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 -- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --


 小学生の頃から、『落ち着きがない』『集中力がない』『注意力が散漫』と言われ続けてきた常松であったが、当の本人は、自分がそんな人間であることを全く認知していなかった。

 だからこそ仕事のいい加減さには定評があるのだが、逆にいえば、そんな常松だからこそ、この異世界飲み屋ビルで降り掛かってきた数々の困難を克服できたのかもしれない……ということにしておきたい。


 そんな常松は、『和風スナック』の謎について、大胆な推理を展開してしまう。それはもう恥ずかしい程の推理。

よせば良いのに自信満々な推理っぷりを炸裂させたまでは良かったが、モノの見事に髭マスGAGAに一蹴されてしまう。


 仕舞いには、某推理漫画の有名なキメ台詞まで飛び出すと、それが功を奏したのか、全くそうでもないのだが、髭マスGAGAはある重要な、というよりも非常にばつが悪いことを思い出してしまう。

 髭マスの表情に変化が見えはじめ、いよいよ『和風スナック』の謎に終止符が打たれるのかと思われた。

そして、より一層険しい顔を見せる髭マスが明らかにしたのは......なんと!

『その店の名前が変わっていた』という事実であった。


 さあ、そうなると、いよいよその店というのは、あの店なんじゃあないのかい!! などと言うほどの話でもないのだが、どさくさ紛れにお伝えすると『ep.2あるある探検家』を読み返していただくと明らかになる......かもしれない。


 過去にこの世界に迷い込んだもう一人の男(生還者)の足取りがいよいよ明らかになるのか?

常松は、その足取りを辿って、元の世界に戻ることが出来るのか!?



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 髭マスGAGAが物凄い形相になるので、何を言い出すのかと身構えた常松であったが、そんな強面の表情とは裏腹に、口から飛び出したのは謝罪の言葉であった。


 髭マス曰く、「和風スナック」というのは昔の形態で、今は店の名前が変わっているというのだ。

しかも常松が恥ずかしい推理を鬼の首でも獲ってきちゃったのではないかと思うほどの勢いで展開してしまったというのに、である。


(こりゃあ、真面目に恥ずかしいぞお、俺! 自信満々に全く的外れの推理なんかしちゃったじゃあないかあ、おまけにじっちゃんとか言っちゃったし…)


 常松は、穴があったら入りたい気分になるが、同時に髭マスへの怒りも込み上げていた。


(店の名前が変わっていたって、気がつくのが遅いっつうの! っていうか、その店はいつ変わったんだよ!……ん? 待てよ? ってことは、元和風スナックだった店ってのは……どの店なんだろうか?)


 こうして、元和風スナックだった店とは、一体どの飲み屋なのだろうかという新たな謎が生まれた。

しかし、もう二度とつまんない推理で恥ずかしい思いはしたくない常松は、率直に髭マスに訊ねる。


「で、マスター、その名前が変わった元和風スナックというのは、どちらのお店なんでしょうか?」


「あら〜、常ちゃんのために気を利かせて言わないでおいたのに、喋っちゃって良いのかしらあ〜、本当にもう良いのお〜、お得意の推理を披露したいんじゃあないのぉーーー!!」


(―――おいおい、そこを掘り下げるなよ! かなり小っ恥ずかしいだろうがあーーー!)


「いや〜、ホント勘弁してくださいよ! あれは、ほんのジョークですよ、冗談ですから。ちょっと金田一風にアレンジして笑いを取ろうかなあなんて思っただけですよお」


「えっ、きんだ?いち?、推理小説の…主人公の?」


「そうです、ほら、有名な金田一ですよ! 真似したのはその孫の方ですけど、ほら漫画のキャラですよ」


「ええっ!?? 何言っちゃってるのよ、常ちゃんってばあ〜、それを言うなら“銀田一”でしょーーー! 銀田一耕助よぉ」

「えっ? いやいや、間違いなく“金田一”ですよおー! シルバーではなくて、ゴールドですよ!」


「あらあ、おかしな人ねえ、あたし、あの映画シリーズが大好きだったから、よく観ていたし、間違える訳がないのよお! 絶対にシルバーの方なのよ! 間違っちゃって恥ずかしいのは分かるけどお、素直に間違いを認めなさいなあ」


(なんだ、この妙な自信は! なんでそこまで言い切れるんだよ、間違ってるくせに。その割には、じっちゃんの名にかけているかのように頑なだよなあ)


「ちょっと、ちょっと、本当に間違っているのはマスターの方ですって! 日本の怖いミステリーといったら金田一なんですよ! ゴールドの方なんですよ!!」


「まあ! 常ちゃんって意外に頑固者なのねえ、大体、『金』って言ったら、『玉』ってくるのが普通の発想なのよ!」


(おおーーーい!! そっちへ持ってっちゃうのかあ! っていうか、普通の発想じゃあないだろって!)


