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髭マスGAGAと常松京太郎と見えない店

 -- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --


 髭マスGAGAの口から次々と明かされる驚愕の真せぃ、もとい、真実。

 過去にこの世界に迷い込んだ二人の男がいた。常松と同じあっちの世界から来た二人の男がそれぞれ辿った経路と末路について語られた。

 内、ひとりの男は、赤い三連星でお馴染みの“居酒屋漢だらけ”に入った後に、次元パトロールに身柄を確保されてしまったという。

それを聞いてしまった常松は肝を冷やす。


 その店は、髭マスGAGAのBARアイアンヘッドの隣にある店で、実は常松がこの世界に入り込んですぐに入った居酒屋だったのだ。


 次元パトロールに捕まってしまった男は、どうやら“居酒屋漢だらけ”の赤いドシフン兄弟が次元パトロールに密告した可能性があると知って危機感を募らせる中、髭マスGAGAのアメリカンジョークだと言い張るシモネタが炸裂する。

 この髭マスのシモネタにも勝る“居酒屋漢だらけ”の存在は、この先も常松にとっての脅威となるのだろうか?


 そして、もうひとりの男について、その足取りが髭マスの口から発せられたのは、『和風スナック』というワードであった。

 そんな店なんてあっただろうか? と、常松に更なる衝撃が走る。

本当にこの飲み屋ダンジョンに和風スナックなんてあるのだろうか?

そこは一体どういう店なのだろうか?


 天国と地獄、どちらの道を歩むことになるのか、それは常松の今後の行動によって決まるのだが……

常松は持ち前のいい加減さを発揮して無事の帰還を果たせるのか!?


 この後、覚醒したかのような常松の次元を超越した推理が冴え渡る!


 超絶スーパー異世界酒場冒険放浪記『スナッキーな夜にしてくれ』は、いよいよ佳境に突入する……かも

しれない……というか、してくれよ!



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 髭マスGAGAの口から飛び出た意外なワード『和風スナック』とは……そんな店がこのフロアに存在していたのか?

常松は不思議に思う。

ここに迷い込んだ当初、全ての店をディスりながら物色したはずである。


(ってことは、最初にここに降りた時に素通りしちゃった店があったということなのかな? いやいや、全ての店をディスった……つもりだったけど見落としちゃったのかな?)


 『見落としちゃったのかな?』などと常松は軽い感じで考えているのだが、常松であれば不注意から見落とすことなど造作もないことなのだ。もちろん、威張って云えるようなことではないのだが。

 常松には、ひとつだけ(実はもっとあるのだが)自分自身のことを理解出来ていないことがあった……それは、自分が“注意力散漫”だということ。


 小学生時代の通信簿には、『落ち着きがない』『集中力がない』『注意力が散漫』といった毎年毎回同様の言葉が並ぶという酷評のオンパレードぶりを発揮し、学期末になると両親の肩の力を落とさせてきた。

 しかし、そんなことなどお構い無しに天真爛漫に生きて来ちゃった結果が、これであった.......。


 そんな常松は、今でも己を理解していない。

 孫子の兵法書にもある通り、『敵を知り、己を知れば百千百勝』なのだが、常松は己を知らない。

つまり、常松は戦に勝つ見込みが薄いということになる。


 幸いこの物語では、まだ肉弾戦のようなバトルはないし、知略謀略、権謀術数による戦いなども起こっていないので常松には都合が良かった。


 しかし、この先の流れについては作者も分かっていない駄作なため、突然次話から魔王軍とのバトルが繰り広げられたりとか、王侯貴族の世継ぎ問題に巻き込まれたりとか、本格的な迷宮探索に乗り出すことになっちゃったりとか、実は常松は魔王の血族だったとか、長州◯の維新軍に名を連ねて、アントニオ猪◯・藤波辰◯率いる正規軍との巌流島決戦に挑んでしまうとか、海賊王を目指しちゃったりとか……そんな展開になれば常松に勝利や栄光は訪れないのであるが………そんな展開にはならない。


 話がかなり脱線してしまったので、戻して考えれば、常松の不注意によって実はここにあったはずの『和風スナック』を見落としていたのかもしれないのは大いにあり得るのだ。


 しかし、自分の不注意などとは微塵も思わない常松は推察する。


(だけど、一体どこにそんな店があるのだろう? それほど広くもないこのビルのフロアで見落とすって言うのもなあ……)


 当初の記憶を辿って考えても、そんな見落とすことなど有り得ないのではないか。

いくら常松の注意力が散漫だからといっても、そんな店が存在するだけのスペースはないし、あったら目に入るはずではないか。


(あっ!? もしかしたら……そういうことかあ、間違いないぞ!!)


その時、常松の頭上の裸電球がパアッと点灯した。


(もしかしたら、ここが異世界だから、俺なんかには見えない妙な空間とかがあって、そこに和風スナックがあるんじゃあないのか!? ここへきて我ながら、さすがの閃きだぞ! 夢に煌めけ! って感じだな)


“夢に煌めけ”はこの際どうでも良いのだが、常松は確信した。


 ここは普通では考えられない異世界なのだ。当然、目に見えない空間や店もあるのではないのか?

