAGAの自称『氷属性の魔術』が上手いこと炸裂したかのような空気感が店内に拡がってゆく。

 かなり無理やりに醸し出そうとする、その空気そのものが痛々しい。


 しかし方法はどうであれ、常松の目の前に置かれたグラスの中には、いつの間にか球体の氷が入れられているのだから、何か得体の知れない凄味というか凄さは感じる。


 そう、さすがはGAGAである。

 出来上がった氷は、かなり年季の入ったバーテンダーによる手仕事で削られ出来上がったまん丸のロックアイスであり、熟練の技が感じられる。

 

 それは常松が目を離した隙に、空のロックグラスの中に入れられていた。


 想像するに、カウンター下の冷凍庫の中に常備されているまん丸のロックアイスを素早く、常松のグラスにインするだけの単純な動作だと思われるのだが、その素早い手際こそがプロのバーテンダーならではの仕事だと言える。


 ――――そう! それは、映画ファンなら誰もが知る名作『カクテル』で主演のトム・クルーズが魅せた数々の華麗な技に匹敵するような技。

 少なくともそうであると髭マス自身は心中、自負していたに違いない。

が、これはあくまでも魔術でつくった氷なのだと言い張らなくてはならないため、大好きなイケメンアクターのトム・ク◯ーズのそれについては封印しようと内心考えたであろう。


 一方で、まんまるく削られた氷、それをいかにも魔術によって生み出したかのようなパフォーマンスと髭マスの得意満面なドヤ顔が、常松を刺激する。


 おおよそ、どうやってグラスの中に丸い形の氷を入れたのかは容易に想像がつくのだが、あまりに乱暴過ぎるニセ魔術的なそれは、常松の目を点にさせるに充分だった。


 元々、髭マスが魔術などを使えるとは微塵も思わなかったし、それほどの期待を寄せていた訳ではないのだが、あまりにもチープで雑すぎるそれを披露されてしまった常松は、遥か昔に似たような気持ちになったことを思い出してしまう。


 それは・・・・・・あの伝説のドラゴン!


 ドラゴンと言っても、異世界ものによく登場する火を吹いたりする恐ろしいラスボス的なアレではない。異世界ものだというのに申し訳ないのだが、冒険者や勇者が頑張って倒すようなアレではなかった。


 常松が思い出したのは、香港映画でお馴染みの『ドラゴン』こと李小龍ブルース・リーであった。

 

 幼い頃、ストイックでクールな武術マスターを演じる李小龍の映画を観て、そのアクションのスピードと鋭さに魅了された。

しかし、よせば良いのにその後に知ってしまった“和製ドラゴン”の存在。


 日本にも凄いドラゴンがいたのかと期待を寄せた倉田◯昭のドラゴンシリーズを観てしまった時のやるせ無さ……残念を通り越して、なんとも言えないチープ感によって哀愁まみれにされた時の…あの感覚に似ていた。

 そんなやるせ無い想いを馳せた少年時代が蘇ったのだ。


 香港の本物のドラゴンに日本のドラゴンは全く敵わないと残念に思った。

 しかし、ちょっとジャンルは違うのだが、新日本プロレスのマッチョドラゴンこと藤波辰◯のドラゴンスープレックスには魅了されたのであった・・・が、そんな話はどうでもいい。


 そして常松は溜息を漏らす。


(このおっさんは、氷の魔法を俺が信じたと思ってんのかな?? しかも、あのドヤ顔・・・もう怒る気にもならないなー)


 何やら切なさのようなものまで込み上げてきてしまった常松に、ドヤ顔の髭マスが両手でハートマークを作って見せる。

「凄いでしょーー! あたしの魔術。 常ちゃんにもラブリー魔法をかけちゃうぞおーー、そおーーーれ!!」


と、訳のわからないことを口にしながら、両手で作ったハートマークを胸元から常松に向かってエアスロー。


「・・・・・・・・」



 常松は、思わず目を閉じて想う。


目の前で起こっているのは一体何なのだろうか? 

イラっとするこの気持ちをどうやって抑えようか?

魔女っ子の下手くそなモノマネを眼前で見せつけられる、この理不尽さはなんだ?

髭のおっさんのラブリー魔法にかかったフリでもしろというのだろうか?

っていうか、どういうリアクションをするのが正解なのだろうか?


 俺が何か悪いことでもしたのだろうか、したというのなら素直に罰を受け入れよう。

などと、思考が妙な方向へ流れそうになる。


 無言のまま、内心どのようなリアクションをすれば良いのか迷ってしまう。


(これって、何なんだよ。どういうリアクションして良いのかわからないぞ。正解はどれなんだー!!)

と、心の中で叫んで、我に返った。


「あの〜、それはもう良いんですけど、話を戻しても良いですかあ? ・・・ゆうこママが話していたのは、元の世界に戻れた仮性の方の男の話ではなかったってことなんですよね?」


 髭マスの魔力の刻印のようなペースから逃れようと、常松は一気に話を詰めていく。


「あら? あたしが唱えた渾身の魔術“アイスローーーック”を見て、無反応なわけえ〜」


 どうやら髭マスGAGAは、本当に上手いこと魔術っぽく披露できたと思い込んでいるようだ。


「あっ、あ〜、マスターが凄い魔術師なのはホント良く理解しましたから、もう大丈夫ですよ! 空いた口が塞がらないくらいに驚きましたから・・・・もうお腹いっぱいになりましたし・・・」


「そうなのお〜、何だか反応が薄いからあ、ちょっとテンション下がるわね〜」


(不味いなあ、髭マスのテンションが下がると、また意地悪する可能性があるよなあ、仕方ない、少しは褒めてやるかな)


「マスターの氷の魔法は凄かったですよ! 驚きすぎて、逆に素になってしまった程ですよ。これぞ正しい異世界って感じでしょうか、マスターの魔術が炸裂したからなのか、何だかこの店全域から異世界っぽさがジワジワと感じられてきてますし、流石はマスターですよね!」


「でしょ〜、あたしが魔法少女のような存在だったっていうのも頷けるでしょ〜、最も、今ではクールビューティ系なんだけどぉ」


 そう言い終えた髭マスは、何のつもりなのかは不明だがウインクをかっ飛ばす。


「・・・・・・・・」

またも、呆然としてしまう。


 しばらくの沈黙の後、再び髭マスGAGAが口を開いた。


「そうそう、ゆうこママの話だったわね……そういえばね、彼女ってばあ、何か妙なことを口にしていたのよお・・・」


 意外にも自ら話を本筋に戻す髭マスGAGA。恐らくは常松の表情を見て、これ以上翻弄すると常松の命に関わると踏んだのだろう。


 そして、瀕死の常松の心に復活の火が灯る。

(――――!! おっと! 待ってました! その件を聞きたかったんだよ)


「妙なことって? それは一体、どのようなことだったんですか?」


「確か・・・そうそう、何やら、お(ふだ)がどうの、こうのと言っていたのよ。

“お(ふだ)“って何なの? って彼女に訊いてみたんだけどお・・・」


(ん!? お(ふだ)? 今、確かにお札って言ったよな・・・)


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