「何を言い出すのかと思えば、勘弁してやってくださいよ〜、金といえば玉って……今時は、そんなこと小学生でも言いませんよぉ〜」


「じゃあ、常ちゃんは、その玉のことをなんて言うわけよお? 断っておくけど、医学用語を使おうなんて夜の世界じゃあ通用しないわよ〜」


「ですから、そのような玉の呼び名のことを議論するんではなくてですねえ、“金田一”なのか“銀田一”なのかを議論してるんですよ!」


「チッ! ふ〜ん……まあいいわ、仕方ないわねえ」


(まあいいわって……なんで上からの物言いなんだよ! なんか俺の方がわからず屋みたいで嫌だなあ)


 舌打ちまでする髭マスのタカピーな発言にイラッとくるが、話の流れを戻せるならと我慢する。

と、更にすかさず髭マスが問いかけてくる。


「じゃあ、ついでだから聞いちゃうけどお、銀田一シリーズで一番好きな作品はな〜に?」


「えっ!? いや作品はこの際……どうでも良いのではないでしょうか」


「あらあ、ここまで話題にしたんだからあ、そのくらい拡げたって構わないでしょ〜、ちなみに、あたしが好きなのはやっぱり、あれよお〜、ほらあ、池にお股を広げて突き刺さっちゃったやつ〜」


「ああ〜、あれは子供の頃、TVで観て怖かったですよねえ」

「なんか、今考えると、グッとくるわよね!」


(なんで、あれがグッとくるんだよ! スケ◯ヨが股開いちゃってるからなのかな?)


「あの映画のタイトルってなんでしたっけね? 確か……犬神家の……だったような?」


 常松が映画のタイトルを口にすると、髭マスGAGAが驚いたような表情になる。


「ええー!? 常ちゃんってばあ、何をつまらないギャグとか言っちゃってるわけ〜、うわっ、さむ〜!! 寒いわよ! あんまりつまらないギャグを言うと店から叩き出すわよーーう!」


「いやいや、さむ〜ってなんで!? そんな寒いギャグなんて、ひとつも言ってないですよ! 勘弁してくださいよお」


「えー、だって、あの映画のタイトルは『猫神家の一族』でしょー!それを小学生でも言わないような『犬神家』だなんてえ、つまらな過ぎて酔いが覚めちゃったわよ〜う!」


(なんだあ? このオッサンは何を言ってるんだあ?? 流石にあの映画のタイトルでそんな寒いギャグなんか言う訳がないっつうの……しっかし、何かがおかしいよなあ……)


 何やら噛み合わない会話に違和感を感じた常松は、反論するのを諦め、またまた得意のシンキングタイムに突入する。しかし、これは先ほどの調子こいた推理のそれではない。


 そして、ひとつの結論に至る。


「マスター、ちょっと待ってください。俺は流石にそんなつまらないギャグを言うようなタイプではないんですよ。ただ、先程からちょっと微妙にズレがあるというか、お互いの認識にちょっとだけ違いがあるので、もしかしたらと思ったことがありまして……」


「確かにねぇ、なんで常ちゃんがそんなに言い張るのか、そして何故あんな低級なギャグをこれ見よがしに言うのか? あたしも不思議に思うのよねえ」


(おいおい、低級なギャグを言ってるのは、お前の口髭の方でしょうが!)

「そうなんですよ。俺は先程から、間違いを言ったりとか、つまらない寒いギャグをかましたりなんかしてないんですよ。もちろん、マスターも間違ったことは言っていないんだと思います。それで、もしかしたらってことがあってですね……」


「……というと?」


「マスターの言うシルバー、つまり『銀田一』も、それから『猫神家の一族』もこっち(・・・)の世界ではメジャーなキャラクターであって、誰もが知っている映画なんですよね。逆に俺のいたあっち(・・・)の世界では、ゴールド、つまり『金田一』と言う有名なキャラクターがいて、それから『犬神家の……』というタイトルの映画が事実として存在しているんですよ。つまり、こっちとあっとの世界ではその名前やタイトルに微妙な違いがあるってことなんじゃあないでしょうか?」


「―――な〜るほどお〜! 確かに常ちゃんはこっちの世界の人間ではないんだから、その話は頷けるわよね」


「だけど、こっちの世界もアニメなんかの舞台になるような異世界とは全然イメージが違うし、むしろ、俺のいた元の世界と何ら変わりのない世界に見えるんですよ。むしろ同じ世界の表裏みたいな感じというか……なのに、ゴールドがシルバーになっちゃうような、どうでも良い違いがあったりするから、やっぱり異世界なんだなあって改めて思いましたよ」