確かにテンプレ型の異世界ファンタジーであれば、そんな感じの楽しそうな展開があって当然なのかもしれない。


 閃きまくった常松は、やや斜め45度に体を傾けて上を向くと自信たっぷりに髭マスに向かう。


「マスター、俺は分かっちゃいましたよ! その和風スナックというのは、このフロアにあるとはいえ、普通の人間には見えない場所(くうかん)にあるのではないですか? 何か呪文とか唱えたりすると出現するみたいな……いやはや、さすがは俺というところでしょうか、この常松京太郎に解けない謎はないのですよ!」


(フッフッフ、決まったぜ! どうだあ髭マス、この俺様を褒め称えよ!)


「ええーーっ、常ちゃんってば、どうしちゃったの〜! 面白いこと言うじゃな〜いのよう……」


(どうだ、どうだあ、すっかり脱帽したんじゃあないのかあ、もう凄すぎてご自慢の口髭も脱毛しちゃう勢いなんじゃあないのかあ! よーーし、もう少し畳み掛けてやるか)


 自信満々の常松は、さらに斜めになった体制から顔を上に向けて畳み掛ける。


「さ・ら・に! その和風スナックを出現させる方法ってやつですが……マスター!! 実はあなたが知っているんじゃあないんですか!? 否、あなたがこの世界の賢者から引き継いだ指輪的なキーアイテムとか、そんなのを掲げて呪文を唱えるって訳ですよね! 俺には解るんですよ……」


「あら、残念ね〜、解っちゃうって言われても〜、あたし、そんな指輪なんて持ってないっし〜」


「おおっと、これは失礼、指輪ではないとしたら、やはりシンプルに魔法のカギではありませんかね?」


「だから〜、そんなアイテムなんて持ってないわよ〜、うちの店の普通の鍵ならあるけどぉ」


「アイテムではないんですか、ってことは……ああーーなるほど! そうだ、そうでしたよね。これは失礼! この店に入る時に唱えていたあの『エーーーーーオ!』ってやつ、あれなんですよね! つまり、マスターの呪文だけで和風スナックは出現するってことなんですね……」


 落ち着きがなく注意力散漫な常松ではあるが、ついに忘れていたコールアンドレスポンスを思い出した。 そして、髭マスも常松の推理に驚きの表情で、口を半開きにしたままでいる。


 髭マスの表情を見て、自身の推察が正しい、間違いない! と確信した常松がさらに吠える。


「この常松に解けない謎はない! じっちゃんの名にかけて!!」


 常松の妙な謎解きと語り口調に戸惑う髭マスGAGA。

更に常松のドヤ顔を見ると、何故だかやるせない気分になるのだが、脱力しながらも冷めた表情で声を振り絞る。


「常ちゃんってば、な〜にを訳の分からないことを自信満々に述べちゃっているのよ〜、そんなワケないでしょう!」


「ん!?それは……どういうことでしょう?」


「せっかく、じっちゃんの名にかけてくれちゃったのに〜、大変申し訳ないんだけどぉ、和風スナックが見えない空間に隠れているとか、呪文を唱えたら出現するとかって、そんなワケはないのよ!」


「ええーーーーーっ!! そんなバカなー!」 

自信満々だった常松の表情が俄かに曇り出す。


「おバカなのは常ちゃんでしょーー。 常ちゃんからすれば、確かにこの世界は異世界なんだけどお、常ちゃんが想像しているようなゲームやアニメのファンタジーみたいなのは……そうそうないわよ」


「…………………」常松は絶句して俯いてしまう。


 よく考えてみれば当たり前のことである。

そんな都合の良い展開にはならないことを、落ち着きのないと評される常松もようやく理解した。

目が覚めたような常松の顔を伺って、髭マスが話を続ける。


「じゃあ、確認するけど、このフロアにはお店って何軒あるのかは知っているのよねえ?」


「最初に通った時は、確か……店の数は全部で……五店舗だけだったような……」

常松は、最初に見てきた店を指折り数えて答えた。


「あら、よ〜く分かっているんじゃないのよ〜う、その通りよ! 五店舗しかないのよ〜。あっ! ってことは〜、常ちゃんもそのお店を見てるし、知っているんじゃないのかしら〜?」


「えっ? でも和風スナックなんてあったかなあ??」


「だからあ、いま常ちゃんは五つのお店を指を折って数えていたでしょー。だから、その中にあるはずよ!」


「確かに言われてみれば、それは……そうですよね」


 常松は一つひとつ、店の名前を声に出していく。髭マスGAGAも、頭の中で五つの店を一つひとつ確認する。


「まずは、マスターのお店でしょ、ユリコママの亜空間、隣の居酒屋でしょ、それからL Lだったっけ、あと一つが何だったかなあ……」


そこまで数えたところで、髭マスが、ハッ!!と何かに気がついたように表情を強張らせる。

ただでさえ怖い顔が、余計に危ない顔になっている。


「マスター……どうかしましたか? 顔色が…というかヤバい顔になっていますよ」


「あらあ、常ちゃん、ちょっとね、ヤバいことを思い出したりなんかしてえ〜」

「えっ!? ヤバいことですか??」


 強張る表情とは裏腹に、何故かモジモジしているような動きを見せる髭マスが不気味なオーラを放つ。


「ホント! ごめんなさーーい!! そういえば、そのお店ってばぁ、店名が変わってたのよね〜、あたしったらすっかり忘れていたみたいーー! まいっチ◯グ!」


「マジっすかああー!! それ、もう少し、早く思い出して欲しかったっすー!!」


(あと、まいっチ◯グ、じゃあねえって......)


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