 どうやら常松の推測は的中していた。先程のじっちゃんの名にかけた割には、全く見当違いのダメ推理とは違って、見事な推論である。


「何だか納得だわあ、さすが常ちゃんねえ! でも、銀田一が、常ちゃんの世界では金田一になっちゃってるなんてねえ……なーーんか笑えるわよねえ」


「確かにそうですよねえ……あっはははは…………あっ!」


と、自分の推論が的を得ていたことに内心ホッとして、若干爽やか系の笑いを入れる常松であったが、話が全く別の方向に脱線しまくっていることにようやく気が付いてしまう。


(―――って、おいおい、笑ってる場合じゃあないんだった! で、元和風スナックだったのは、どこの店なのかを聞き出さないとだよ)


 常松は、笑うのを止めると、我に返ったかのように話を戻す。


「で、マスター、話が全く明後日の方向へ逸れて行ってしまったので、もう一度戻しますが、その元和風スナックという看板を出していた店というのは、どのお店なんでしょうか?」


「だ・か・らぁ〜、常ちゃんお得意の推理はしなくていいの、かしらあ〜」


「いやいや、その流れは、またシルバーorゴールドの話に戻ってしまいますから、やめましょうよ!」


「大丈夫よ、もう銀とか金とか玉とか言わないからあ〜、常ちゃんは、どのお店だと思うわけ〜?」


(わけ〜、じゃあないっつうの! あと、玉だけ余計なんだよなあ……)


 常松は思うように聞き取りが出来ないことに若干苛立ちながらも考える。


(ユリコママの店、この髭マスの店は除外するとして、次元パトロールに捕まってしまった男が立ち寄った筋肉バカの居酒屋も除外だよな……ということは、目の前のL Lか、それからあの居酒屋のトイメンの店、あの店の名前が思い出せないんだよなあ……確か和風っぽい感じの名前だったような?)


常松の中で、答えはほぼ二つの店に絞られた。


「もしかして、常ちゃんってば、ここにある全てのお店を知らなかったりするのかしら?」


「マスターのBARも含めて三つの店舗は知ってるんですが、残りの二つのお店には入っていないので店内の雰囲気までは分からないというか……」


「そこまで絞れているんだったら、実はもう分かっているんじゃあないのぉ〜……そうねえ、もし一発で当てたら、ご褒美にすんごい良いモノを差し上げるわよお〜、それって常ちゃんが無事に帰れるためには欠かせないモノかもしれないわよ〜……どう? 当ててみなさいなあ」


「目の前の派手な看板の店は、ちょっとなあ…って感じですよね。それよりもマスターの店の斜向かいの店だと思うんですが、そのお店は確か、和風のお店だったような……うろ覚えなんですけど、そのテイストだったら元は和風スナックだったという可能性は高いですよね!」


常松は、そう言いながら髭マスの表情を確認する。

しかし、髭マスは全くの無表情、というよりも気の抜けたような表情で常松を見ている。


(あれ? なんか違うのかなあ?? なんだ、髭のおっさんのくせに、急に無表情になって、しかも他人を小馬鹿にしたような、なんかムカつく顔しちゃってるぞ)


「あれーー! 俺ってば、何か間違ったようなこと言ってますかねえ……? っていうか、考えがやっぱり短絡的過ぎたのかな」


髭マスは常松の言葉に全く返答しない。

鳩が豆鉄砲を喰らったかのようなムカつく表情を見た常松は、馬鹿にされていると思いながらもジワジワと自分の答えに自信がなくなり悩み始める。


(何だあ、俺の考えはやぱり間違っていたのかな? 和風チックな店だから、元々は和風スナックだったってのは出来過ぎなのか?)

そう考え始めると同時に、の◯太のクラスの優等生を想い出す常松。


 更に先程までトークしまくっていた髭マスは、黙りを決め込むかのように一言も発しない。それがまた、何やら不安を煽るのだ。


(何だあ、このおっさんの無言の圧力は? っていうより、やっぱり、オッサンの顔がムカつくなあ……それよりも、あの店の名前を思い出そう、何かヒントになるはずだぞ!)


真剣な表情の常松は、消えたエレベーターから降りて、ここにある店を物色した時のことを思い出してみる。


(最初に筋肉バカの居酒屋が目に飛び込んできたな。そしてその通路を挟んだ向かいにあった店、その店も和風の店だったはず……そうだ料理、あっ、小料理…じゃあなくて大料理って書いてあったはず! 大料理ってなんだ?? って思ったんだよ。間違いないぞ、『大料理ゆうこ』だよ! コリン的な感じの名前が付いてたんだ、間違いないぞ!!)


 ついに店名を思い出した常松は、相変わらず鳩が豆鉄砲でも喰らったかのようなムカつく表情の髭マスに告げる。


「マスター! わかりましたよ! もうそんな拍子抜けしちゃったみたいな顔をしなくてもいいですよ!」


 すると、髭マスの目が泳ぎ出した。


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